プレミア新ルール候補の「ブルーカード」って何? 「クソ食らえ」の意見も…英国のリアルな声【現地発】

プレミアリーグにてブルーカードが実装?(写真はイメージです)【写真:ロイター】
プレミアリーグにてブルーカードが実装?(写真はイメージです)【写真:ロイター】

プレミア監督陣と現地ファンは一様に否定的なリアクション

 イングランドのメディアが、プレミアリーグの新ルールとして「ブルーカード」導入の現実性をこぞって報じたのは2月8日。導入の可能性は昨秋にも伝えられたが、翌日に競技規則を制定するIFAB(国際サッカー評議会)が試験導入スケジュールを発表すると見られていたことから、より注目度の高いニュースとなった。

 ブルーカードによる警告は、判定に関する過度の抗議をはじめ、審判に対する侮辱的な行動や態度を取った選手、さらには敵の危険なカウンターを未然に防ごうとした場合など、露骨なテクニカルファウルを犯した選手が対象とされる。提示された選手は、ピッチ外の「シンビン(罪の箱の意)」で頭を冷やす10分間の一時的退場処分。同じ試合でのブルー2枚、またはイエロー1枚とブルー1枚は、通常のイエロー2枚と同じく退場処分を意味する。

 シンビン自体は、5年前の草の根レベルを皮切りに、男子は9部以下、女子は3部以下の国内リーグですでに採用されている。FIFA(国際サッカー連盟)は、トップリーグでの試用を「時期尚早」とする見解を示したが、イングランドFA(サッカー協会)には男女双方のFAカップをトライアルの舞台とする用意があるとされ、プレミアへの導入は時間だけの問題とも考えられた。

 ちょうど第24節前の会見を行うタイミングでもあったプレミア監督陣の反応は、ほぼ一様に否定的だった。そのスタンスは、プレミアファンの気持ちを代弁していると報じられた。間違ってはいない。同節に筆者が取材した試合の会場では、「ブルーカードなんてクソ食らえ!」とまで言うファンの声も聞いた。

 発言の主は、シェフィールド・ユナイテッドのサポーター。アウェーでのルートン・タウン戦(3-1)に駆けつけた1350人の1人だ。彼を含む3人組とは、ルートン駅でロンドンに戻る電車を待つプラットフォームで一緒になった。シェフィールドは逆方向のはずだが、急行で20分のロンドンに出て直通列車に乗る方が楽なのだとのこと。直訳すれば「ヤツら(IFAB)のケツの穴にでも突っ込んでおけ」となる表現でブルーカード導入案に反発する横では、彼の友人2名も「頭でっかちなだけで奴らはサッカーを分かっちゃいない」「ただでさえ低能な審判の仕事を増やしてどうする!?」と、厳しかった。

ブルーカード導入で試合の魅力度は減少する?

 ひょっとすると、復帰1年目のプレミアでは貴重な「勝利の美酒」の勢いも手伝った発言だったのかもしれない。第6節からほぼリーグ最下位に落ちたままのシェフィールドが、敵地での下位対決で丸2か月ぶりの勝ち点3と残留への微かな希望を手にした直後だったのだ。とはいえ、試合前に話を聞いたルートンのサポーターたちからも新ルール歓迎の声は聞かれなかった。

 最初に声を掛けた2人組の1人は、「ニュースになっていたな」という程度の認識で、「キーパーがブルーをもらった場合は?」と訊いてきた。フィールド選手の1人をGKに回せるが、10分後にシンビンを出るGKは一旦、フィールド選手としてピッチに戻ることになり、直接GKとして戻すにはプレーの中断を待つ必要があると説明すると、「また試合時間が長くなるのか」という反応。もう1人が「アイスホッケーやラグビーではシンビンが定着している……」と言いかけたところで、「もともとサッカーより試合時間が短い(前者は60分、後者は80分)。そんなルールができたら、もうサッカーは1試合120分の世界だ」と言って笑っていた。

