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スポーツ推薦なしでサッカーエリートと戦う戦略とは? 東大実践…“地産地消”のコーチシステム【インタビュー】
OBコーチシステムのメリット
プロ内定者も輩出する熾烈な東京都一部リーグにて昨季残留を果たし、今季は関東リーグ昇格を狙う東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部。以下、ア式蹴球部)。選手全員が東大受験を乗り越え、スポーツ推薦なしで強豪校と戦う彼らの戦略とはなんなのか。今回は、部活を引退後大学院に通いながら「OBコーチ」としてア式蹴球部の勝利に貢献する矢島隆汰さん(新大学院1年)に話を伺った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
◇ ◇ ◇
ア式蹴球部では、引退した選手が大学院に通う傍らコーチとして部に関わり続けるというOBコーチシステムを採用している。現在、10名ほどいるコーチのうち半数はOBコーチが務めている。矢島さんもその1人だ。
矢島さんは、昨年の10月まで選手としてプレー。工学部に所属しており、春からは大学院に進学する。自身の研究テーマである「APN/Local5Gを連接した有無線ネットワークスライシングの研究」の研究に取り組みながら、OBコーチとして部活に関わり続けるといった形だ。
矢島さんがOBコーチをやろうと思ったきっかけは、自分自身が現役時代にOBコーチに育ててもらったという恩があったからだという。
「僕は3、4年生の時はAチームでプレーしていましたが、それまではずっとBチームにいました。なかなか上手くいかないことも多く辛い時もありましたが、そんな時に一緒に動画を見て自分のプレーにフィードバックをくれたり、遅くまで自主練に付き合ったりして自分を育ててくれたのがOBコーチでした。僕はそのおかげで上手くなれたと思っているので、この恩返しをしたいと思い、自分もOBコーチになろうと思いました」
また、OBコーチというシステムは、部員の約半数が大学院に進むという東大の特徴がもたらした仕組みだったという。
「東大では理系のほとんどが大学院に進むなど、院進率が高いのが特徴です。実際に僕自身も理系で、部員の半分くらいは院に進むので、大学院生が研究の合間にOBコーチをやるというシステムが毎年安定して取れるんだと思います。
4年間選手としてプレーしていましたし、選手のみんなも僕がどんなプレーをしてきたのか分かっているので、プレー映像を見せながら『こういうふうにプレーすると上手くいくでしょ』『実はこういう時って意外とこうなんだよね』と自身の経験を基に指示することもできますし、机上の空論にならない説得力のある指導ができるというのはOBコーチのメリットの1つかなと思います。『ア式のサッカーを教える』という点においては4年間の選手経験で戦術の理解も深まっていると思いますし、選手の目線で戦術を落とし込めるのも大きなメリットかなと思います」
未経験からOBコーチに「意外とすんなり順応できた」理由とは?
誰かを指導するという立場は実際にOBコーチになるまで未経験だったという矢島さん。しかし、意外とすぐ順応できたといいます。
「コーチの経験は全くなく、引退してすぐコーチになったので最初は不安でしたが、やってみると意外と教えられるなと感じたのが正直な感想です。
自分は現役時代、結構直感的にプレーしているという感覚があったのですが、コーチをやってみると実は考えながらプレーしていたんだなと気づきました。ア式では複雑なルールが設定された練習メニューも多く、練習中から頭を使うことを求められます。考えてプレーする習慣がついていたので、自分が直感でやったように思えるプレーでも実は自分なりの論理立てがあったし、だからこそサッカーを論理化・言語化して選手に伝えるというコーチという仕事にも慣れることができたんだと思います」
そんな矢島さんのOBコーチとしての目標はなんなのだろうか。
「現役時代もコーチをやっている今も、ア式の勝利に貢献したいという気持ちは変わりません。そのためにコーチとして、ア式の勝利に貢献できるような選手を育てていきたいなと思っています。
練習中はコーチと選手という関係ですが、練習が終わればいつもの先輩後輩の関係に戻りますし、コーチだからといって変に威張ることなく、親身に相談に乗って一緒に成長していけるようなコーチになれたらいいなと思います」
悲願の関東リーグ昇格に向けて成長を続ける東大ア式蹴球部。その裏では「地産地消のOBコーチ」システムがそんな彼らを支えていた。これからの活躍に注目だ。
(FOOTBALL ZONE編集部)