Jリーグ、求められる判定“バラつき”の改善 元国際主審、アジア杯から見たVAR傾向【見解】
【専門家の目|家本政明】アジア杯のレフェリング傾向を分析、Jリーグへの期待にも言及
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を含めた判定の話題は世界中で絶えない。カタールで行われたアジアカップでも、いくつかの事象が注目を集めた。今回は元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が、アジアカップのVARジャッジの傾向を分析。2月23日に開幕するJリーグの話題も含めて考察している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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アジアカップの決勝は、カタールが3-1でヨルダンを撃破。中東対決は開催国に軍配が上がることになった。日本は準々決勝でイランに1-2で敗れベスト8の結果に終わっている。今大会を通してのVARの介入基準について、家本氏は感じた率直な印象を明かした。
「JリーグのVAR介入の基準とは、やはり少し違いがあるなと思った。(アジアカップは)より正確性に寄った印象がある。それが世界的なトレンド(流れ)なのか、アジアカップだけなのかは正直分からないけれど……。Jリーグと比べた時にVAR介入の基準点が少し低かった、結構VARが(事象に)介入していたという感触はある」
競技規則の記載では、VARの介入条件(主審へのレコメンド条件)は2つ。「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」に限られる。場面としても「得点か得点でないか」「ペナルティーキック(PK)かPKでないか」「退場(2つ目の警告によるものではない)」「人間違い」の4シーンのみだ。
ただ、先述の介入条件2つには主審の主観も含まれている。こうしたなかアジアカップでは、「結構(VARが)介入していた」と家本氏は感じていたという。
Jリーグの新シーズンの傾向が変化するのかは重要なファクター
Jリーグの昨シーズンを終えたタイミングで、家本氏に全体レフェリングの総括を尋ねたことがある。その際には「『これは介入する』『これは介入しないんだ』とバラついた印象を多く受けた」といった意見を述べていた。
その背景も踏まえ、新シーズンは「もしかしたら(VAR介入の)基準が変わってくるかもしれないので、そこは注目したい」と注目ポイントに挙げる。
「(昨季まで)はっきりとした明白な間違いなどが見逃された事例もあった。基本的には『主審の判断を尊重します』というのがJリーグのスタンスだったが、もしかすると世界の流れはもう少し正確性重視のほうに寄っているのかもしれない。今回のアジアカップがそうだけど、その傾向にJリーグも寄っていくのかっていう観点には注目したい」
もしアジア杯のようなVAR活用法に近づくならば「介入は絶対に増える」
仮にVARの介入基準がアジアカップのように“正確性”の傾向に近づいた場合、「VARの介入は絶対に増えるだろう」と家本氏は予想する。テクノロジーの一部であるVARは、サッカー界ではまだ“調整段階”。今後もさまざまな微調整は入ってくる可能性も否定できない。
家本氏は「(昨季のJリーグは)レフェリーの判定が安定しなかったシーズンなので、今シーズンはもっと整えて欲しいという希望もある。それは僕の希望というより、選手、サポーター・ファンが強く望んでいることだと思う」と期待を口にした。
「選手にとっても見る側にとっても、(メディアなど)伝える側にとっても、今シーズンのJリーグのレフェリーたちが安定したパフォーマンスになってくれると、よりみんながサッカーを楽しめるし、皆の喜びがレフェリーの喜びにもつながるので頑張ってほしいです!」
いよいよ23日に開幕を控えたJリーグ。VARにも日々小さな変化が起こっているなか、日本の審判員の適応、進化にも目を光らせていきたい。
(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。