鹿島・ポポヴィッチ流で「飛躍」の可能性 好材料は“新助っ人CF”…開幕陣容はどうなる?【コラム】
ポポヴィッチ新監督の下、新生鹿島が目指すサッカーとは?
攻撃の矢印は、常に前へ——。
今季から鹿島アントラーズの指揮を執るランコ・ポポヴィッチ監督の目指すサッカーが見えてきた。その根幹をなすのは、いかに相手ディフェンスラインの背後を取るか、だ。
J1リーグ開幕を2週間後に控える2月10日、毎年恒例のいばらきサッカーフェスティバルで、鹿島はJ2の水戸ホーリーホックと戦った。そこで何度となく繰り返されたのはスペースへの「縦パス」と「フリーランニング」の同時性だった。
もともとFWながら現在、ボランチでのプレーも兼ねる知念慶が“ポポ・スタイル”の肝を、次のように語る。
「監督から“チャンスがあったら、積極的に背後を狙え”と言われていますし、前の選手もそこを意識しているので、動き出しが早い。お互いのイメージを共有しながら、いい感覚で攻撃できていると思います」
求めているプレーと、求めていないプレー。新指揮官からの要求は実に明確だと、知念は付け加えた。
「前にボールを運べる状況で、前に運ぼうとしなかったり、ディフェンスラインを突破したのに簡単にボールを下げてしまったり、そういうプレーを選択すると、日本語で“ナンデ?”と怒られます(苦笑)。まず、ラインを突破すること。ラインを突破したら、ゴールに最短距離で向かうこと。そこをすごく要求されていますし、徹底されています」
縦への意識づけは、3列目であるボランチどころか、さらにうしろの面々にも求められている。水戸戦のなかで、この日、キャプテンマークを巻いたCB(センターバック)植田直通から一発のロングフィードが繰り出された。
そこに新外国籍選手のFWアレクサンダル・チャヴリッチが反応し、シュートまで持ち込んだ。得点には至らなかったものの、明らかに意図した攻撃の1つであることを印象づけた。
「自分の位置から積極的に攻撃に絡んでいきたいし、攻撃のスタートになるようなパスを出していきたいと思っています。そういうトレーニングをずっと重ねています。チャッキー(チャヴリッチの愛称)はスピードがあって、タイミングよく動き出してくれるので、自分としても出しやすい。ああいうシーンを、これからも増やしていきたいですね」(植田)
「攻撃面のアップデート」に対し、仕組み(戦術)の明確化と浸透に着手
新監督就任にあたり、鹿島の強化部がポポヴィッチ監督に要望したのは「攻撃面のアップデート」だった。そのためにさまざまな方法論が考えられるだろうが、ポポヴィッチ監督はまず仕組み(戦術)の明確化と浸透に着手した。
課題改善に向けて大きなプラス材料は、点取り屋チャヴリッチの獲得にほかならない。来日からわずか2週間、水戸戦でお披露目となった身長186センチの大型ストライカーは「試合に出られたし、勝つことができた。(個人的には)完璧とは言えないけれど、良かったのではないか」と、鹿島での第一歩に好感触を得ていた。
前半21分の決勝点は、そのチャヴリッチを起点にして生まれている。周りを生かす的確なポストワーク、自らゴールに向っていく迫力、前線でのプレッシングなど、前半45分間だけのプレーながら攻守にわたりモダンフットボーラーとしての質の高さを垣間見せた。
「今までやってきたサッカーと日本のサッカーはやはり異なるので、そこに慣れることが重要だと考えている」(チャヴリッチ)
大卒ルーキーの右SB(サイドバック)濃野公人が攻撃力を武器に大いに奮闘すれば、サンフレッチェ広島から鹿島に加入して2年目のサイドアタッカー藤井智也も持ち前のスピードに磨きをかける。宮崎キャンプ中のトレーニングマッチで、次々にゴールを重ねた2種登録のFW徳田誉は、アンダー世代の日本代表歴を持ち、攻撃陣に新たな風を吹き込む有望株だ。
あえて不安材料を挙げるなら、主力組の怪我が相次いだ点か。昨季J1でのチームトップスコアラー(14得点)であるFW鈴木優磨が1月30日のトレーニングマッチで右頬骨を骨折。治療期間は約5週間と、残念ながら開幕戦に間に合わないだろう。
そのほかにも怪我を抱え、「一日も早く復帰してほしいが、微妙な状態」(ポポヴィッチ監督)という選手が少なくなく、そこは誤算だ。
いずれにしても7シーズンの国内無冠という空白期間に終止符を打つべく、新監督の下、鹿島は走り出したばかり。攻撃面が“劇変”するには、もう少し時間が必要だろう。だが、怪我人が戻り、細部にわたって噛み合わせが良くなれば、飛躍的な進化を遂げる可能性を十分に秘めている。