クロップが遠藤航を笑顔で抱擁…「とにかく楽しみ」リバプールで主軸の“今”何を思う?【現地発】

ルートン戦に出場した遠藤航【写真:Getty Images】
ルートン戦に出場した遠藤航【写真:Getty Images】

ルートン戦カムバックの裏に遠藤あり

 リバプールは動じない。ホームにルートン・タウンを迎えた2月21日のプレミアリーグ第26節での逆転勝利(4-1)が、改めてそう感じさせた。

 今季のチームは、すでに“カムバック・キング”の異名を頂いている。ビハインドから奪った勝ち点は計22ポイント。20チーム中最多の数字となっている。だが前半を0-1で終えた時点では、リーグ首位が昇格1年目の18位に大番狂わせを演じられる可能性も否定はできなかった。

 リバプールは2桁台の故障者を抱えていた。攻撃面でも重要な右SBのトレント・アレクサンダー=アーノルドや、リーグ戦過去5試合で4得点だったFWのディオゴ・ジョッタも含まれる。4日後にチェルシーとのリーグカップ決勝を控えていたこともあるはずだが、前節で負傷したモハメド・サラーとダルウィン・ヌニェスの両FWもベンチ外となっていた。

 結果、アンフィールドのピッチに送り出された先発イレブンは、平均年齢が25歳と68日の若さ。ただでさえ過渡期の“リバプール2.0”は、過去8年間で最も若いリバプールとして、前日に2位マンチェスター・シティが1ポイント差に詰め寄った直後の一戦に臨んでいた。そのチームが、立ち上がりから7割近くボールを支配していながら前半12分に失点。まさかの展開に焦りの色が見えても不思議ではなかった。

 だが実際は、引き続き攻撃色だけが強く打ち出された。先制点を許してから3分足らずで、コーディ・ガクポがシュート。この日のセンターフォーワードにパスを通したのは遠藤航だった。特別に目立つ活躍があったわけではない。本人も、試合後にこう振り返っている。

「満足はしてないですけど、良くはなっていると思う。自分の良さはこれぐらい出せると思って(リバプールに)来ているわけなので、自分からすると最低限やらなきゃいけないタスクをやっている感じ。悪くはないとは思っているし、周りも今は攻守において信頼してくれていると思う。守備はうしろの選手とコミュニケーションを取りながらやっているし、前との絡みもかなり良くなってきていると思うので、そこは継続してやっていければ」

 国内メディアの採点を見ても、後半に同点のヘディングを決めたフィルジル・ファン・ダイク、同じくガクポが頭で決めた逆転ゴールと合わせて2分間で2アシストのアレクシス・マック・アリスター、精力的なプレーで同45分にとどめの一撃を叩き込んだハービー・エリオットらが、10点満点中8、9点の高評価。遠藤には7点が多かった。

 しかしながら、ルートンのロブ・エドワーズ監督曰く「後半にアクセル全開」となった、リバプールにおける縁の下の力持ちは遠藤にほかならない。まさかの展開にも揺れなかったチームの中盤中央では、アジアカップを挟んで連続9試合目のリーグ戦先発となったアンカーマンが安定感の源となっていた。

身体を張ったデュエルでチームに貢献【写真:ロイター】
身体を張ったデュエルでチームに貢献【写真:ロイター】

遠藤が語る“経験ある選手”としての責任

 その姿を前に筆者は、第23節でチェルシーが4失点でウォルバーハンプトンに敗れた試合を思い出していた。敗軍のボランチは、リバプールを選んでいれば遠藤の移籍がなかったモイセス・カイセド。ブライトンでの昨季ほど強さが感じられないチェルシー新MFは、ボールロストを繰り返した。敵に狙われていたと言っても良く、1時間程度で交代を命じられている。

 主力の入れ替えと若返りは、今季のリバプールも同様だ。ルートン戦の前半には、一緒に戦い慣れていないチームを思わせる様子も垣間見せた。しかし、遠藤は黙々とやるべきことをやっていた。セカンドボールを拾っては、チームを前へ突き動かそうとしていた。

