「選手が困っている時に答えを提示できない」日本代表の弱点 OB指摘「チーム作りの限界」【見解】

森保ジャパンが抱える問題点とは?【写真:ロイター】
森保ジャパンが抱える問題点とは?【写真:ロイター】

【専門家の目|金田喜稔】優秀なタレントがいる日本の問題点は?

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング17位)は、2月3日にカタールで行われたアジアカップ準々決勝でイラン代表(同21位)と対戦し、1-2で敗れてベスト8敗退が決まった。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏は、今の日本代表が抱える問題点を指摘している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 イラン戦の前半28分、MF守田英正が機転を利かせた上がりから中央をドリブル突破し、見事な先制ゴールを奪った。有利な立場にあった日本だったが、そこから徐々にペースを奪われ、立て直せないまま後半2失点で敗れた。金田氏は、森保ジャパンが抱える問題点を端的に語る。

「今の日本代表には、久保建英や三笘薫、伊東純也など、個の能力で局面を打開できる優秀なタレントがいる。問題は、彼らを最大限生かせていない点だ。これは個人の問題というより、チームの構造や設計の問題。いつまでも個人に頼り切って、『あとはお願いします』というようなスタイルでは限界がある。じゃあどうやって彼らを生かすのかと言えば、当然チーム戦術として落とし込んでいかないといけない。そこは監督の仕事だろう」

 金田氏は是々非々で森保監督の采配を分析し、「例えば、グループリーグではフィールドプレーヤーを全員起用する采配を見せた。その判断に賛否はあるだろうが、凄いと僕は思った」と評する一方、大きな課題として試合中の「判断、対応、修正」を挙げた。

「決勝までを見据えて、グループリーグでは全員を起用するプランだったのだろうと思う。決勝トーナメントからミックスさせ、徐々にチームの完成度を高めていくという青写真は見えた。その結果、イラン戦ではベストメンバーとしてあの11人をピッチに送り出した。先発メンバーについて、人によって意見は分かれるだろうが、そこは監督の判断だから異論はない。ただ問題は試合中の判断、対応、修正だ」

チーム作りに限界?【写真:2024 Asian Football Confederation (AFC)】
チーム作りに限界?【写真:2024 Asian Football Confederation (AFC)】

金田氏が指摘「むしろ、そうしたほうが選手の迷いは減る」

 試合中の修正力で思い出される試合の1つが、カタール・ワールドカップ(W杯)のドイツ戦だ。前半は完全なドイツペースで支配され、先制点を奪われたあとも幾度となく失点のピンチを迎えた。辛うじて1失点に抑えて迎えた後半、日本は4バックから3バックに変更し、次々攻撃的な選手を投入するという大胆な策に出る。これで一気に流れを引き寄せた日本は後半の2ゴールで逆転し、2-1勝利で世界に衝撃を与えた。

 金田氏はドイツ戦を引き合いに出しながら、イラク戦の修正力不足に触れている。

「カタールW杯のドイツ戦では、試合中の大胆な采配で勝利を手繰り寄せた。しかしイラン戦では、戦略・戦術面で修正が利かなかった。試合中の修正・対応力不足は日本の弱点だ。当初のプランどおりに試合が進めば問題ない。だが相手の出方を見て、分が悪いと見れば試合中に修正を施す必要がある。例えばビルドアップで選手が苦戦しているのであれば、2つ目の解決策をピッチ上の選手に伝達し、試合中に提示してあげないといけない。それでも相手が対応したら、3つ目の解決策を提示する。そんな作業ができなかった」

 金田氏は、続けて「選手の限界ではなく、チーム作りの限界」と指摘し、指揮官に変化を求めている。

「今回負けたから云々ではなく、森保監督の采配自体はこれまでと今回も変わりはない。森保監督は、選手の自発性をベースにチームを作り上げてきた。いい意味での選手の自発性を引きだそうとしているのだろう。連勝している時にはいいムードだから問題点はあまり露呈されないが、チームが苦境に立った時が問題だ。選手の限界ではなく、チーム作りの限界に達している。森保監督をはじめ、スタッフもずらりといるわけで、選手が苦戦し、困っている時に肝心の答えを提示できていない。そうなるとあとは個人頼み。個人の能力が上手くはまればいいが、歯車が合わないとずっと後手を踏み続ける。そりゃそうだよね。劣勢の時にチームとして有効な手を打てないのだから。選手は成長し、試行錯誤している。ならば指揮官も変わらないといけない。自主性ベースでは選手も迷うだろうから、指揮官が自分の哲学をより前面に押し出すことだ。むしろ、そうしたほうが選手の迷いは減る」

今後の悲劇を避けるために解消すべきは「選手の迷いを減らすこと」

 イラン戦の敗因を探った時、金田氏は選手のプレーに迷いを見たと語り、「選手の迷いを減らすこと」の重要性を説く。その点を解消しなければ「今後も悲劇が起こる」と結んだ。

「森保監督が権限をもっと行使し、選手の自主性ベースである点は同じでも構わないが、選手の迷いを減らす作業はもっとしないといけない。言い換えれば自分の哲学を植え付ける作業だ。すでに植え付ける作業はしているし、大枠のチームコンセプトとしては落とし込まれている。ただ局面別、シチュエーション別、個別で見た時はどうか。つまり落とし込む程度の問題だ。どの哲学がいいという話ではなく、選手が迷いながらプレーするシーンを1つでも減らさないといけないし、その責任は森保監督をはじめ、コーチ陣にある。森保監督の人間性が周囲から評価され、選手からも信頼されているというのであれば、なおさらもっと自分の哲学や意思を押し出していいし、受け入れてもらえるはずだ。今回のベスト8敗退という現実は重い。今までの延長戦上でやっていたのでは、今後も同じような悲劇が起こるだけだ」

(FOOTBALL ZONE編集部)

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金田喜稔

かねだ・のぶとし/1958年生まれ、広島県出身。現役時代は天才ドリブラーとして知られ、中央大学在籍時の77年6月の韓国戦で日本代表にデビューし初ゴールも記録。「19歳119日」で決めたこのゴールは、今も国際Aマッチでの歴代最年少得点として破られていない。日産自動車(現・横浜FM)の黄金期を支え、91年に現役を引退。Jリーグ開幕以降は解説者として活躍。玄人好みの技術論に定評がある。

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