英リーグ杯、なぜ「不要論」が蔓延? 名将ペップ「この大会を削ればいい」と言い放った背景【現地発】

揺れるリーグカップの存在意義【写真:Getty Images】
揺れるリーグカップの存在意義【写真:Getty Images】

リーグカップの日程見直しを巡りプレミアとフットボールリーグが対立

 1月24日、リバプールが前日のチェルシーに続いて今季リーグカップ決勝に駒を進めた。2年前の決勝で、リバプールに軍配が上がるPK戦(11-10)まで大接戦となった両軍対決は記憶に新しい。

 だが同日には、来季以降の“縮小”を巡り、大会を主催するフットボールリーグ(2~4部)と、国内トップのプレミアリーグとの衝突も報じられた。シーズンの過密スケジュールと選手の過労に歯止めをかけたいプレミア勢は、準決勝ホーム&アウェー開催の見直しを要求。ところがフットボールリーグ側は、63年前の第1回大会からのしきたりどおり、セカンドレグ制の準決勝を含む来季の開催を決めたのだった。

 この国内第2のカップ選手権には、「廃止の潮時」と指摘する声が年々高まっているのが実情だ。今季の両ファイナリストに関しては、プレミアのビッグクラブには珍しくリーグカップ優勝を強く望んでいると言える。リーグ優勝候補と目されながら5位に終わった昨季を経て、自らが「リバプール2.0」と呼ぶ新バージョンのチーム作りに着手したユルゲン・クロップ監督は、アウェーでの準決勝第2レグでフルハムを退けた(合計3-2)あと、「(初の決勝進出が懸かっていた相手と)同じぐらい勝ちたかった」と話していた。

加えて、その翌々日に発表された今季限りでの退任。クロップ体制最終シーズンのタイトル第1号として、チーム全体が2月25日のウェンブリー・スタジアムで勝つ決意を新たにすることは間違いない。

 その決勝で対戦するチェルシーは、リバプール以上にリーグカップ優勝を必要としている。昨季をまさかの12位で終えた若いチームを受け継いだマウリシオ・ポチェッティーノは、ベスト8進出時点でリーグカップでのタイトル獲得を「優先目標」と評していた。新監督自身にとっても、イングランドでの初タイトルという付加価値を持つことになる。

 だが逆に言えば、こうした異例の事態にでもならない限りは、主要タイトルの中で優先順位が最も低い大会。それが、リーグカップにほかならない。

カラバオ杯準決勝セカンドレグでチェルシーに大敗したミドルスブラ【写真:Getty Images】
カラバオ杯準決勝セカンドレグでチェルシーに大敗したミドルスブラ【写真:Getty Images】

賞金、副賞、位置付け…リーグカップのうまみは少ない?

 同じことがフットボールリーグ所属クラブにも言える。リーグカップ戦でのスタメン入れ替えは、プレミア勢以上に、プレミア昇格を最大目標とするチャンピオンシップ(2部)勢の間で頻繁に見られる。そうしたチームを見守るファンの感覚も同様。リーグカップ戦での勝ち負けには大してこだわらない。ミドルズブラが敵地で大敗したチェルシーとの今季準決勝セカンドレグ(1-6)で、改めてそう感じた。

 スタンフォード・ブリッジに駆けつけた約4000人のアウェーサポーターは、大量失点にもかかわらず最後まで声を出し、試合が終わると拍手でチームを労ってもいた。とはいえ、本当に大一番との認識であれば、より多くの「12人目」が国内北東部から駆けつけたのではないか? さらなるチケット割当ても可能だったが、ニーズがなかった。

 ミドルズブラは、決勝のウェンブリーまであと90分、しかもファーストレグで先勝(1-0)してもいた。これがFAカップであれば、より多くのファンが西ロンドン遠征に同行していても不思議ではない。事実、その3日後のFAカップ戦では、やはり平日のナイターで、まだ32強の4回戦でも、アストン・ビラが6000人を超すサポーターを引き連れてチェルシーのホームに乗り込んでいる。

