北朝鮮サッカー「負けたから強制労働」の真偽 関係者直撃…アジア最終予選の舞台裏【インタビュー】

北朝鮮代表、「負けたから強制労働」の真偽とは?【写真:ロイター】
北朝鮮代表、「負けたから強制労働」の真偽とは?【写真:ロイター】

再度平壌開催を訴え、AFCも検討するも実現せず

 なでしこジャパン(日本女子代表)は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)女子代表とのパリ五輪アジア最終予選で、2月24日のアウェー戦を0-0で引き分けるも、28日のホーム戦を2-1で制し、本大会出場を決めた。

 この最終予選に関してはアウェー戦の会場が試合日直前の21日まで決まらなかった。結局サウジアラビア・ジッダという日朝両国にとって長距離移動を強いられる中立地で行われ、日本女子代表がサウジアラビアに向かって飛び立つ時にはまだ試合時間が決まらないという異例の事態になった。

 さらに、第2戦の前には北朝鮮監督会見で“事件”が発生。27日の前日記者会見で韓国テレビの記者が正式国名を使わなかったことにリ・ユイル監督が難色を示し、翌28日の試合後記者会見では前日のテレビ局と系列の新聞社の質問に対して回答を拒否するなど、緊迫する場面もあった。

 試合翌日の29日、朝鮮サッカー協会関係者が今回の予選の裏側について明かした。

   ◇   ◇   ◇   

——初戦の会場がなかなか決まらなかったのはどうしてでしょうか。

「まず私たちは平壌での開催を強く希望していました。新型コロナウイルスの影響で長らくホームで国際試合を行っておらず、国内のファンが観戦したがっていましたし、サッカー選手も家族の前で堂々としたプレーを見せたいと望んでいたからです。

 ただ、アジアサッカー連盟(AFC)が、平壌への飛行機の定期便が通常運行していないなどの理由から、ファン、メディア、そしてAFC関係者の移動に不安があるとして開催地変更を言ってきたのです。

 当初は中国、ベトナムなど移動が比較的楽な場所が候補となりましたが、両国は他国の国際Aマッチを開催できる準備が整わず、AFCは受け入れ体制があるサウジアラビアを提案してきました。ただ、航空会社に便宜を図るように訴えるなど努力しながら、AFCに対して再度平壌開催を打診したのです。そこでAFCが再考したのですが、そこに時間がかかり、ギリギリまで決まりませんでした」

監督と韓国メディアの緊迫場面は「両国の関係を根本的に変えたことが影響」

——中国南方で合宿をして暑熱対策をしていた、ロシアで合宿をしていたから近い中東を選んだ、という噂がありました。

「寒い時期に中国南方で25日間の合宿をしました。ですが、2月初旬には平壌に戻って地元開催を待っていました。ロシアで合宿したということはありません。実際に、私たちはサウジアラビア開催になったため、日本よりも乗り継ぎが多い私たちは現地入りが1日遅れることになり、自分たちには有利になりませんでした」

——来日は日本よりも1日早くなりました。

「これは、日本がサウジアラビアに向かった時はまだ試合時間が決まっていなかったことが影響したのだと思います。日本は試合が何時スタートになってもいいように、試合翌日に便を取ったのではないでしょうか。私たちは1日遅れてサウジアラビアに飛ぶことになったため試合時間が分かっていて、試合日のうちに移動を開始することができました」

——この2試合はどうご覧になりましたか?

「とてもいい試合だったと思いますし、両チームとも立派に戦ったと思います。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)があればもっとすっきり終われたのでしょうが、それは仕方がないでしょう」

——日本のホーム戦の前日と試合後の記者会見では、韓国メディアと緊迫する場面がありました。

「これは今年に入って両国の関係を根本的に変えたことが影響したのだと思います。(リ・ユイル)監督を刺激して、その反応を載せたかったのでしょう。そちらのほうがインパクトは大きいですから」

——パリ五輪出場を逃したことで、選手たちには懲罰があるのではないかという噂もあります。

「私たちの代表は昔から『負けたから強制労働』と書かれますよね(笑)。でも、もしそんなことがあるのなら、誰もサッカーはしませんよ。プレーすることがリスクでしかない。そんなことはありません。もちろん勝っても負けても原因を分析し、その責任を追及することはあります。ですが、それは日本やほかの国と一緒です。あくまで一般レベルで考えます」

——試合後には両国のファンが両国の代表チームに向かって拍手していました。

「あれは美しい光景でした。監督が会見で『今回の試合を通じまして日本、そして私ども朝鮮民主主義人民共和国のサッカーがこれからさらに発展するきっかけになるものと思います』と言っていたとおり、今後もサッカーの試合を通じて相互理解が深まっていければと思います。今回はおめでとうございました」

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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