小野伸二…トレーナーが見た天才引退の裏側 満身創痍の肉体、「あの怪我がなければ」の古傷【インタビュー】
出会った時の印象は「筋肉の質がすごくいい。関節の可動域もすごく広い」
小野伸二は2023年1月、左足首の痛みを緩和するための手術をしたが、痛みは引かず引退を決意し、ラストマッチ出場を信じて調整を続けていた。その姿に寄り添い続けた北海道コンサドーレ札幌メディカルチームの佐川和寛チーフトレーナーに、ラストゲームの舞台裏や引退発表から試合前日までの裏話を訊いた。(全2回の1回目)
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──小野選手との出会いの印象を教えてください。
「初めて会ったのは伸二がチームに来た2014年ですね。その頃はバリバリにサッカーをやっている時で、身体に大きな問題はなかったです。ほかのトレーナーも口を揃えて言うことなんですが、ほかの選手と比べて筋肉の質がすごくいいんです。関節の可動域もすごく広くて、トップアスリートとして素晴らしい身体というのが最初の印象です」
──身体に問題があると思われたのはいつ頃ですか?
「そのシーズン中に肉離れを起こしたり、よく“あの怪我がなければ”と言われている古傷の左膝に問題が出てきたりして怪我が増えてしまった。そこからなかなか試合に絡めなくなっていきました」
──1日のやりとりはどのようなルーティンですか?
「朝、伸二がクラブハウスに来たら、身体の状態をまず口頭で確認して、問題があればトレーナールームに来てもらって、触ってチェックします。それで、全体練習はこんな感じでやるけれども伸二はどこまでやろうか、ということを決めます。練習前は自分で補強トレーニングをやって、練習後にトレーナーがマッサージやストレッチ、鍼治療など、その時々の身体の状態に応じてケアを行います」
──メディカルチームはどんな連携で動かれるのですか?
「怪我をしたらまずドクターが診察をして、復帰までの目処を立てます。リハビリはフィジオセラピストとトレーナーと2人で見ます。試合にはドクターとトレーナー2人が帯同しています」
──引退をすると聞いた時に感じられたことは?
「引退は、伸二がインスタグラムで発表する少し前に、選手みんなと同じタイミングで知りました。ただ、ずっと一緒にやってきてるので、薄々感じていたというのはありました」
──その時は試合に出られる状態でしたか?
「そうではなかったですね。フルでの練習はほぼやってなかったので。引退を決めて、最後は試合に関わりたいということで、練習に参加していきました。当時は決していい状態ではなかったですね」
小野が久しぶりのフル練習参加…「左足首だけじゃなく、身体全体に筋肉の張り」
──ラストゲームに向けてメディカルチームでどんな話し合いをされていたのですか?
「特別なことはしてないんですよね。伸二が痛みを我慢して最後までやり続けただけで、メディカルチームやコーチングスタッフが特別なことしたというのは、正直なところないんです」
──痛みがずっとあるなかで、練習をフルでされ始めたのはいつ頃ですか?
「伸二が自分の誕生日にインスタグラムで引退を発表したあと、10月に入ってからですね。初めにフルで練習した直後は、左足首だけじゃなく、身体全体に筋肉の張りが結構出ていました。久しぶりに全部の練習をこなしたので、全身に疲労が見られました。その後は、身体の状態を見ながら練習量をコントロールして、最終戦に向けて調整をしていました。全体練習に参加するようになってからは、練習後に毎日ケアをするようになりました」
──実践トレーニングとして、10月15日にトレーニングマッチに出られていますが、その時はどうでしたか?
「かなり久しぶりの試合だったので、なんとか試合をこなしたという印象で、本人も納得のいくパフォーマンスじゃなかったようですし、こちらから見ていても、まだまだだよね、という感じでした。練習よりかかる負荷が強いので、試合後は筋肉の張りが強く出ていましたね」
──練習試合を重ねながら、徐々に状態を上げていくプランでしたか?
「アマチュア相手の練習試合を何試合かこなしていくなかで、試合時間も伸ばしていきたいと思っていたんですが、週の練習の疲労も見ながらやっていたので、思いどおりに試合時間を伸ばしていくことはできなかったんです。試合時間をちょっと減らしたり、また元に戻したりして調整をしていきました」
──やれる、やれないの判断はどなたがされるのですか?
「通常であれば、選手とメディカルスタッフで判断をします。それを監督に報告するという流れです」
──チーフの佐川さんが最終的に判断されて監督に言いに行かれるんですね?
「そうですね」
左足首に痛みを抱える小野に対して「筋肉をほぐし、炎症を飲み薬で抑えるアプローチ」
──ラストゲームに関しては、どんな状態でも出るという形だったのですか?
「監督もコーチも強化部も“最後に試合に出たい”という伸二の思いをなんとかしたいと、最終戦に向けて調整していました」
──試合に出すという決断はいつされたのですか?
「特に口には出してないんですけど、伸二が最終戦を目指していたのは明らかだったので、それは周りもすごく感じていました。最終的に、監督が伸二をスタメン起用すると決断されたのは前日でした」
──痛みを緩和するのにメディカルでやれることはどんなことがあったのでしょうか?
「左足首に痛みがあったんですけど、痛みが出ると、その周りに炎症が起きて筋肉が硬直してしまうので、固くなった筋肉をほぐしたり、炎症を飲み薬で抑えたりというアプローチでした」
──ラストゲーム前日の状態はどうでしたか?
「試合の前日は、『自分でケアするから明日の試合は大丈夫』とクラブハウスを出ていきました」
──では、最後のケアは試合の前々日ですか?
「はい。その時はフィジオセラピストが身体を触って、左足首の痛みはいつもどおりあったんですが、それ以外は特に問題なく、身体の張りもそんなになく、いい状態にあると聞きました」
──前日練習を見た感じではどうでしたか?
「気持ちが戻ってきてるような印象で、楽しそうに軽快に動いてましたね」
[プロフィール]
佐川和寛(さがわ・かずひろ)/北海道コンサドーレ札幌チーフトレーナー。1976年10月7日生まれ。埼玉県大宮市出身。学生時代は野球に打ち込みつつ腰痛に悩まされ、トレーナーに支えてもらった自身の経験から、選手に寄り添うトレーナーを志す。専門学校卒業後、1999年にセレッソ大阪でトレーナーとしてのキャリアをスタートさせ、2002年から北海道コンサドーレ札幌のトレーナーを務める。
(mm)