大舞台で名手ノイアーから2得点…浅野拓磨が明かした本音「僕にとって1つ難しい」【現地発】
バイエルン戦でノイアーからゴールを奪った浅野
その瞬間は突如としてやってきた。
ブンデスリーガ第22節のバイエルン・ミュンヘン戦。0-1のビハインドで迎えた前半38分、自陣でのボール奪取からカウンターがスタートすると、ボーフムの浅野拓磨はアントニー・ルジアとのワンツーで抜け出しに成功する。そのままスピードに乗ってゴール前まで運び、マタイス・デ・リフトを振り切って思い切りのいいシュートを放つと、マヌエル・ノイアーの守るゴール左隅に決まった。このゴールがチームに勢いをもたらし、最終的に3-2で勝利。ボーフムはバイエルンに対して2年ぶりに勝ち星をつかむに至った。
またしても大一番でインパクトのあるゴールを奪った。思い出すのはカタール・ワールドカップ(W杯)でのドイツ戦。その時もゴールを守っていたのはノイアーだった。当時はニア上を撃ち抜く強烈なシュートで得点を奪ったが、今回は低弾道のシュートで牙城を崩した。ここぞの場面で決める勝負強さは、まさに浅野の真骨頂が発揮された瞬間だった。
「シュートは完全に思い通りのシュートが打てたかなと思います。1つ目のパスがずれてしまったなという感じがありましたけど、キャプテンがあそこで粘ってくれて、あとはもう走るだけでした。あのシーンは今日だけではなくて、どの試合もああいうシーンあるんですけど、今日は思い切って打ってよかったかなと思います」
この活躍にはドイツメディアも称賛。ドイツ誌「キッカー」はこの試合トップ評価の採点「2」をつけ、「ボーフムの多くの攻撃がボーフムの浅野拓磨を通じて展開された」と評価しながら週間ベストイレブンにも選出するほどだった。
浅野にとってはアジアカップの鬱憤を晴らす得点となった。日本代表の一員として参加したアジアカップは、出場機会こそ得たものの大きな活躍を残すことができず。「代表中、コンデイション調整が自分の中で難しいなというのをすごく感じていて、試合に出た時もなかなか自分の思い通りにプレーできなかったり、フラストレーション溜まる中でやっていた」と振り返るほど、“結果”という面で悔しい大会となった。
それでも、クラブに戻ってからは2試合連続でスタートからピッチへ。トーマス・レッチェ監督からの信頼を感じているからこそ、チームの中心として結果を残そうと奔走していた。そして、アジアカップでの失敗を次につなげようと邁進する浅野の姿がある。
「もう過ぎてしまったことはどうすることもできない。本当に悔しい気持ちしかない。その中で、このチームに帰ってきたので、とにかく自分のためにやるしかないな、と。正直、今はすべて割り切って、このチームのためにまずは100%を注がないといけない、ここで集中してやらないといけないなと戻ってきて感じています」
そういった思いを抱えていた中でのバイエルン戦でのゴール。強敵相手のゴールであり、再びノイアーからゴールを奪えたことで「少しは大きい顔もできるのでは」と聞くと、浅野は「僕はあまり気にしないです」と笑いながら自身の思いを口に出した。
「逆にそこを気にしてしまうのは良くないというか、僕はそこで調子に乗れるタイプではない。浮かれてはダメだというふうに、どうしても昔から思ってしまうタイプなんですよね。そこで調子に乗れたらもっとでかいことを言って、チームの中でも存在感を発揮できるのかなと思うんですけど……。それは僕にとって1つ難しいことなのかなと。だから、とにかく自分に集中して、あまりこの結果も考え過ぎず、次の試合に向けて切り替えてやっていきたいと思います」
人それぞれタイプがあると思うが、こういう時に調子に乗らず、ひとつひとつ目の前の試合に集中して臨んできたからこそ浅野は欧州で活躍を続けているのだろう。自分にできることをまずは徹底し、うまくいかなかったことは改善する。そのルーティンをこなしながら1歩1歩前進しているのだ。
「リーグで10点取るというのはシーズンが始まる前にチームのみんなに言っていましたし、そこは最低限達成したいこと。それが自然と達成できれば、チームの勝利に貢献できていると思います」。そう語った浅野は現在、ブンデスリーガで6得点を記録。すでにドイツでのキャリアハイを記録しているストライカーは、さらに得点を積み重ねていくことで自身の存在価値を証明しようとしている。
林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。