甲府の健闘を象徴した試合後の光景 J2クラブがアジア初舞台で掴んだ「誇り」【コラム】
【カメラマンの目】初のACL参戦で歴史を刻んだクラブの冒険は終結
試合後、ヴァンフォーレ甲府の三平和司が、健闘を称え合うように蔚山現代の選手たちと握手を交わす。カメラのファインダーのなかの三平には落胆の色はそれほどなく、どこか誇らしげにも見えた。
AFCチャンピオンズリーグ・ラウンド16の第1戦を0-3で落とした甲府は、準々決勝に進むためには、もはや攻めるしか道はなかった。90分間の勝負において、蔚山の攻撃をシャットアウトし、さらに延長戦での決着を視野に入れたとして、少なくとも相手ゴールを3度、抉じ開ける必要があった。
その意気込みを表すように、甲府は試合開始からアグレッシブなサッカーを見せる。ピーター・ウタカやファビアン・ゴンザレスらFW陣が、前線から積極的に蔚山現代の選手にプレッシャーをかけ追い込んでいく。そして、マイボールにすると木村卓斗のドリブル突破や小林岩魚の力強いキックによるパスから得点を目指した。
しかし、蔚山の牙城はやわな作りにはできていなかった。そして、甲府は前掛かりとなっていたところを狙われ、前半11分と早い時間帯にカウンター攻撃を受けて失点を喫してしまう。
ホン・ミョンボ監督に率いられた蔚山は実に試合巧者だった。甲府にボールを持たれても慌てず、ゴール前を固めて失点を許さない。
しかも、その防御方法はただ守るだけの一辺倒ではなかった。ひたすら守るだけではプレーのリズムに変化がなくなり、単調となったところに隙が生まれることを警戒してか、時に最終ラインで素早くボールを回して、甲府の選手たちを揺さぶり、消耗させるスタイルも見せた。蔚山はこのボール回しとゴール前を固めるスタイルを巧みに使い分けて甲府の攻撃をかわし、結局は危なげない試合運びで勝利する。
対して積極的に攻撃を仕掛けた甲府だったが、ゴール前へのラストパスやシュートに正確性を欠き、その姿勢を勝利へと結び付けることはできなかった。チーム全体に勢いがあり攻撃の形も作ったが、相手の守備網が待ち受けるゴール前では、やはり精度が低かった。後半途中から出場した三平がヘッドで同点弾を決めたが、アディショナルタイムに再び失点し試合は1-2で終了。甲府のアジア王者を目指した戦いはベスト16で終わった。
しかし、蔚山に敗れはしたものの、甲府の選手たちは現状で彼らが持つ実力を出し切ったと思う。韓国の強豪相手に果敢に挑み、できる手はすべて打ったという印象を受けた。サポーターも第1戦の敗戦による劣勢を挽回しようと懸命に戦った選手たちの姿に、清々しさを感じたに違いない。
そうした思いは、試合後に挨拶のためにスタンド前へとやって来た選手たちを暖かく迎えた姿に表れていた。スタンドからこれからも応援し続けると発せられた言葉に、三平は何度も頷く仕草を見せた。
天皇杯優勝から始まった甲府のアジアを舞台とした挑戦はここに終わった。しかし、J1復帰を目指す戦いはこれから始まる。新たな目標に向かって戦いは続く。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。