新生・浦和レッズ「へグモ式」流儀とは? ノルウェー名将のカラー紐解く“4つの見どころ”【コラム】
ヘグモ新監督率いる新生・浦和、新シーズンで抑えるべき4つのポイントにフォーカス
浦和レッズはノルウェーの名将として知られるペア・マティアス・ヘグモ新監督が率いる2024シーズンを戦う。主力の多くを留めたうえで、スウェーデン代表MFサミュエル・グスタフソン、2022シーズンJ1得点王のFWチアゴ・サンタナなど、指揮官のスタイルに見合う大型補強を行った浦和の目標はもちろん、2006年以来となるリーグ優勝だ。
そのためには開幕戦から順調に滑り出し、勝利を積み重ねていくことが大事になるが、浦和のファン、サポーターはもちろん“他サポ”のJリーグファンでも楽しめる見どころが多い。今回は4つに絞って紹介する。
■ハイレベルなスタメン争い
ヘグモ新監督は4-3-3をベースに戦うが、戦術面はシンプルに整理されており、それぞれの選手がポジションに応じて、個性を発揮しやすい設計ができている。それだけに選手たちがスタメンを目指してアピールするべきプレーイメージも明確であるようだ。へグモ監督は試合の数日前から、広島との開幕戦で送り出すスタメンは決めているという。
昨シーズンのJ1ベスト11だったセンターバックのアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテン、GK西川周作、キャプテンの酒井宏樹あたりは現時点でスタメン有力だろう。右サイドバックでは湘南ベルマーレから加入した石原広教、センターバックではガンバ大阪から佐藤瑶大、京都サンガF.C.から井上黎生人が加入しており、練習からヘグモ監督にアピールを続けている。すぐに序列が逆転することはないだろうが、長いシーズンのどこかで、彼らにもチャンスが来るはずだ。
一方で、伊藤敦樹をはじめ小泉佳穂、関根貴大、中島翔哉、安居海渡、エカニット・パンヤなど、個性的なタレントがひしめくインサイドハーフは試合ごとにスタメンが入れ替わってもおかしくない。ポジションチェンジが少なく、あまり流動的ではないスタイルで、インサイドハーフは比較的、行動範囲が広く攻守の消耗も激しいため、選手交代に使われやすいポジションでもある。
“へグモ式”4-3-3のヘソに当たるアンカーはグスタフソンがファーストチョイスとなるが、もう1人のレギュラークラスとして岩尾憲が控えており、浦和にとっては強みとなるセクションだ。さらに安居もこのポジションでクオリティーの高いプレーは出せるが、しばらく過密日程もないなかで、アクシデントがない限りはグスタフソンを軸に、岩尾が頼れるセカンドチョイスとして構える形で確立されて行きそうだ。
左サイドバックは昨年の主力から荻原拓也がクロアチアのディナモ・ザグレブ、明本考浩がベルギーのOHルーヴェンに移籍し、オフシーズンの懸案事項になっていたが、アタッカーとしてFC東京から獲得したと考えられていた渡邊凌磨が、キャンプから左サイドバックで目覚ましい適応を見せて、ヘグモ監督の評価と信頼を勝ち取った。パリ五輪世代の大畑歩夢、FC岐阜から戻ってきたベテランの宇賀神友弥もおり、むしろ層の厚いポジションとなっている。
左右のウイングが新チームの主役に…10G10Aがタイトル奪取の指標
■ベンチ入りメンバー
スタメン11人争いもあるが、それ以上にベンチ入り18人の競争が熾烈だ。理由はフィールドの10人を6人で補う必要があるから。それぞれのポジションに最低1人は実力者がいると言っても、そのすべてをベンチに入れるわけにはいかない。ヘグモ監督は来日した時に、ベンチ入りメンバーの人数を知って驚いたというが、GKを除く6人をどう組んでいくかは注目ポイントになる。
