J1磐田で「活躍してもらわないと困る」選手は? レジェンド藤田俊哉SDが明かす補強理由【コラム】

磐田の藤田俊哉SD【写真:徳原隆元】
磐田の藤田俊哉SD【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】22年から磐田SDを務める藤田俊哉氏の戦略とは

 1990年代後半から2003年8月にオランダのFCユトレヒトに移籍するまでジュビロ磐田の黄金時代の中心選手として活躍した藤田俊哉氏は、2022年からチームのスポーツダイレクター(SD)を務めている。

 昨年、劇的な展開で逆転J1自動昇格を決めた磐田だが、その要因を横内昭展監督は「選手たちが焦らず、少しずつだが進歩していることを自覚しながら我慢して戦い続けられたことが一番、大きかった」と語った。

 同じ質問を藤田氏にも向けてみた。

「チームというのは一気には良くはならない。やろうとしていることを継続し、選手が成長するのを待った」

 2人の言葉が示すように、これだと決めたスタイルを、辛抱強く継続した結果が自動昇格につながったようだ。リーグ序盤は低空飛行が続いたが、上昇に転じてJ1復帰を果たしたシーズンで、チームが良くなったと感じた時期はいつ頃だったかも併せて尋ねてみた。

「最後の最後、いや、今でも良い感じになったとは思っていない。チームはこれで良いというものはないから」

 理想を目指せば辿り着く到着地点はなく、果てしなく高みは続くと言ったところだろうか。それは黄金時代を選手として戦った藤田氏の言葉らしい。では、磐田が目指しているスタイルとはどんなものなのか。

「ボールの保持を大事にしてテンポ良く、自分たちのフットボールをする。ボールを大事にしてパスをつないでと言うと、ゆっくりしたサッカーをイメージされることもあるが、テンポを上げて縦に速く、しかしボールを保持することは怠らない」

 さらに藤田氏はこう付け加えた。

「例えば前線にロングボールを送り、これがつながったらポゼッションと言える。つながらないと縦ばかりのサッカーとなるが、確実にゴール前でつながれば、それは後方でパスをつないでいるのとなんら変わらない。だから縦に速いサッカーはカウンターに見えるというだけで、(昨年リーグ王者の)ヴィッセルだってボールをしっかりとつないでいる」

 藤田氏の言葉から磐田のスタイルの核となるのは、パスをつなぐ際に重要なことは、供給される場所がどこになるのかであり、それが相手ゴールに近く、より素早く行うことを目指していることが分かる。

藤田SDが期待を寄せるマテウス・ペイショット【写真:徳原隆元】
藤田SDが期待を寄せるマテウス・ペイショット【写真:徳原隆元】

15人の選手補強…2人の助っ人へ求める期待の違い

 新シーズンに向けて磐田は15人の選手を新たに加えた。この磐田のレジェンドは24年を中長期的に考えてJ1で戦えるベース、さらにその先の強豪への復活を目指す最初の一歩にしたいと胸の内を語った。

 新加入のメンバーには世界を舞台に戦ってきたGK川島永嗣が名を連ねる。さらに4人のブラジル人選手を獲得した。彼らサッカー大国の選手を獲得した経緯を説明してくれた。

「チームが使えるお金の中で、ジュビロのスタイルに合致できる選手を指導スタッフのみんなと話し合い(候補を挙げて)、僕が(現地ブラジルに)見に行って獲得した。大きなお金を使うことになるので、その責任において自分の目で見ないなんて考えられなかった。そこで家族や奥さんとも会ってしっかりと話をした。彼ら全員が日本の文化に早く馴染もうとしてくれている」

 外国人選手は単純に技術が高いからと言って、本領を発揮するとは限らない。やはりその選手が異国である日本でのプレーに意義を見出し、心血を注げるかが重要となる。そうした意味ではブラジル人選手たちの姿勢は「(成功の)結果につながるまでのプロセスとしては最高」と藤田氏も彼らの人間性を高く評価している。チームとしても彼らが慣れるまで手厚くサポートすることが大事だとも強調していた。

 4人のうち若いウェベルトンは将来の活躍を期待して獲得したようだ。そのなかで「一番、活躍してもらわないと困るのがマテウス・ペイショット」と言うように、チームの得点源として期待を寄せている。そして、藤田氏は言う。

「チームは変わろうとしているが、それ(変わろうとしている努力)が本当に試合で出せるのか、チーム力になっているのかはまだ分からない。試合は水物でサッカーはやってみないと分からないから。でも、だから面白いですよね」

 栄光と低迷の両方の過去と向き合い、未来を見つめる藤田氏。指導スタッフもチーム構築は怠っていない。万全の準備をして、その時を待つ。かつて磐田が輝いていた場所に再び戻るための戦いが始まる。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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