「日本代表が負けた時もそう」 堂安律が語る“絶対王者”と組織論「個の能力が揃ったところで」【現地発】
バイエルンと日本代表の姿を重ね合わせて語った堂安「そこは感じますね」
選手個々の高いクオリティーがマイナスになることはない。個々のスキルで状況を一変させることもできる。ただ、ピッチ上でそれぞれが力を発揮できるような仕組みや共通イメージがないままだと、どれだけ数多くの才能を持った選手が揃っていても、思うようなプレーを試合通して、あるいはシーズンを通してやり続けるのは極めて困難だ。
ドイツにおいてバイエルン・ミュンヘンは言わずと知れた絶対王者。リーグ連覇は直近11回を数え、クラブにおける人件費は他の追随を許さない。ドイツ国内敵なしの存在で、視線は常にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝。その姿勢が高慢に見えることもあり、他クラブサポーターからは心の底から嫌われる。ファンの多さとアンチの多さは、バイエルンというクラブが誇る嫌らしいまでの強さの表れでもある。
今季にしても戦力を見たら他クラブがうらやむような人材がずらっと並ぶ。代表選手のエース級が名を連ね、スタメンだけではなく、ベンチにもトップレベルの選手が控える。どれだけ対策を練っても、どんなに身体を張って必死にプレーしても、90分耐えきることはできずにどこかで崩壊を迎える。対戦相手にとっては、まさにギリギリとの戦いだ。
そんなバイエルンが今季リーグ戦ですでに4敗を喫している。ドイツカップでは3部リーグのザールブリュッケンに敗れた。
3月2日の第24節、日本代表MF堂安律が所属するフライブルクと対戦。前半はいいところが少なくじり貧の展開。最終的にマティス・テルとジャマル・ムシアラの超絶個人技による2ゴールで2-2の引き分けに終わったが、観戦していたファンはその試合内容からとても「王者の風格」を感じることはできなかっただろう。
どれだけ個の能力が揃っていたとしても、選手それぞれがばらばらにプレーしていたら、確固たる決意でこの試合にチームとして臨む相手に勝ち切ることは極めて難しい。
堂安はそんなバイエルンの姿とアジアカップでの日本代表の姿を少し重ね合わせてこんなふうに語ってきた。
「日本代表がアジアカップで負けた時もそうですけど、個の能力が揃ったところでやっぱりチームとしてやることがはっきりしてなくて、バラバラでやってると、どんだけ強い個でもやっぱり負けてしまう。そこは感じますね」
どのようにまとめ上げていくのか…堂安が指摘「いろんなところで解決策はある」
個々のレベルアップで、それぞれができることが増えていくのは間違いなくプラス材料だ。だがその能力を、いつ、誰が、どこで、どのように使うのかが明確にならないと、力を発揮し切れない。
サッカーをしたことがある人やチームスポーツの経験がある人なら、個々がバラバラになると良くないのは誰だって重々承知。指導者も熟知している。チームとしてプレーする必要性は子供も知っている。
では、どのようにまとめ上げていくのか。それが重要になる。堂安は少し考えてこんなふうに答えてくれた。
「すべてじゃないですか。ピッチ内で解決できることもそうですし、ピッチ外のロッカーであったりとか、ミーティングであったりとかもそうですし。監督からの指示であったりとか、キャプテンからの指示であったりとか。いろんなところで解決策はあると思う。1つっていうのは絞り切れないですけど」
クラブチームと代表チームのそれとは違うが、心理的な距離感だけではなく、戦術理解の同一視化も含めてのチームビルディングにおける成熟具合がチームパフォーマンスにも大きく影響を及ぼすのは間違いない。
そのためにどんな手立てが必要なのか。どんな取り組みがポジティブな影響をもたらすのか。それは指揮官や組織によってさまざまなアプローチがあるのだろうが、具体的な目標とそのためのプロセスを明確化し、より包括的で効果的な取り組みが望まれている。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。