新戦術の可能性? アジア杯で見えた森保ジャパンも取り入れるべき3つのポイント【コラム】

森保ジャパンも取り入れるべき3つのポイント【写真:2024 Asian Football Confederation (AFC)】
森保ジャパンも取り入れるべき3つのポイント【写真:2024 Asian Football Confederation (AFC)】

内田篤人氏以降はロングスローの使い手が不在

 カタールで開催されたアジアカップでは17試合、20か国のプレーを見ることができた。正直に言えば、あまり期待していなかった国にもたくさんの発見があり、試合のパーツだけを見れば非常に整っている国ばかりだった。

 例えば、ウズベキスタンは左サイドで「こうボールが入れば選手はこう動いて崩したあとにラストパスができる」という「ファンクション」ができ上がっていた。

 惜しむらくは、そこに入ってくる最初のパスが良くなくて、チャンスが作れなかった。関数はできていても、最初に入ってくる変数が規定値を超えているので、上手く動かないのだ。それでも、たしかにこうボールが動けば崩せるという意図はハッキリ見えた。

 そういうアジア各国のチームが工夫を重ねるなかで、3つほど今後の日本でも検討しなければいけないのではないかと思う点があった。

■1.)ロングスロー

 いろいろなチームがロングスローを投げられる選手を1人入れていた。これは終盤の攻守においてとても有効だった。負けて残り時間が少なくなっている場合は、すべてのスローインがコーナーキックと同じようなチャンスになる。一方で勝っている時、終盤に相手ゴール前にロングスローを入れようとすると、対戦チームはコーナーキックと同じ守り方をせざるを得ない。

 そうなると、ヘディングに強い選手はFWでも自陣ゴール前に戻らざるを得ない。自チームが勝っている時、相手は試合終盤にかけてパワープレーを仕掛けてくる可能性が高い。そのヘディングに強い選手を自分のゴールから遠ざけることができるのだ。

 この2つのメリットだけ考えても、ロングスローを投げられる選手は貴重だと言えるだろう。日本代表では内田篤人氏がロングスローを投げられた。だが、その後は強肩を特長の1つとできる選手はなかなか代表に入ってこない。最近の日本選手では相馬勇紀がロングスローを投げられるものの、アジアカップではメンバー外だった。

 また、日本ではロングスローに対して特別な感情があるようだ。2011年4月24日、ジェフユナイテッド千葉vsFC東京で後半32分、マーク・ミリガンがロングスローを投げ、身長204センチのオーロイが頭で合わせて千葉が決勝点を奪った。この時「手で投げて頭で入れる」と、驚かれるとともに「これがサッカーなのか」というニュアンスの意見も出された。近年で言えば、青森山田高校がロングスローを用い、同校監督からFC町田ゼルビアの監督に転身した黒田剛監督も多用する。

 このロングスローについて、去年東京ヴェルディの城福浩監督が記者会見で「時間を分断する行為がものすごく多いというのは、J2を戦ったうえで感じている」と問題提起を行った。ロングスローがあるたびに反対サイドからでも選手がやってきて、タオルで拭いてボールを投げる行為があり、それがスローインの数だけあればアクチュアルプレーイングタイムが減るという指摘だ。

 アジアカップではそれぞれの選手がユニフォームなどでボールを拭き、さっと投げていた。また、アディショナルタイムの長さにも表れるように、アクチュアルプレーイングタイムをしっかり取ろうとしている現在では、あまり時間稼ぎにはならないだろう。

 そう考えると、今後は育成世代から足下の技術とともにロングスローを投げられるかどうかにも取り組み、トップチームでの戦術にもっと組み入れてもいいのではないだろうか。

セットプレーの工夫は不可欠

■2.)スローイン

 相手チームがボールをタッチラインから出して、その見返りとして行われるスローインは本来、投げ入れるほうが有利にならなければいけないはずだ。ところが実際にはボールの受け手にしっかりマンマークが付き、むしろボールを奪ってカウンターに結びつけやすくなっている。

 今回、スローインからの展開で工夫を見せたのはオマーンだった。ボールを持っていきたい方向とは逆に敢えてボールを投げ、そこでのターンで相手を振り切る。具体的には、タッチラインと並行にボールを投げ、受ける選手がタッチライン際の足の甲に乗せる形でボールをストップする。するとボールの進行方向に動いていた相手はスペースを与えてしまうので、そこから展開していた。

 日本代表もスローインからボールをどうつなぐかという練習は前田遼一コーチを中心に何度か行っていた。だが、スローインそのものはタイミングを合わせてどう投げるかというものだった。アルベルト・ザッケローニ監督時代には、スローインを投げようとしている選手が別の選手にスイッチし、最初に投げようとしていた選手が急にスピードアップしてボールを受けるというプレーを練習していたが、そのあとの日本代表でスローインはノーマルな形だけ。これは改善できるのではないだろうか。

■3.)トリックプレー

 今回の大会で最もトリックを成功させたのは、カタールだと言えるだろう。グループリーグ第3戦、中国戦の後半21分にカタールはコーナーキックを得た。アクラム・アフィフの蹴ったボールはペナルティアークの外で待つハサン・アルハイドスへ。アルハイドスが右足を一閃するとボールは曲がりながらゴールに飛び込んだ。2000年にレバノンで行われたアジアカップの準々決勝で、名波浩が中村俊輔のフリーキックをゴールに突き刺した場面を彷彿とさせるようなゴールだった。

 また、ベスト16のパレスチナ戦では0-1とリードされていた前半アディショナルタイム、アフィフがコーナーキックを蹴ろうとするタイミングでGKの前にいたアルハイドスは大きくアフィフのサイドから遠ざかると素早くペナルティスポットに戻ってグラウンダーのパスを強シュート。これで同点に追いついた。アルハイドスが動き始めた時にマーカーが着いていこうとしたが、これはカタールのほかの選手によってブロックされている。そこまで1つの形としてでき上がっていた。

 代表チームは毎回メンバーが違うので、精密なトリックを取り入れるのは難しいかもしれないが、勝ち残っていくためにはこういうセットプレーの工夫ももっと必要ではないだろうか。

 以上3点の各チームの工夫を見ても、アジアで勝っていくのは難しいことだと言えた。そして、アジアからの学びもあった。ワールドカップ(W杯)予選も決してスムーズに行くとは思えない。森保一監督の次の一手がどうなるか、興味深いところだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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