佐野日大がラスト15分で見せた意地の奇襲攻撃 涙の指揮官「耐えて守るばかりで辛かったと思う」

「引いて守るだけではないところを…」

 前橋育英との決戦も、陣形はFW野澤陸を1トップに置く5-4-1。5人で守備ラインを形成し、その1列前に4人を並べる極めて守備的な布陣を敷いた。流れのなかからは逆襲・速攻でしか得点できそうにない。またはセットプレーで仕留めるか、相手の致命的ミスという幸運を期待するくらいだ。

 0-1のまま追加点は奪われないが、同点ゴールも生まれない。海老沼監督は残り時間が短くなると、陣形を崩してパワープレーに出た。もう奇襲戦法に頼るしかない。後半43分には、県予選でレギュラーのストッパーだった180センチのDF原悠斗を投入し、最前線でプレーさせた。

 今大会初出場の原は、「半端ないほどヘディングの練習をこなしてきたので、自分がどうにかしてやろうと思いました」と初体験の前線で動き抜いた。それでもシュートは1本も打てず、チームは無得点に終わり初の決勝進出を逃した。

 佐野日大の選手として第66回大会に初出場した46歳の指揮官は、記者会見の途中から何度も言葉を詰まらせ、涙を落とした。選手の奮闘がうれしかった。3回戦で敗退した自らの記録を大幅に更新したイレブンが誇らしかった。

「今まで選手を褒めたことはありませんが、辛い練習にもよく耐えてついてきてくれた。ありがとうと言いたい」

 最後の最後で攻撃的に向かっていったことについて海老沼監督は、「0-1で終わらせたくなかったし、引いて守るだけではないところを示したかった。耐えて守るばかりで辛かったと思う。ラスト15分は引かずに攻めに出ました。意地を見せたかった」と言っては涙を拭い、再開しては下を向いて涙を落とした。

 昨夏からここまでの道のりを思い出すと、万感胸に迫るものがあったのだろう。

【了】

河野 正●文 text by Tadashi Kawano

 

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