中村敬斗は「三笘の代役ではない」 6戦6発の偉業も「ラッキー」と言い切る訳【現地発】
ベトナム戦では勝ち越しゴールでチームを救った
森保一監督率いる日本代表は、1月14日に行われたアジアカップのグループリーグ初戦でベトナムに4-2で勝利した。フィリップ・トルシエ監督率いるベトナムに苦戦した日本だが、MF中村敬斗(スタッド・ランス)が決勝点を挙げデビュー戦から6戦6発という偉業を達成。“敬斗ゾーン”からのスーパーゴールで自身の価値を改めて証明した。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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やはり頼りになる男だった。2-2で迎えた前半アディショナルタイム、左サイドでボールを受けた中村は、切り返しで相手守備陣2人を振り切ると、そのまま右足を一閃し、強烈なミドルシュートを突き刺して勝ち越した。
日本は前半11分、コーナーキックにファーサイドでDF板倉滉が関わり、こぼれ球をDF菅原由勢がシュート。これがさらにこぼれたところを南野が冷静に押し込んで先制。しかし前半16分、ベトナムに左コーナーキックをニアサイドで、FWグエン・ディン・バクに合わせられると、バックヘッドはGK鈴木彩艶の頭をふわりと越えてゴールへ吸い込まれ、瞬く間に同点に追い付かれた。
その後、前半33分にはカウンターを阻止した菅原がイエローカードを受け、フリーキックを献上。ゴール前に入れられると、ファーサイドからのシュートを鈴木が弾いたところをFWファム・トゥアン・ハイに押し込まれてしまい、1-2とまさかの逆転を許した。それでも日本は前半45分、MF遠藤航の縦パスに抜け出した南野がゴール右隅に流し込んで同点。何とかリードして折り返したい……そんな時間帯で中村が決めた。
「自分で言うのもなんだけど、いい時間に同点になってゴールも取れたので良かったなと。試合前からゴール前ならパスじゃなくて振った方がいいと言われていた。振って良かった」
そして後半40分にも途中出場のMF久保建英のパスからFW上田綺世が4点目を決め、日本は4-2で大会初戦を飾った。
昨年3月に日本代表へ初招集。「僕は崖っぷち」。中村は連続招集されてもなお、常に危機感を持って合宿に参加してきた。左サイドはMF三笘薫(ブライトン)が絶対的な存在だとされ、囲み取材では比較されるような質問を受けたこともある。昨年9月、世界遺産の街ランスで1度本人に失礼を承知で直接聞いた。「正直、三笘の“2番手”のように言われることをどう思うか」。中村の答えはこうだった。
「正直、薫くんが1番手とか僕は本当にどうでもいいんですよ。どうでもいいと言うと言い方が悪いかもしれないけど、僕が何番手であったってそういうことじゃないんです。やることは変わらないから」
そうだった。高校生でガンバ大阪に入団したころから、中村はずっと自分自身にベクトルを向けてきた。悪い時期があったら自分のせい、結果が出たら周りのおかげ――。だからこそ、A代表デビューから6戦6発という偉業を達成しても「今日みたいなゴールは代表ではなかったけど、5試合5ゴールはこぼれ球か味方のクロス。本当にラッキー」と話す。
何度も言われた「三笘の代役」という肩書。プレースタイルも違う。何より、三笘の力を誰よりもリスペクトしているのは中村自身だ。だからこそ、代役ではない。「中村敬斗」という存在で、その価値をまた自身で証明した。
また期待は高まるだろう。だが、きっと中村は周囲の声を気にすることなく、ただただチームのためにゴールを目指し続けるはずだ。