「あの川島永嗣が来るんだ」 移籍後に驚きの一報、厳しい正GK争いに直面した24歳の本心【コラム】
神戸から磐田へ期限付き移籍、24歳GK坪井湧也の心境
ジュビロ磐田はホームのヤマハスタジアムで、前回王者のヴィッセル神戸との開幕戦に臨み、0-2で敗れた。序盤は神戸の強度に圧倒されるなかで、セットプレーの流れからリードを奪われて、ようやく慣れて反撃に出るかと思われた後半の立ち上がりに、中盤のミスからショートカウンターで仕留められて、2失点目を喫した。
そのほかのピンチは経験豊富なGK川島永嗣の好セーブなど、なんとか耐えて大量失点にはならなかったが、プレーの強度、攻守のメリハリ、90分間のゲームコントロールなど、ほぼすべてにおいて上回られる形で、J1でも上位レベルの基準というのを突きつけられた格好だ。
その試合を特別な思いで見守っていたのが、神戸から期限付き移籍で磐田に来たGKの坪井湧也だ。神戸のアカデミー育ちでもある24歳の坪井は昨シーズン、前川黛也とポジションを争い、リーグ戦の出場こそなかったが、ルヴァン杯3試合でゴールマウスを守った。そんな坪井は成長を求めて磐田にやってきたが、川島の加入が決まったのは坪井の移籍がリリースされた1週間後だった。
最初は「あの川島永嗣が来るんだ」と驚いたというが、J1では神戸だろうと、磐田だろうと、どこでも厳しいポジション争いはある。もちろん坪井としても、川島や昨シーズンの正GKだった三浦龍輝にも負けるつもりは毛頭ない。ただ、1つ決まっていたのは契約の規定で、神戸との開幕戦には出られないということだった。
「できるだけ、僕が持ってる情報をジュビロ有利になるように。笑」
そう語った坪井は第2節のアウェー川崎フロンターレ戦から出場チャンスを得るべく、キャンプからアピールするつもりだったが、途中で左足のふくらはぎを負傷してしまい、残りのキャンプはリハビリに充てることになってしまった。今は大丈夫という坪井だが”復帰戦”となったのが、神戸戦の翌日に行われたJ2藤枝MYFCとのトレーニングマッチだった。
「今日は復帰して最初のゲームということで、周りの選手どうこうというより自分のプレーに集中したという感じで。クロスボール出るところとか、シュートストップとか、あとはちょっと精度を欠いてしまったんですけど、ビルドアップの長短の配球とか、自分のプレーを意識してました」
そう語るように、坪井自身に慌てた様子はない。しかし、開幕戦はヤマハスタジアムのスタンドから磐田と戦う神戸の選手たちを観て「去年はチームメイトとして観ていて。すごい頼もしい人ばっかりだったけど、やっぱり敵として観た時に、どの選手も改めて怖いな」という印象を抱いたようだ。そして昨年は日本代表にも選ばれた前川についても、改めて存在感を目の当たりにした。
「やっぱり空中戦、クロスボールの存在感というのは誰が見ても、ほかの選手とは違うなというのは感じましたし、あれぐらいの存在感を出していかないと、もっと上には行けないのかなとすごく刺激になりました」
川島とまた別の意味で、チームにもたらせるもの
前川のプレーをそう振り返る坪井は磐田のゴールマウスを守る川島についても、試合を通じて落ち着きや堂々とした振る舞いというのを目にした。坪井は「Jリーグではなかなか出せない雰囲気、そういう時の落ち着かせ方とかゲームコントロールとか。そういうのがあの試合だけでも見えた」と語る。そうした部分は坪井が努力を重ねても、1年や2年で上回れる要素ではないが、できる限り埋めていきながら、自分の強みをアピールしてポジションを掴み取るという意識を持って取り組んでいる。
そして、もちろん坪井としても磐田で試合に出るのが目標ではない。チームの勝利に貢献し、神戸のような相手と渡り合えるように、仲間と一緒に引き上げていくこと。そのためにはGKチームを含めて、全体が高い基準で強度やクオリティーを上げていかないといけない。それを昨シーズンのチャンピオンチームで肌身に知っている坪井の存在というのは川島とまた別の意味で、チームにもたらせるものは大きいはず。
「やっぱりJ1というのは1つの隙で、個のある選手が次から次へと湧き出るように出てきて、それが失点につながってしまう。少しの隙も与えないというのが、チャレンジする僕らからしたら、そういう1点で試合が壊れてしまうので。プレーに関わってない時でも、コーチングみたいなのも大事なってきますし、そこは意識してやっていきたい」
そう指摘する坪井が、磐田で厳しいポジション争いを続けながら、チームにどう影響をもたらしていくのか。そして公式戦でヤマハのピッチに立つ時が来るのか。磐田の成長とともに、そのプロセスを楽しみに見守っていきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。