“PK×3→ハットトリック”は本当に正しかったのか? 元主審が考察する“レア判定”【解説】
【専門家の目|家本政明】アジア杯決勝で起こった3つのPK判定を改めて検証
カタールで行われたアジアカップは、開催国の優勝で幕を閉じた。決勝戦ではPKでハットトリックという珍しい展開も。話題を呼んだ3つのPK判定シーンについて、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が改めて解説。判定の詳細に迫る。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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日本代表はイランに準々決勝で敗れベスト8で敗退。この試合を担当した中国人の審判員に馬寧(マー・ニン)氏は、決勝戦(カタール対ヨルダン/3-1)でも笛を吹いている。マー・ニン氏を「若い時から知っている」と話す家本氏は「順調にいいレフェリーになっているのは、このアジアカップを見ていても感じていた」と関係性を明かし、レフェリングの特徴も教えてくれた。
「彼の特徴でもあるんだけどいいものはいい、駄目なものは駄目って結構事実を基に丁寧に収めていくスタイル。決勝も彼らしいパフォーマンスで、選手と上手く対応しながら丁寧に笛を吹き、カードを出していた。どっちかに偏ることもなかった」
そして、話題に挙がった3つのPKシーンについてそれぞれ振り返ってもらった。
1つ目のPK判定は前半20分、カタールFWアクラム・アフィフがドリブルでペナルティーエリア内へ侵入。ヨルダンDFアブダラ・ナシブに倒される。
「ヨルダンからするとダイブじゃないのとか思う可能性もあるけれど、結果的にボールにプレーできずに相手の足にチャレンジしたので、致し方ない」
2本目は後半24分にカタールが相手ペナルティーエリア内まで切り込んだ攻撃で、パスを受けようとしたMFイスマイール・モハンマドが倒される。当初ファウルの判定はなかったが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入からオンフィールドレビューでの確認を挟み、PKの判定となった。
「あれは現場で(PKと)判断できたらより良かったよね、という場面。見るのが難しいポジション、エリアだったが絶対に現場の審判団で確認できないかというとそうではない。ただ、VARが丁寧に確認。いわゆる『はっきりとした明白な間違い』『見逃された重大な事象』に該当するシーンだったため、レフェリーにオンフィールドレビューを勧めたというのは、審判チームとして責任を全うしたシーンだと思う」
さらに後半アディショナルタイムには、アフィフが裏へ抜け出しと相手GKとの接触で転倒。当初はオフサイドの反則が取られていたが、VARの確認でオンサイドの確認を取り、さらにオンフィールドレビューをレコメンド。接触をファウルと判定し、最終的にカタールに3本目のPKが与えられた。
「ああいう時って、主審も副審もオフサイドへ意識を強く持っちゃうから、その後の反則はどうかっていう見極めが少し後手になってしまう傾向もある。主審がうしろから見ているから、GKが触ったようにも見えるっていうのもとても分かる」
家本氏は、オフサイドの見極めののち、続けてファウルの可能性のある接触が起こったため、審判団にとっても判定が難しい場面だったことを指摘。「映像で確認すれば、GKがボールにプレーせずに相手にチャージしているのでPK。もちろん現場で見極められればベストだが、2本目と同様に審判チームとして適切な判定の方向に持っていけたというシーン」と、VARを含めた審判団の“チームプレー”を称えている。
「決勝戦のような舞台で3つのペナルティーが起こるのは非常に珍しい。そうしたレアケースだったこと、またすべてカタール側へ与えられたPKだったので、ヨルダン側からすると『何かあるんじゃないか』と疑いを持ちやすいシチュエーションではあったかなと思う」
以上を踏まえ、家本氏は再度「(映像を見る限り)誰も文句を言えないクリアな反則、ペナルティキックだった。結論から言うと、3つとも妥当な判定」と3つのPK判定を支持した。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。