その鍵を握るのが、複数のポジションをこなせる選手だ。その意味で中盤の全ポジションをこなす安居はもちろん、インサイドハーフとウイングで使われる早川隼平、センターフォワードとウイングをこなせる“カルロス”こと髙橋利樹などにも、開幕ベンチ入りのチャンスがある。その一方で違いを作り出すアタッカーも勝負どころで必要になることはヘグモ監督も認めており、興梠慎三は仮にチアゴ・サンタナがFWのスタメンで起用されても、勝負のカードになるだろう。
スタメンの11人はオラ・ソルバッケンや伊藤敦樹の状態次第だが、当面そう大きく変わることは考えにくい。しかし、ベンチ入りメンバーに関しては毎試合ごとに、トレーニングでの競争が反映されていくはず。もちろん対戦相手との兼ね合いも含めて、ヘグモ監督の思考を読み解く意味でも、スタメンと同じかそれ以上に、注目していってほしいテーマだ。
■ウイングが主役
“へグモ式”4-3-3の主役は間違いなく左右のウイングだ。そして浦和のフットボール本部が、最も補強に力を入れたセクションと考えられる。左はベルギーのKVCウェステルローから復帰したアカデミー育ちの松尾佑介、右は名古屋グランパスから獲得した左利きの前田直輝が加わった。そしてイタリア1部ASローマから半年の期限付き移籍でやってきた、ノルウェー代表の俊英ソルバッケンが左右のウインガーとして違いを見せる。
彼ら3人にインサイドハーフとの二役をこなす関根、さらに18歳の早川などが選択肢になる。アンカーの岩尾が「いかにウイングのところまでいい形でボールを運べるか」と語れば、右ウイングの前田は「やりがいはめちゃくちゃあります」と気合いを込める。実際にキャンプの練習試合でも、チャンスのほとんどはウイングから作られて、ボールに関わっていない逆サイドのウイングは多くの局面でフィニッシャーになっていた。
ヘグモ監督は新加入のサンタナに20ゴールを期待しているようだが、その結果を導けるかはウイングの仕事ぶりにかかっていると言っても過言ではない。チアゴが20得点なら、左右のウイングは10ゴール10アシストが、タイトル奪取の指標になってくるだろう。
ドリブラー関根がチームで最も重要な役割を担う1人に
■関根貴大の“二刀流”
今シーズンのチームで最も重要な役割を担う1人が、実は関根だと見ている。紅白戦でもレギュラー組と見られるチームで、関根はインサイドハーフとウイングの両方に入っていたからだ。これまでリカルド・ロドリゲス、マチェイ・スコルジャという前任の監督のもとでもアウトサイドとインサイドの両ポジションで使われた経験を持つが、ヘグモ監督の下ではより役割意識を明確にしている。
「自分的には勉強の頭は良くないですけど、サッカーの理解度だったり表現力は近年、伸びてきてるなというのはすごく感じていて。今このサッカーをやっていて、役割を全うするというところで、すごくスムーズにできる自信はあります」
そう語る関根は“8番”と呼ばれるインサイドハーフの時はワンタッチを中心に、できるだけシンプルにボールをつないで左右のウイングを生かしたり、タイミングよくゴール前に顔を出す。また左サイドバックにコンバートされた渡邊が賞賛するように、気の利いたサポートでサイドバックの攻め上がりを助ける仕事もこなす。
本人がウイングになった時には“8番”のプレーというのは一切切り離して、縦の突破や鋭くゴール前に切り込むなど、ウインガーのスペシャリストとして振る舞う。関根は「ポジションで役割が全然違うので、切り替えやすいなと。8番では8番のプレー、ウイングはウイングのプレーで、同じプレーをするつもりはない」と強調する。
インサイドハーフで“8番”の役割を担いながら、いざウイングに回れば、かつての関根のイメージさながらに、松尾や前田、ソルバッケンにも負けない個の打開に集中する。そんな関根に「二刀流ですね。笑」と投げかけると「はい、大谷(翔平)選手になれるように頑張ります。笑」と返ってきた。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。