ACL敗退の川崎、ターンオーバー失敗の声も…無謀日程で“らしさ“発揮 鍵はいかに使いこなすか【コラム】
過密スケジュールを乗り切るためにターンオーバーを採用した川崎
ターンオーバーという言葉が使われ出したのは1990年代前半と記憶している。当時絶頂期だったACミランがセリエAとチャンピオンズリーグ獲得のために、遜色ない2チーム相当の戦力を保持しようとした。セリエA優勝メンバーにサビチェビッチ、パパン、ボバン、当時最高額約30億円を払って獲得したレンティーニなど大補強を行った。
ただ、ターンオーバーといっても、ディフェンスラインはほぼそのままで主にアタッカーの入れ替え。リーグ連覇は果たしたがチャンピオンズリーグでは決勝でマルセイユに敗れ、コッパ・イタリアも獲れなかったので、効果のほどは微妙だった。黄金時代を支えたフリット、ライカールト、エバーニが退団、ファン・バステンも負傷が癒えず、ターンオーバー構想は1シーズンで終了となっている。
しかしその後、欧州サッカー界は日程がどんどん過密化し、ウイークデーのカップ戦と週末のリーグを戦い抜くにはターンオーバーが不可欠になっていった。欧州カップ戦と国内のカップ戦、リーグ戦を掛け持ちするビッグクラブにとって、ターンオーバーはもはや常識であり必須である。
川崎フロンターレはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)、スーパーカップ、ACL、J1開幕戦が続く過密スケジュールを乗り切るためにターンオーバーを採用した。
山東泰山とのACLラウンド16第1戦(アウェー)に3-2で勝利したあと、中3日で東京・国立競技場でのヴィッセル神戸戦に1-0と連勝。しかし、中2日で行われたホームの山東戦は2-4で落とし、ACLはベスト16で敗退。そして中3日でJ1開幕戦(湘南ベルマーレ戦)を迎えることになる。
主力選手の入れ替わりがあり、キャンプ直後に中国へ。さらに無謀なほどの日程での連戦。ACL敗退でターンオーバー失敗を指摘する声もあるが、ほかにどうしようもなかったと思う。
山東との第2戦は、前半に2点を先行されたものの、後半14分には同点に追い付いていた。2試合合計では5-4とリード。同28分にはクリサンの見事なシュートで合計5-5とされたが、同39分にはエリソンが抜け出してGKにファウルされ、山東のGKにはレッドカードが出ていた。結局、オフサイドがあったとしてレッドカードは取り消されたのだが、川崎はチャンスを作れていた。山東の4点目(合計6点目)はロスタイムのゴール。前半のミスがらみの2失点は悔やまれるが、川崎らしい攻撃も随所にあり、ターンオーバーのせいで負けたという感じはしない。
ともあれ、今後も過密日程はJ1のトップチームには必ずのしかかってくるはずで、ターンオーバーをいかに使いこなすかは重要なポイントになるだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。