「怪我人が多い分、自分はとにかくフレッシュにやり続けるというか、目の前の試合を1個1個やっていくしかないと思っている。自分がやらなきゃいけない。新しく出た選手とか若い選手が出てくるので、自分も新人ではなく、そういう選手たちのサポートもしなきゃいけない。経験ある選手に求められるタスクの1つでもあると思うので。周りとの関係性とか、若い選手のサポートを含めてやっていかなきゃいけない」

 そう語る遠藤が中盤にいるリバプールには、集団としての体幹の強さがあった。自らは、マンツーマンで注視されていた。マークについたのは、本来は攻撃的MFのロス・バークリー。相手はゲームメイカーの持ち味を犠牲にしてまで、体格で勝る「影」をリバプールのアンカーにつきまとわせた。

「今日はフィジカル的にもタフな相手だったので、どこまで相手がついてくるのかっていうところは、センターバックの間に落ちてみたり、逆に高い位置を取ったり、裏を取ろうとしたりみたいにして、そういう駆け引きがあるなかで、(自分が)最後まで動き続けられるかが大事。最終的には、自分たちのほうが優位性を持って試合を進められたかなと思います」

試合後の喜びの表情を見せたユルゲン・クロップ監督【写真:ロイター】
試合後の喜びの表情を見せたユルゲン・クロップ監督【写真:ロイター】

リーグカップ決勝へ「監督のためにタイトル獲りたい」

 相手コート内でマークを剥がし、ライン越しに浮き玉を放り込んだのは前半30分。呼応したルイス・ディアスのシュートは枠外だったが、アシストに値するクオリティーを有するプレーだった。ディアスは後半26分にチーム3点目を決めるのだが、トップギアへのシフトアップを可能にする土台を支えた「6番」の存在がなく、チームに焦りが見えていたとしたら、左ウインガーはゴール前での硬さが抜けないままだったかもしれない。決めなければとの意識が強すぎたのか、ディアスは前半に放ったシュート6本中5本が枠外だった。

 逆転で2点差とした10分後、遠藤が再びチャンスを作り出した場面は、明らかになっていた力の差を象徴しているかのようだった。ハーフウェーライン付近でバークリーから奪って前線に送られたパスは、ガクポが確実にアシストへと変えているべきだった。

「ああやってパッと剥がせればチャンスになったり、そこはマンツーマンで来る相手の弱点みたいなところなので、そこをうまく活かしながらっていうのはありましたし、いい距離を取りながら、マークを剥がして崩したシーンはあったと思うので、そこは良かったと思う。ガクポに出したやつとかも、ああやってあそこで奪えることが大事。自分の良さは、最後まで足を動かし続けることだと思うので」

 その数分後、プレー中断時に水を飲みに遠藤がベンチ前に走っていくと、そこには笑顔で抱きしめるユルゲン・クロップがいた。勝利を告げる笛が鳴ると、リバプール指揮官は拳を突き出してファンと掛け合う定番のパフォーマンス。ただし、この日は「コップ」こと熱狂的なゴール裏スタンドだけではなく、四方の全スタンド前でファンとの掛け合い。それだけ大きな逆転勝利だったのだ。

 リバプールは、逆境とも言うべきチーム事情だったにもかかわらず、シティとの差を4ポイントに戻して首位を維持したうえ、リーグカップ決勝に向けて弾みまでつけることに成功した。2月25日の大一番は、クロップ体制最終シーズンのタイトル第1号を懸けた戦いでもある。移籍してまだ半年の遠藤も言っている。

「多分、監督に対する思いは、みんないろいろと心の中で思っていることがある。自分は、それを表に出しているわけでもないし、普段どおり、毎試合毎試合やっている感じですけど。もちろん、取ってくれたという感謝はあるし、監督のためにタイトルを獲りたいっていう風には思っている。ファンも、勝ちたいという思いを持って盛り上げてくれるし、今日の後半も、自分たちが勢いを持ってやっている中の彼らの雰囲気は素晴らしかった。みんな最後、いい形で終わりたいと思っているんじゃないですか」

 舞台となるウェンブリー・スタジアムは、自身初体験となる。「9万人とか入るっていう話なので、サポーターの雰囲気もまた一段と凄いと思うし、自分に(とっては移籍後の)初タイトルが懸かっているので、とにかく楽しみな気持ちです」と、プレミアでも主軸と化したリバプールの31歳新アンカー。決勝のウェンブリーでは、カイセドが選んだチェルシーとの中盤対決も楽しみだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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