ドイツ歴代9位・長谷部誠の業績「最近は全部記録に」 いつの日か「マコト・ハセベアレーナ」も【現地発】
現役リーグ最年長の長谷部、40歳31日での出場は歴代全体で9位にランクイン
記録の階段を上り続ける元日本代表キャプテン長谷部誠。第22節フライブルク戦に今季初となる先発フル出場を飾り、ブンデスリーガ通算試合数は380。さらにこの試合はフランクフルトでの通算300試合というメモリアルゲームでもあった。それだけに試合後にはフランクフルト公式からもインタビューを受けていた。
現役としてリーグ最年長選手であり、40歳31日での出場は歴代全体ですでに9位に入る。フィールドプレーヤーで見ると5位にランクイン。4位マンフレッド・ブルグミュラー(元ブレーメン)の40歳141日、3位ミロスラフ・ボタファ40歳225日(ブレーメン)。この記録は更新できるのではないかとファンは結構騒いでいる。
長谷部本人はそのあたりをどのように受け止めているのだろう?
「周りの方からそうやって言ってもらうぶんには、全然ありがたいです。ただ僕自身はそんなに気にしないです。もう最近は全部が記録になってしまうのであれなんですけど(笑)。あんまり個人的にはそういう数字はそんなに関係なくて。今日のようなチャンスが来た時にどれだけ自分が出せるかっていうことにフォーカスしてるかなという感じですね」
もちろん現役選手なのだから、試合でのプレーや練習での取り組み、その振る舞いが先ず語られるべきことなのは間違いない。チームを助けられるだけのものをピッチにもたらせないと、経験をどうこうというのも言えない。そしていまだピッチ上でもチームを助けられる自信と自負があるからこそ、長谷部が向けるベクトル先はあくまでも自分の『今』なのだろう。
ただそうはいっても、長谷部が踏み入れている領域は世間が騒がずにはいられないものなのも確かだ。40歳という年齢だけではなく、クラブでの出場数、そして模範的な選手として、キャプテンとして、リーダーとして、クラブにおける貢献度は『今』だけではなく、クラブの未来にも限りない価値あるものなのだから。
フランクフルトのスタジアムが『マコト・ハセベアレーナ』となる日も
例えばフィールドプレーヤーで9位のマックス・モーロックは38歳364日での出場記録を持ち、ニュルンベルクのスタジアム名になるような存在だ。
ネーミングライツが当たり前になっているスポーツ界で、ニュルンベルクのスタジアムもスポンサー名を冠した時代もある。だが、ファンがこれに猛反発。自分たちの象徴であり、生き字引でもあるマックス・モーロックをスタジアム名にしようという運動を始めた。
モーロックは1954年ワールドカップ(W杯)優勝メンバー。後に「ベルンの奇跡」と呼ばれる西ドイツ代表の優勝劇に多大な貢献をし、クラブでも2度のリーグ優勝と年間最優秀選手選出を果たしている。どれだけ有名になっても謙虚で忠実。クラブ愛を貫き通した人物として、ファンから最大限のリスペクトを享受している。そして2016年に命名権を獲得したコンゾーアス銀行は自分たちの名前ではなく、このマックス・モールックというクラブのすべてを象徴する名前を付けたのだ。
ニュルンベルクで24年間プレーをし、472試合で294ゴールという、とてつもない成績を残して1994年にこの世を去ったモーロック。ドイツサッカー界全体においても別格中の別格で、比類なき存在ではある。もちろん同じところまで長谷部がたどり着いたということではない。
でも、いつの日かフランクフルトのスタジアムが『マコト・ハセベアレーナ』となる日もひょっとしたらくるかもしれないし、その可能性はゼロではないかもしれないよね、と思えるところまで1人の日本人が到達しようとしている。
やはり凄いとしか言いようがない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。