 この拒絶反応は、近年の新ルール「VAR」が持つ「試合観戦をつまらなくする」という悪評の影響だろう。「代わりにミリ単位のオフサイド確認をやめてくれば(ブルーカードを)我慢してもいい」と言うファンもいた。ちなみに、この日もアディショナルタイムは前後半合わせて14分。最終的に主審がモニターで確認して両軍に1度ずつ与えたPKは、リアルタイムでは誰1人としてアピールのなかったハンドを巡るVARチェックの結果だった。

 ブルー提示後の10分間を嫌がるファンもいた。「選手のシンビン行きで人数が減るチームはラインを下げてしのごうとするに決まっている。ゴールキックやスローインの度に時間稼ぎもするだろう。荒れた試合で、そんな10分間の繰り返しなんて最悪だ」という意見はもっともだ。

 あるファンは、こちらの質問に「キミの意見は?」と質問で返してきた。筆者は、「ブルーの対象が審判への悪態だけならありだと思う」と返答。テクニカルファウルは、警告の要不要やイエローかブルーかの判断が審判の解釈次第で、一貫性のない判定がさらに物議を醸すことになりかねない。チームのための“グッド・ファウル”と呼ぶファンもいたのが、テクニカルファウルでもある。その点、目の前に詰め寄ってきて罵ったり、冷笑的な態度を見せたりする選手に“ブルー”を提示する判断に個人差はないと思われる。

「新ルールが増え続けるのはサッカーファンとして御免だわ」

 そう聞いて「かもね」と同意してくれたファンを含め、ルートン対シェフィールドで意見を聞いたファンは全員が男性だった。そこで、翌11日に足を運んだチェルシー・ウィメン対クリスタルパレス・ウィメンの女子FAカップ5回戦でも反応を確認してみることにした。女子の試合会場は、女性はもちろん、家族連れの観客が非常に多い。

「ようやく」と言っていたのは、中学生の娘と息子と一緒に観に来ていた父親だった。「女子の試合では審判に対する選手のリスペクトに問題はないと思うが、男子の試合では審判を見下しているような態度が目に余る。プレミアを観ていても、審判を取り囲んで言いたい放題のように見える」と言うパパさんには、娘さんも「10人ぐらいでいじめているみたい」と追従した。

 続いてママさんも、「選手たちがああだから、ファンも余計にカッカするんじゃないかしら」と意見を聞かせてくれた。言われてみれば前月には、PKを決められたチームのファンに追いかけられた主審がトンネルに避難するという、前代未聞の光景が3部リーグ戦で見られたばかりだ。

 もっとも、より観戦歴の長そうな女性ファンは、「行き過ぎた抗議を牽制するルールがないと、女子のピッチでも数年後には分からないわよ」と言っていた。この一戦でチェルシーに勝利(1-0)をもたらすゴールを決めたマイラ・ラミレスが、今冬の移籍市場で英国史上最高額の女子選手として獲得されているように、女子のサッカーシーンもプロの世界として変わってきている。まだ男子の世界とは3桁の開きがあるが、動く金銭の規模も、リーグ戦で万人単位があり得る観客動員の規模も格段に増している女子のピッチでは、「個々の能力やチームの戦力だけではなく、結果を要求されるプレッシャーも昔とは違う」ことが、悪い意味でも男子の世界に近づいてしまいかねない理由だという。

 そこで、「でも、やっぱりルールはシンプルなほうがいいわよね」と言ったのは、一列後ろでやり取りを聞いていた女性。「チェルシーのファンとして(女子の試合でも)VARがあればと思ったことはあるけど、なくて良かったと思うこともあるような新ルールが増え続けるのはサッカーファンとして御免だわ」との意見には、揃って頷いてしまった。

 結局、IFABはブルーカード導入プロセスの発表を延期。この“決定”について質問していたら、答えてくれたファンの全員が「歓迎する」と答えていたに違いない。冷静になって考えるべきは、ブルーカードの提案者たちだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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