40歳GK川島永嗣、半年無所属もクオリティー不変 貪欲な姿に監督脱帽「一切衰えない」【コラム】
14年ぶりにJリーグ復帰、40歳ベテランGKが放つ存在感
「やっぱり川島選手です。今までの経験だったり、恐れ多いですけど、どんどん聞いていきたいです」
そう語ったのは東邦高校からジュビロ磐田へ新加入したMF朴勢己だった。ボランチとセンターバックのポリバレントという朴は目標にしているのが元スペイン代表のMFセルヒオ・ブスケッツだというが、そんな彼が話を聞きたい選手としてGKの川島の名前を挙げるほど、川島はポジションを超えて大きな存在ということだ。
それがGKの選手であればなおさら。磐田のユース出身で、立正大学から加入したGK杉本光希は「自分が1年目で成長するにはすごい贅沢な環境だと思う」と語るが、その杉本にとって幼少からの憧れの存在が川島であるという。
「自分がキーパーを始めたのが小学校の3年生か4年生だったんですけど、その時に南アフリカのワールドカップがあって。その直前の親善試合(イングランド戦)で川島永嗣さんのPKストップ観て、キーパーってかっこいいなと」
昨夏にフランス1部のストラスブールを退団した川島はこの半年間、所属クラブがなかった。しかし、川島は「生活スタイルもあんまり変わってなかったですし、トレーニングを継続して。あとは子供が小さいので家族との時間を過ごしてというのはあまり変わらなかった」と語ったとおり、始動日のGKトレーニングからGK陣にとって見本のようなクオリティーを示した。
1つ1つのキャッチ、止めて蹴る練習まで正確でスムーズ。南アフリカW杯で川島と一緒だった川口能活GKコーチのリクエストに応えながら、昨シーズンのJ1昇格を守護神として支えたGK三浦龍輝やJ1王者のヴィッセル神戸から期限付き移籍加入したGK坪井湧也に声をかけていた。横内昭展監督が強調するように、川島も正GKの立場が約束されているわけではないが、間違いないのはGK陣のレベルと意識が引き上がることだ。
「なんか、やっぱりこういう形で来ると、いろんな経験を伝えるとかと言われますけど、経験というのは話して伝わるものでもないですし、やはり実際に感じることが一番だと思う。僕自身、何かを教えるとか伝えることができるかどうか分からないですけど、そのなかで自分自身が若い選手から学ぶことも多くありますし、そこはもうお互い切磋琢磨しながらね。チームの中で成長していければいいのかなって思います」
そう語る川島はこれまで日本代表でも、ほかのGKとのフラットな競争状態を大事にしてきた。そのなかで、豊富な経験をナチュラルに影響させていける。川島のそうしたスタンスはGK練習だけではない。ランニングやストレッチなどで、例えば20歳のDF西久保駿介などとコミュニケーションを取る姿が見られた。
川島がゴール前からチームに与える安心感はそれだけで、J1で戦う磐田の強みになり得るが、日頃のトレーニングから川島が磐田にもたらすものは大きいだろう。横内監督は「代表コーチの時に、一緒に仕事させてもらいましたけど、そこに関しては貪欲。もう年齢とか関係なく、本当に自分が少しでも上手くなりたいということには本当に貪欲に取り組みますし、そこに関しては一切衰えてない」と語る。
2010年以来、14年ぶりにJリーグ復帰した守護神は40歳になっても年齢に関係なく、向上心を持ち続ける。そんな川島の存在は間違いなく大きい。そんな川島に向けて「永嗣であってもポジションが約束されていない」と横内監督は強調するが、GK全体を引き上げた先に、川島が磐田のゴールを守る道があるのかどうか。どういう立場になっても、常にベストの準備を心がける川島の影響力が、どうチームの成長につながっていくのか。楽しみに観て行きたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。