カメラ越しで見たJ開幕“再現カード”…横浜FM逆転劇の発火点になった「秀逸プレー」【コラム】
【カメラマンの目】J元年の開幕カード、東京V対横浜FMは劇的な展開に
1993年5月15日、日本サッカーはJリーグの開幕によって新たな時代へと突入した。その潮流は日本全土を席捲する強烈なまでのブームを起こし、一気にサッカーはメジャースポーツへと昇華することになる。そして、31年の時を経てJリーグ創設のオープニングマッチのカードが再び開幕戦で実現した。
サッカーというスポーツはプレー中の観客の熱狂を許す。いや、むしろそれを望む。スタジアムに足を運ぶことで観客は仲間たちとつながり、それによって得られる熱狂がある。感動がある。
それにしても試合は劇的な幕切れが待っていた。試合前のスピーチで、プロサッカーリーグ発展へのさまざまな思いが込み上げ声を詰まられた、初代チェアマン川淵三郎氏の感動的な姿もスタジアムを包む好ゲームへの期待を押し上げたのではないだろうか。
Jリーグ初年度に参加したオリジナル10としてのプライドがぶつかり合った試合は、東京ヴェルディが素早いマークで横浜F・マリノスの攻撃の芽を摘んでいく展開で進む。ここで東京Vが守備ばかりに意識を向けていたら、違った内容になっていたかもしれない。球際の攻防は激しく見応えがあったかもしれないが、試合全体としてはボールの奪い合いによって途切れとぎれの展開となっていたことだろう。
しかし、東京Vは横浜FMの攻撃を防ぐだけでなく、反撃の意識も戦術のなかにしっかりと持っていた。ボールを奪うと素早く前線の選手にパスをつなぎゴールを目指した。
そのなかで目に留まったのが染野唯月だ。パリ世代の染野はボールを受けると流れるようなターンで身体を相手ゴールへと向け、そこからドリブルで前線に進出し攻撃を仕掛けていった。このワンタッチから相手ゴールへと向き直る動きが実にスムーズで、東京Vのスピーディーな攻撃に拍車をかけた。
チャンスは少ないとはいえゴールゲットの意識を持ち、それを表現する戦いを実践した東京Vのサッカーによって、攻撃力が魅力の横浜FMと合わせて、試合は長所の出し合いとなる。球際の攻防も相手にサッカーをさせないということよりも、局地戦での勝利が攻撃への布石となり、より試合を魅力的なものにした。
白熱の展開とスーパーゴールが散りばめられた好ゲームに
前半7分の失点でリードを許した横浜FMは、選手交代で東京Vの守備網の攻略を目指す。ハリー・キューウェル監督は大胆にも攻撃の選手を次々と投入して状況の打開を目指し、それが功を奏することになる。
特に後半11分からピッチに立った宮市亮のプレーは秀逸だった。ドリブルで切り込んでのラストパスを見せたかと思うと、右サイドからのクロスに自らゴール前に飛び込み得点を狙った。チャンスメイクとゴールゲットの多彩な動きで横浜FMの攻撃を活性化させ、終盤の逆転劇の発火点となった。
最終盤に2点を挙げるドラマティックな展開から勝利をもぎ取る場面を目の当たりにした横浜FMサポーターにとっては、これ以上ない喜びを感じたことだろう。決勝点となった松原健の得点は、技術的にも時間帯としてもスーパーなゴールだった。
対して東京Vのサポーターにとっては勝敗だけで言えば、落胆の結果となった。それでも先制点となった山田楓喜の直接フリーキック(FK)からのゴールは、彼が秘めた高い技術の結晶と言え、必見の価値あるプレーだった。横浜FMと一進一退の攻防を繰り広げた内容も、J1の舞台で戦える自信につながったのではないだろうか。
勝利のためには敵にサッカーをさせないことは大事だが、それ以上に得点を奪うことによって相手を上回るんだという強い信念を持った選手たちによる攻防は、実に見応えがあった。白熱の展開とスーパーゴールが散りばめられた好ゲームは、選手たちの伝統のクラブを引き継ぐ一員であることへの自覚と、5万3026人の大観衆の声援によるあと押しが作り上げたものだった。