 同じカップ選手権でも、「伝統の」と形容されるFAカップには、サッカーの大会では世界最古の150年を超す歴史に加え、弱者がスポットライトを浴びる「浪漫」の香りが漂う。今季もノンリーグ(セミプロ以下)勢を含む732チームがエントリー。6部リーグのメイドストーンが、BBCテレビで生中継されたイプスウィッチ戦で2部のプレミア昇格候補を下して16強入りを果たし、全国的な注目を浴びたばかりだ。

 かたや、1~4部の計92チームによるリーグカップには「カネ」の匂いがする。そもそも、誕生に至った要因の1つが所属クラブへの追加収入提供。そして、その「カネ」が大会の“アキレス腱”となっている。1980年代の「ミルクカップ」、90年代の「コカコーラカップ」など、大会スポンサー名にちなんで名称は変わっても、賞金レベルの低さは変わっていない。

「カラバオカップ」と呼ばれて7年目の今季も、優勝賞金は10万ポンド(約1880万円)。FAカップの20分の1でしかない。リバプールとチェルシーにすれば、それぞれの最高給取りであるモハメド・サラーとラヒーム・スターリングの日給2日分程度だ。第2ラウンドの7000ポンド(132万円弱)など、同ラウンドから参戦する欧州戦のないプレミア勢はもとより、チャンピオンシップ勢にとっても賞金と呼ぶことがはばかられる額だろう。

 3、4部リーグから王者が生まれれば、それなりの優勝賞金と受け止められもするだろうが、優勝自体が非現実的だ。過去30年間の優勝チームはプレミア所属クラブばかり。2011年のバーミンガム・シティと13年のスウォンジーにしても(いずれも現2部)、トップリーグ時代に実現された大会初優勝だった。そのプレミア勢にとって、欧州第3の大会であるヨーロッパ・カンファレンスリーグ出場権という“副賞”は、試合が増えるだけの「ありがた迷惑」に近い。

対立の背景にある思惑と大会軽視の風潮

 そして、準決勝の開催方式を巡る今回の対立にも「カネ」が絡んでいる。フットボールリーグは、準決勝の試合数を減らす経済的補償として、プレミアリーグから6年間で9億ポンド(約1692億円)相当の資金援助を期待していたが、具体的な申し出のないまま時間が過ぎていた。その報復行為として、ホーム&アウェー開催の継続を決めたようなものだ。

 プレミア側は、セカンドレグ制が改められないようであれば、欧州カップ戦参戦組のリーグカップ出場辞退、あるいはU-21チームでの出場に踏み切る意向を示していた。それだけ軽視される大会、言い換えれば全出場チームが真剣に優勝したがっているわけではない大会に、果たして開催され続ける意義があるのだろうか?

 ビッグクラブは、アーセン・ベンゲル監督時代のアーセナルを筆頭格として若手登用の舞台という意義を見い出してはいた。だが今日では、欧州最高峰のUEFAチャンピオンズリーグでも、グループリーグを同じ目的で活用するようになっている。

 フットボールリーグが、プレミアとFA(イングランド・サッカー協会)に対して自らの存在を誇示する手段としてもリーグカップにこだわっていることは言うまでもない。だが、その大会が純粋なプライドの表れであるとしたら、プレミアから提供される補償金の有無や高低を問わずに、準決勝のホーム&アウェー開催が改められているはずだ。一発勝負であれば、下部リーグ勢が番狂わせを起こす可能性も高いのだから。ファーストレグでのミドルブラも然り。リターンマッチのない早期ラウンドでは、リンカーン(3部)がPK戦に持ち込んでシェフィールド・ユナイテッドを下してもいる。

 ところがリーグカップの実態は、主催者が準決勝の一発勝負化を“人質”としてプレミアからの「カネ」を待っているようなもの。いっそのこと廃止となっても、プレミアはもちろん、フットボールリーグにも第2のカップ選手権のないシーズンを嘆くクラブなどほとんどいないのではないかと思われる。

「この大会を削ればいい。量を減らして質を高めるわけさ」とは、ジョゼップ・グアルディオラの言葉。4年前、マンチェスター・シティをリーグカップ3連覇へと導く途中の準決勝で、過密日程の緩和策を問われた際の発言だった。監督界の現役最高峰の意見になびくわけではないが、ここにも賛同者が1人いる。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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