新生・鹿島は上昇できるか 常勝軍団復活へ期待高まる一方…「懸念も見え隠れ」【コラム】
ポポヴィッチ新監督の下、実戦機会でスタイルの方向性を明示
「揺さ振れ、揺さ振れ」
鹿島アントラーズのベンチから声が飛ぶ。しかし、この指示は今のチームではない。2020年のザーゴ監督が指揮を執っていたときのベンチから発せられた言葉だ。
ザーゴ監督時代の鹿島は後方のDF陣と中盤の選手が横にパスをつないで相手守備の体勢を崩し、そこを突破口としてゴールを目指すサッカーをチームスタイルとしていた。この戦術は完成を見ることなく終わる。相手を完全に崩すことに意識が向かい過ぎ、ゴールを決めるという本来の目的が二の次になってしまったことが機能しなかった要因だ。
サッカーでボールを持った選手の前方が、まったくのクリアになることはそれほどない。状況によっては相手DFとの1対1での勝負が必要となる。それをあくまでも戦術によって完全に崩すことを念頭に置いてしまったザーゴ監督時代のチームは、手数が必要以上に増えることによってミスが生まれ、あるいは時間をかけ過ぎて相手の守備体系が整ってしまい、その頑強となった砦に跳ね返される状況に陥った。
新シーズンに向けて鹿島が招聘したランコ・ポポヴィッチ監督もボールを保持することを重視している。ただ、ザーゴ監督時代の鹿島と比較すると、前線にボールを早く送る意識がより強く、さらに局面によって打開する方法を戦術と個人の力の2通りで使い分けている。実際に30日に行った徳島ヴォルティスとのトレーニングマッチでは目指すスタイルが機能し、流れるような連係プレーが展開された。
タイトな守備で相手の攻撃を封じてマイボールにすると、グループによるダイレクトプレーでの崩しを見せたかと思うと、打って変わって一気にロングキックでボールを前線に送りゴール奪取を目指す。
昨年の岩政大樹監督のチームでも後方からのロングパスで得点を狙うプレーは見られたが、そのパスは前線の選手につながるかは一か八かのギャンブル的要素が強かった。だが、ポポヴィッチ指揮下のチームでは、選手間での意思疎通ができていて、その攻撃にも意図を感じる。
監督が示すチームのコンセプトを選手たちが着実に吸収しているように見えた。強化アドバイザーを務める鈴木満氏も昨年は攻守に渡ってどうプレーするのかという明確な方向性があまり示せなかったが、今年は監督のコンセプトがしっかりと伝えられていると話す。戦うスタイルの方向性は定まっているということだ。そして、徳島戦では合格点の内容を見せた。
しかし、それはあくまでもトレーニングマッチでしかない。なにより相手の守備意識が鹿島以上に高く、サッカーをさせてもらえない状況において、この攻守が連動したスタイルがどれだけ力を発揮できるかは、今のところ未知数に思えた。守備面で激しく戦うスタイルは、相手の出方によっては荒れた潰し合いとなることを誘発するのではないかという懸念も見え隠れする。
復活を目指す鹿島のチームレベルは公式戦を戦ってみて、初めて見えてくる。ただ、ここ数年の優勝争いに加われず、試合内容でも閉塞感があった低空飛行の状況から、鹿島は上昇する術を身につけてきていることは間違いない。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。