日本代表がアジア杯苦戦の訳…強豪のプライドは不要? 「良い守備からの良い攻撃」で説明可能【コラム】

森保ジャパン、アジア杯で苦戦の理由は?【写真:Getty Images】
森保ジャパン、アジア杯で苦戦の理由は?【写真:Getty Images】

「良い守備」ができない時は「良い攻撃」もできなくなる日本

 カタール・ワールドカップ(W杯)でドイツとスペインに勝ち、クロアチアに引き分けた(PK負け)。その後もドイツに再び勝利し、トルコも破り、欧州勢に無敗を誇る日本代表が、なぜかアジアカップで苦戦している。

 ベトナムにリードを許し、イラクに敗れ、インドネシアには勝ったがグループリーグは2位通過となった。それ以前の10連勝はなんだったのかと思われるかもしれないが、この疑問は森保一監督のモットーである「良い守備からの良い攻撃」でほぼ説明がつく。

「良い守備」は日本のバロメーターであり、それができている時の日本は確かに強い。ところが、「良い守備」ができない時は「良い攻撃」もできなくなる。日本に「良い守備」をさせない、あるいは日本にボールを持たせることを前提に試合を行うのがアジアの対戦相手であり、そこに苦戦の原因がある。

 繰り返すが、森保監督は「良い守備からの良い攻撃」と言っていて、決してその逆ではない。その逆、つまり「良い攻撃からの良い守備」は、単に語順が違うという話ではなく、戦い方として全然違うものなのだ。

 これの好例はマンチェスター・シティだろう。圧倒的にボールを支配し、敵陣に押し込み、奪われてもハイプレスで早期回収。「良い攻撃」が「良い守備」につながっている、というより守備機会そのものが極端に少ない。シティを筆頭に、FCバルセロナ、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマンといった欧州の強豪に共通するプレースタイルである。

 このスタイルを完結させる条件がボール保持率の高さ。70%を超えていること。なぜかというと、保持率がそれ以下だとハイプレスがリスクになるからだ。古今東西、なぜかハイプレスが有効なのは試合時間の半分ほどで、およそ前半の30分間、後半の15分まで。それ以外の時間、ハイプレスはハマらなくなる。ハマらないハイプレスはカウンターされるリスクが増大する。このリスクを軽減するにはハイプレス以外の守備ができるか、守備機会そのものを極端に減らしてしまうことで、後者の場合は保持率70%が一応の目安になるわけだ。

日本の問題点…強豪スタンダードの「良い攻撃からの良い守備」とは異なる戦い方

 森保監督の「良い守備からの~」が「良い攻撃からの~」にならないのは、W杯を想定した場合、日本の保持率が70%以上を維持できるとは考えていないからだ。むしろ相手にボールをより多く持たれることを前提に戦い方を決めなければならない。そうなると、コンパクトなミドルプレスを軸にした「良い守備」がまず必要になる。

 そのため、日本のハイプレスはミドルプレスに変化できるような構造になっている。ハイプレスに徹してしまうと、外された時にミドルゾーンの守備ブロックを再構築する前に攻め込まれてしまうからだ。これは「良い守備」を安易に放棄しない手堅いやり方と言える。

 ところが、アジアでの戦いでは相手があらかじめ引いてしまうことがほとんどで、日本は攻め込めるので守備はそのままハイプレスになるのだが、奪い切るには少し腰の引けたプレスになっている。

 イラクにはそこを狙い、ロングボールからのこぼれ球を拾う攻め込みを行った。日本のハイプレスはゾーンのまま押し出すので圧力がやや弱く、中央にフリーマンも配置しないのでセカンドボールの回収力も不足している。ハイプレスはセンターバックがほぼハーフウェイラインまでしかポジションを上げられないので、およそカバーすべき深さは40メートルあり、ミドルプレスの基準である30メートルより長い。

 それだけプレスの精度が要求され、ハイプレスに振り切っているチームは中央にフリーマンを置いてサイドチェンジやマーク漏れを防ぐ役割を負わせている。そのぶん、相手の誰をマークしないのかも決めていて、そこには絶対にボールがいかない前提で守備をしている。ミドルゾーンへの撤退込みの日本のハイプレスとは構造が違う。アジアでの日本は70%以上ボールを持てるかもしれないが、ハイプレスの構造がそれで押し通すにはやや脆弱なのだ。

 アジアカップの日本は強豪の立場なのだが、得意な戦い方が強豪スタンダードの「良い攻撃からの良い守備」ではない。自分たちの専門とは少しずれた異種格闘技戦を強いられている状態と言えるかもしれない。アジアを確実に制するには、強豪のプライドを捨て、ボールも相手に持たせ、本来の「良い守備からの良い攻撃」に徹するのが良いのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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