なぜ36歳でも衰えないのか メッシ、神戸戦の“3秒間連写”が捉えた高技術【コラム】
【カメラマンの目】密集地帯でも自らのテクニックを存分に披露
やはりリオネル・メッシは役者が一枚も二枚も上だった。その輝きはいまだ色褪せていないことを、2月7日にヴィッセル神戸との親善試合が行われた国立競技場のピッチで示した。
前日の記者会見場で流されたチームを紹介する映像で“「来ない」は、ない――”というキャッチコピーが画面に浮かび上がった。たしかにメッシは日本に来た。
しかし、2試合が組まれていたサウジアラビアツアーの初戦で内転筋に違和感を覚え、2戦目のプレー時間はわずか6分にとどまった。先の香港での試合(香港リーグ選抜戦)は欠場し、メッシの体調が万全ではないことは明らかだった。
公式戦なら無理もするだろう。しかし、プレーへの違和感を拭えなかったら、親善試合では無理を押してまでの出場は難しい。
記者会見では、香港の時からはだいぶ回復していると本人も口にしていた。15分だけ公開された試合前日の練習にも参加していた。
しかし、試合当日となりキックオフ前のウォーミングアップをする選手たちの中にはメッシの姿はなく、やはりプレーするのは無理なのかという思いがよぎる。ベンチスタートとなったメッシが国立の大型映像ビジョンに映し出されるたびに、スタンドからは歓声が上がる。そして、ついに後半15分にその時がくる。
ピッチに立ったメッシは攻撃に専念し、親善試合ということでヴィッセル神戸も球際では公式戦のような激しいマークを見せなかった。だが、そうしたプレーしやかった環境を差し引いても、メッシのバイタルエリアからゴール深部でのプレーは圧巻だった。
今さら説明するまでもないが、メッシの特徴は高等テクニックを駆使したドリブルやボールキープ、そして正確無比のシュート技術である。密集地帯でも相手の動きを素早く察知し、逆を取って守備網を突破し、プレッシャーを受けながらも正確にシュートを放ちネットを揺らす。まさにここしかないという瞬間、スペースにシュートやパスを放つ。言ってしまえば、攻撃に必要なすべての技術を備えている。
そして、神戸戦でもメッシは神髄を見せた。そのハイレベルなテクニックを連続プレーで紐解いてみる。
ボールを受けたメッシの前に井手口陽介が立ち塞がる。インテル・マイアミの背番号10は、井手口がボールを奪おうと身体が前かがみになったところをタイミングよく股を抜いて交わす。さらに追いすがる井手口を巧みなボディーバランスでブロック。左からは佐々木大樹もマークがつき、2人に挟まれる形になる。ゴール付近には酒井高徳もメッシの突破に備えている。ここでメッシはつま先付近でボールをわずかに浮かしてパスを出した。
これをゴール前の神戸守備陣がひしめく真っただ中でできる技術はさすがとしか言いようがない。カメラで切り取った場面のデータを見るとわずか3秒間ほどの連続プレーだったが、これほどの技術が凝縮されていたのだ。
36歳と年齢を重ねてきているが、メッシはやはりメッシだった。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。