槙野智章氏、内田篤人氏が代表戦中継で“先発” やんちゃ世代が持つ勝ち抜く力【コラム】

U-20ワールドカップ参加時の内田篤人氏(左)と槙野智章氏【写真:徳原隆元】
U-20ワールドカップ参加時の内田篤人氏(左)と槙野智章氏【写真:徳原隆元】

幼少期にプロに憧れ、厳しいヒエラルキーの世界を勝ち抜いた“やんちゃ世代”

 まさに席巻しているという言葉がピッタリなのではないだろうか。その席巻している人物は槙野智章氏と内田篤人氏だ。最近の日本代表戦のライブ中継では、解説者やレポーターを務める彼ら2人の姿を見る機会が圧倒的に多くなっている。ライブ中継の“先発メンバー”と言っても過言ではない。

 振り返れば槙野氏と内田氏が日の丸を背負い、世界の舞台で戦った姿を最初に撮影したのは、2007年に開催されたU-20ワールドカップ(W杯)だった。6月最後の日から始まった夏のカナダでの大会は気候的にも過ごしやすく、大会運営もフル代表のW杯と比較して報道陣に対する制約もほとんどなく、ボランティアの方たちも実にフレンドリーだった。さらに日本が堂々と世界と渡り合ったことで、良い思い出として心に刻まれている。

 槙野氏と内田氏に加え柏木陽介氏、梅崎司(大分トリニータ)、安田理大氏ら見るからにワンパクそうな選手が揃った日本は、どの試合でも真っ向勝負を挑み、内容の濃い戦いを演じた。

 グループリーグでの初戦となったスコットランド代表戦を3-1(得点者は森島康仁、梅崎、青山隼)で快勝すると、勢いに乗った日本は続くコスタリカ代表を1-0(得点者は田中亜土夢)で振り切る。最終戦のフィジカルを武器とするアフリカのナイジェリア代表にも臆することなく戦い、スコアレスドローで切り抜けた。2勝1分の好成績でグループリーグを首位で通過したのだった。

 決勝トーナメントに入ったラウンド16の対チェコ代表との試合も先制、追加点(得点者は槙野、森島)を奪取して試合の主導権を握った。だが、終盤に追い付かれPK戦の末に惜しくも敗れることになる。結果的に驚くような成績は上げられなかったが、選手たちの技術や勝利を目指す精神面の強さは、対戦したどの国にも引けを取ることはなかった。

 1987年生まれの槙野氏と88年生まれの内田氏にとって日本のプロサッカーリーグは、すでに彼らの幼少期に存在していた。そのためプロ選手になることを現実的な目標として考えることができたはずだ。そして、自分の実力を信じて厳しいヒエラルキーの世界を勝ち抜き、プロサッカー選手となり代表のユニフォームに袖を通すまで上り詰めた。

現役引退後はライブ中継を中心に知を還元している【写真:徳原隆元】
現役引退後はライブ中継を中心に知を還元している【写真:徳原隆元】

指導者や解説者に「プロ選手を経験した人物」が普通の風景に

 そうしたプロ選手としての世界での豊富な経験は、彼らのコメントにも説得力をもたらす。Jリーグ誕生から30年以上の月日が流れた今、クラブ運営や現場の指導者などサッカーを取り巻くさまざまなポジションで、プロ選手を経験した人物が名を連ねるようになった。

 当然、報道の部門でも解説者は多くの場合でプロ選手経験者が担い、もはやそれが普通の風景となっている。プロ選手としての経験という知の形が、現在の日本サッカーに多大な影響を与えていることは間違いない。ただ、プロ経験の名刺を持っているからと言って、託された分野での活躍が約束されているわけではないし、成功するとも限らない。プロを経験していなくても経営者や指導者で高い評価を受けている人物もいる。そうしたさまざまな経験を持つ人たちが切磋琢磨することによって、サムライブルーを筆頭にJクラブチーム、そして日本サッカーを取り巻くあらゆる環境が進歩していくのだと思う。

 代表チームに目を向ければW杯出場が現実として捉えられ始めた1990年代からの歴史を紐解いてみても、最高の選手が揃った今のサムライブルーには、アジアカップ優勝への期待がかつてないほど高まっている。イラク戦のような不甲斐ない試合をすれば厳しい意見が飛び交う。それは代表に対する期待度が高いという証拠だ。

 グループリーグを突破し、いよいよ負けられない試合が続くなかで日本は本領を発揮することができるか。森保一監督の手腕の見せどころだろう。

 それにしてもスーツやジャケットを着てクールに決め、解説やレポートをする現在の槙野氏、内田氏と比較して2007年の彼らは見るからにやんちゃだ。いや、今でもふと見せる仕草はやんちゃだった。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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