遠藤が見せるべき存在価値 アジア杯期間にライバルが評価再上昇、リバプール中盤の最適解は?【現地発】

中盤でプレーするマック・アリスターと遠藤航【写真:ロイター & Getty Images】
中盤でプレーするマック・アリスターと遠藤航【写真:ロイター & Getty Images】

遠藤が真価発揮も再び評価を取り戻したマック・アリスター

 アジアカップ出場により遠藤航が抜ける影響は――。年明けにリバプールの地元サポーター間でも広まったその危惧の程度は、日本代表MFがプレミアリーグでも発揮し始めていた真価のほどを物語る。

 リーグ戦でも先発が続いたのは、第15節シェフィールド・ユナイテッド戦(2-0)から、元日に行われた第20節ニューカッスル戦(4-2)までの6試合だった。その間、リバプールは1試合平均で失点数「0.7」、被シュート数「7.7」、被枠内シュート数「1.7」という数値を残している。開幕節からのリーグ戦14試合のうち、やはり今季の新MFであるアレクシス・マック・アリスターが中盤の底で先発した12試合では、それぞれ「1.1」「11.7」「3.8」。遠藤が、守備面のチームパフォーマンス改善に寄与したことは明らかだ。チームでは、ファン投票による昨年12月の月間MVPに選ばれた。

 しかし、日本代表がアジアカップ準々決勝で散った2月3日までにリバプールが消化した計6試合の結果を見れば、「エンドーがいない中盤」に関するファンの不安は取り越し苦労だったとも思われる。2戦2勝のプレミアでは、クリスマス明けに取り戻した首位の座を維持。リーグカップでは2月25日にウェンブリー・スタジアムでチェルシーと対決する決勝に進出し、FAカップでもその翌週に開催される5回戦へと駒を進めた。同時に、ニューカッスル戦終盤に遠藤との交代で怪我から復帰したマック・アリスターが、「6番」役として評価を高めてもいたのだ。

 第21節ボーンマス戦(4-0)での90分間などは、本来は攻撃的なアルゼンチン代表の「移籍後ベストゲーム」として国内メディアで絶賛された。デュエル勝利、タックル、インターセプトが、それぞれ「14」「9」「3」を数える一方で、キーパスも4本。リバプールのユルゲン・クロップ監督も、「出色の出来。守備面でも仕事をしてくれた。もともと攻撃面では非常に重要な選手だ」と語っていた。

 だが、改めて「本来はうしろの選手ではない」と思わせる発言でもある。ほかの試合の内容に目を向ければ、本職ではないが故に気になる部分もあった。例えば、スタメン復帰初戦となったアーセナルとのFAカップ3回戦(2-0)。ボール支配でもシュート数でも相手が上回った一戦で、及第点止まりの1時間弱に終わった中盤中央の「背番号10」は、敵軍のカウンター阻止においても、味方のカウンター開始においても存在感が薄かった。

マック・アリスターは守備面で課題を露呈

 その2週間前、アーセナルとのリーグ対決では、遠藤がアタッキングサードの入り口でマルティン・ウーデゴールからボールを奪ったタックルが印象的だった。奪い返した位置の高さ、距離を詰めた素早さ、タックルの強さと、どれを取っても完璧。何より、自身がコメントしていた「以前より5メートル前でのポジション取り」が求められる新環境に適応中の新ボランチが、波状攻撃の一部とも言えるカウンタープレッシングの極意を身につけつつあると感じさせた。

 遠藤は、第17節マンチェスター・ユナイテッド戦(0-0)でも、クリア後にカウンターに転じようとする敵から、相手ペナルティーエリア淵での1対2でボールを奪って味方のシュートチャンスへとつなげていた。ホームでのスコアレスドローだったことから、メディアの採点には「6」が目についたが、FAカップでのアーセナル戦で同レベルの評価を受けたマック・アリスターには同様の働きが見られなかった。

