森保J、“選手任せ”よりも重要な問題 求められるピンチで“声掛けできる”存在【コラム】

日本はアジア杯ベスト8で敗退【写真:ロイター】
日本はアジア杯ベスト8で敗退【写真:ロイター】

森保監督はロシアW杯ベルギー戦の経験から選手同士での戦術調整を推奨

 アジアカップの準々決勝イラン戦に敗れたあとの、守田英正のコメントが論議を呼んでいる。

「相手は相当(日本が1-2で敗れたグループリーグ第2戦の)イラク戦を見ながら分析してきたと思う。自分たちが露呈した弱みに対して、チームとして修正できたかというと、そうではなかった」

「どうすれば良かったのかはっきりとは分からない。考えすぎてパンクというか、もっとアドバイスというか、外からこうしたほうがいいとか、チームとしてこういうことを徹底しようとかがほしい」

 これが森保一監督からもっと具体的な指示がほしいという意見だとして、森保監督の指導不足だと捉えて監督を批判したり、選手が「指示待ち」なのではないかと選手を批判したりする声が出たのだ。

 たしかに森保監督は、選手同士で戦術を調整することを推奨している。それは2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)の決勝トーナメント1回戦ベルギー戦の敗因を、ベンチからの指示を待たずに選手が動けなければ、失点に対応できなかったと分析したからだ。

 だがそれがしばし、「選手任せ」ではないかと言われてきた。監督は「大枠は自分が決めているし、その中で選手はやっている」と説明しているが、守田のコメントはもっと細部まで監督からの指示がほしいと捉えることができる。

 すると思い出されるのが、2006年のドイツW杯に臨んだジーコジャパンだ。ジーコ監督は中田英寿や小野伸二ら才能あふれる選手で構成し、その能力を選手間の調整でチームを作り上げようとした。その時によく議論になったのが、「ブラジル人ならできるが、日本人には自由は無理なのではないか」ということだった。一方でサッカーという自由度が高い競技にあって、自由を与えられて困るようでは選手としていかがなものか、という意見もあった。

冨安が言及した「勝手にガチの執着心が備わっている」必要性

 だが今回、同じような問題が起きているとは限らない。例えば、冨安健洋は別の問題点ではないかと指摘している。

 冨安は思っていた修正ができないうちにバラバラになってしまったことを悔やんでいた。

「横のところは、まだまだ細かさが足りない感じはしましたし、後半はかなり運動量も落ちて、1人1人バラバラになって孤立して、1個(対応が)遅れるというシーンはかなり見受けられたので、それがギャップなのか分からないですけど、僕も含めて、まだまだだと思います」

 思っている修正が上手くいかない時に、冨安はどういうことがあれば良かったと思っていたのだろうか。それは声をかける選手の存在だった。

「後半のような難しい展開の時に、黙ってやるというか、ただ淡々とやるだけじゃなくて、何か変えようとする選手が、『今耐えるぞ』という声をかける選手がもっともっといないと、勝てないよなという感じです」

 所属するアーセナルでも思い描いたプランが上手くいかないことがあるだろう。そんな時は誰が声を掛けるのか。

 そう聞いた時、冨安はしばらく考え込み、それまでの歯切れの良さとは違って「まずは、その、いや、まあ、そう、言わないほうがいいなっていう風に……」と言葉を濁し、こう続けた。

「アーセナルも若いチームでもあるので、もちろんそういう試合もありますし、その中でも諦めずに最後までやります。実際今シーズンだけ見ても最後にゴールを奪って勝つ試合は何試合もあるので、そういう意味では、もう言わずとも勝手にガチの執着心が備わっているのか、誰も何も言わなくてもただそれが当たり前でしょうという状態という感じですかね」

 冨安が言い淀んだのは、名前を挙げることでその立場にいる日本代表の選手がやり玉に挙がってしまうのを心配したからだろう。

 冨安が誰に求めていたのかは別の話として、この2人の発言を並べて考えると、守田は「外から」と言っているので、監督やコーチということを示唆したのかもしれない。だが冨安は明確に「選手」と言っており、ピッチの中で解決しなければいけない問題点だと感じている。

選手間でも問題点の所在の認識違いは看過できず!?

 実はこれが一番の問題点ではないだろうか。ある選手はピッチ外に解決策を求め、ある選手はピッチ内に求めている。外から指示を出しても、中で解決しようと思っている選手は「現状とは違う」と思うかもしれないし、中の選手が「こうしよう」と声をかけても、外からの意見を求めている選手は「本当にそれでいいのだろうか」と感じるかもしれない。

 となると、最終的には森保監督に「こういう場面は指示を出す」、または「こういう場合はこの選手のいうことを優先しよう」、あるいは「こういうシーンは選手たちに任せる」ということを細かく決めなければいけないだろう。

 ただし、招集ごとにメンバーが変わるのが代表チーム。そして、アジアカップやW杯以外では、集合するとすぐに試合が行われるのが代表チームでもある。細かく決めごとができればできるだけ、その都度伝達するのは難しくなるだろう。

 解決しようとすれば代表チームのメンバーをすっかり固定してしまうか、あるいは選手が自分たちでもっとコミュニケーションを取って調整しなければいけないということになる。

 イラン戦後、森保監督は選手への指示について問われてこう答えた。

「選手全員がキャプテンシーを持って、チームの中で勝利を目指してということと、その場に応じたクオリティーを常に上げていくため、お互いを刺激してもらえるようにというところを、私やスタッフで環境作りすることは大切かなと思います。特に、私の環境作りも必要かと思います」

「これまでベテラン選手がすごく声かけてくれていたところはあると思いますし、その選手たちにも、もちろん今後またチャンスは当然あると思います。でも今のチーム作りとその都度呼んだメンバーの中で、やはり勝つために自分たちが声かけできるというところ、雰囲気作りをできるということをやっていくことが大切かなと思います」

 森保監督は選手同士の調整を重んじようとしているのではないか。そしてこの監督の発言からも、今回は選手間での話が少なかったのではないかという疑問が起こる。お互いに遠慮が出てしまったのかもしれない。それをどう壊していくかというのも指導陣の問題だろう。

 だが、もしこれがW杯なら、と考えざるを得ない。世界最大の大会を前に、自分ができることを探さない選手はいないからだ。

 アジアカップに優勝することで得られるものや、アジアカップに優勝できなければ失われるものがもっと明確なら、自ずとこの問題は解決できたのかもしれないのではないだろうか。日本人にも冨安が言う「言わずとも勝手にガチの執着心が備わっている」はずだから――。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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