 それが強豪対決には限られないと確認されたのは、前述したボーンマス戦3日後のリーグカップ準決勝フルハム戦第2レグ(1-1)だった。基本的にはポゼッション志向のマルコ・シウバが指揮を執る相手は、ホームで逆転勝ちを目指した。ポゼッションも、ほぼ互角の49%。リバプールにとって、決して余裕の決勝進出(合計スコア3-2)ではなかった。

 チームは、中盤でフルハムの攻撃をフィルターにかけられなかった。マック・アリスターは前半に2度、相手ウインガーのウィリアンに抜かれてボックス内へと走られている。攻め続けるべきところで、逆に相手コート内でもたついてボールを奪われてしまったのは後半17分。ベンチへと下がる5分前の出来事だった。

 それだけに、1週間後に訪れたマウリシオ・ポチェッティーノ率いるチェルシーとのリーグ戦では、より以上の接戦が予想される一戦でのチームパフォーマンスに興味が持たれた。ところが、過渡期で不安定なチェルシーは中位低迷が頷ける不甲斐なさ。最終スコア(4-1)以上の一方的な勝利となり、囁かれていたマック・アリスターの「正ボランチ化」を吟味する機会にはならなかった。

後半戦の大一番へ第3節以来の3センター構成は実現するか

 その機会は日本代表にとってのアジアカップが終わった翌日、続く第23節アーセナル戦(1-3)で訪れた。「遠藤不在」の不安が的中する、プレミア上位対決となった。

 マック・アリスターの出来が悪かったわけではない。最終ラインの要であるフィルジル・ファン・ダイクが全3失点に絡み、自軍の1得点が相手のオウンゴールだったリバプールではベストプレーヤーだった。だが、この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチは相手中盤のジョルジーニョ。アーセナルのインサイドハーフは、目的意識のあるパスと集中力の高い守りで、アンカーのデクラン・ライスに攻守両面での「安心」を与えていた。結果、敵はボール支配が4割台でも試合をコントロールすることができている。リバプールに、過去最高のxGA(失点期待値)「3.5」 を記録させる対戦相手となった。

 換言すれば、リバプールは強豪対決で自分たちがやりたい戦い方をアーセナルにされた。マック・アリスターには、ジョルジーニョばりの働きをする能力がある。実際、スコア上は1-1の互角で迎えた後半の立ち上がりの良さは、マック・アリスターを押し上げるべく、左インサイドハーフのカーティス・ジョーンズに下がり目のポジションを取らせたハーフタイム中の微調整が背景にあった。

 今季リバプールのボランチに関し、「2人を掛け合わせたら理想的」と言ったのはOBで現テレビ解説者のジェイミー・キャラガーだが、マック・アリスターと遠藤の揃い踏みは可能なはずだ。顔ぶれが一新された中盤は、レギュラーが定まっていないにもかかわらず、国内外4冠を狙えるチームの心臓部となっている点が凄い。であれば、後半戦での大一番ではリスク管理を加味した3センター構成もあり得るだろう。

 あくまでもクロップ軍のリスク対応であるだけに、主眼はボール支配による圧倒的優位が難しい試合でも、実質的な主導権を譲らずにリバプールらしく戦い続けることに置かれる。つまり、できる限り高い位置で迅速にボールを奪い返しながら攻めの姿勢を貫くこと。そのためには、アンカーとしての遠藤の両脇に、マック・アリスターとドミニク・ソボスライという構成が最適と考えられる。後者は、ハムストリングの怪我でアーセナル戦を欠場したが、昨夏の移籍直後からカウンタープレッシングの使い手としても評価が高い。

 この3名は第3節ニューカッスル戦(2-1)で揃って先発したが、続く5か月間で、遠藤はより前線に近い“中盤の底”で守る感覚、マック・アリスターは守る感覚自体を磨かれてきた。プレミア優勝争いでの次なるハードルは、3月10日の第28節マンチェスター・シティ戦。“エンドーがいる”リバプール中盤の機能具合が楽しみだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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