J2清水、秋葉監督×新体制で挑む昇格への道 選手へ求める“メンタル改革”…賛否を読んだ乾発言の核心【コラム】
新体制発表記者会見の様子から…今季清水の状況を探る
60を数えるJクラブの先陣を切る形で、今月5日に本拠地IAIスタジアム日本平で行われた清水エスパルスの2024シーズン新体制発表記者会見は、山室晋也社長の謝罪から始まった。
「昨シーズンは多くのファン・サポーター、パートナーのみなさまに多大なる応援、ご支援をいただきながらJ1昇格を果たせなかったことに、クラブを代表して深くお詫び申し上げます」
1年でのJ1復帰を合言葉に臨んだ昨シーズン。最終的に勝ち点1差で自動昇格できる2位を逃し、気持ちを奮い立たせて臨んだJ1昇格プレーオフでは決勝で東京ヴェルディと引き分けて涙をのんだ。
クラブ史上で初めて、2シーズン連続でJ2を戦う理由は分かっている。勝てば自動的にJ1昇格が決まった水戸ホーリーホックとの最終節で引き分けて2位から4位へ順位を下げ、上記の東京V戦でも後半アディショナルタイムにPKを献上。リーグ戦の成績上位だった3位の東京Vが、規定により16年ぶりの昇格を果たした。
山室社長は「悔やんでも過去は戻らない」と前を向きながら、昨シーズンのチームを厳しい言葉で総括した。
「勝負弱いとかではなく、ここ一番で本当の力を発揮できない甘さと緩さ。それが実力でした」
ゼ・リカルド前監督を続投させた昨シーズン。開幕7試合で5分け2敗と大きく出遅れた4月上旬にブラジル人指揮官を慌てて解任し、秋葉忠宏ヘッドコーチを監督に昇格させた。目標こそ達成できなかったものの、第8節以降の35試合で20勝9分け6敗とV字回復させた手腕が評価されて秋葉監督の続投がまず決まった。
一方でJ1昇格を逃した責任を取る形で、大熊清ゼネラルマネージャー(GM)が昨年末に退任した。当面はGMポストを空席にしたまま、2017年から強化部長を務める内藤直樹氏のもとに、クラブOBで前広報部長の高木純平、前強化部スカウト担当の兵働昭弘両氏を強化部副部長に就ける組織改革を行った。
“トロイカ体制”で進められてきた新シーズンのチーム編成で、最も重視してきたポイントは何か。内藤強化部長は「秋葉監督のサッカーを良く理解していて、チームへの落とし込みができるかどうか」と説明する。
新たなコーチングスタッフでは、依田光正コーチ(前福島ユナイテッド監督)、土屋明大GKコーチ(前モンテディオ山形GKコーチ)、佐藤亮佑コーチ兼分析(前水戸コーチ)が秋葉監督と仕事をした接点がある。
さらに新卒を含めた9人の新加入選手では、MF矢島慎也がリオ五輪代表で秋葉コーチの指導を受け、DF住吉ジェラニレショーンとMF松崎快が水戸で秋葉監督のもとでプレーしている。矢島と松崎はそれぞれレノファ山口と浦和レッズから完全移籍で、住吉はサンフレッチェ広島から期限付き移籍で加入した。
助っ人FWの契約「もうしばらくお待ちいただければ」
序盤戦で急きょ監督に就任した昨シーズンとは対照的に、新チームの始動時から“秋葉色”を強め、継続性を高めようする編成の意図が伝わってくる。一方で気になる点もあった。会見当時、昨シーズンのチーム得点王カルリーニョス・ジュニオ、2022シーズンのJ1得点王チアゴ・サンタナの両FW去就が決まっていなかったからだ(カルリーニョス・ジュニオは1月8日付けで契約更新)。
新体制発表記者会見で公表された2024シーズンの選手リストで、カルリーニョスは「10番」に、サンタナは「9番」に引き続き名を連ねていた。しかし、内藤強化部長は当時「契約交渉中です」と現状を説明した。
「この場で詳細を言うのは控えたいといいますか、12月2日までJ1昇格プレーオフを戦った影響もあって(チーム編成が)かなりずれ込んでいる。日本人選手との契約合意は何とかたどり着いた形ですが、外国人選手に関しては申し訳ないですけれども、もうしばらくお待ちいただければと思います」
日本人選手でも、キャプテンを務めたDF鈴木義宜が京都サンガF.C.へ、ドリブラーのMF中山克広が名古屋グランパスへ、右サイドを活性化させたMF岸本武流がガンバ大阪へそれぞれ完全移籍。昨年3月にブラジルのグレミオへ期限付き移籍していた、パリ五輪世代のMF松岡大起もアビスパ福岡へ新天地を求めた。
フィールドプレイヤーでは鈴木に次ぐ出場試合数とプレー時間をマークし、中盤を支えたブラジル出身のボランチ、ホナウドの退団も今月3日に決まった。J1昇格を逃したチームから主力選手がJ1クラブへ移籍するのは、他チームも含めて避けられない宿命と言っていい。それでも秋葉監督はこんな言葉を残している。
「ほかのチームへ移籍していく選手の数も、最小限にとどめていただいた」
昨年末のDF吉田豊やFW北川航也、DF高橋祐治らに続いて、年明けにはGK権田修一、DF山原怜音、MF白崎凌兵、DF北爪健吾、MF原輝綺が続々と契約を更新した状況に感謝した指揮官はさらにこう続けた。
「J1へ上がる自信は200%あります。コーチングスタッフと選手を含めて、最高の準備をクラブはしてくれました。あとはそこに報いるだけのものを、僕がしっかりと見せていくだけだと思っています」
標榜するサッカーのスタイルについて、秋葉監督は「昨シーズンと大きく変わらない」と明言した。昨シーズンの清水は総得点でリーグ2位の「78」を、総失点で同じく2番目に少ない「34」をそれぞれマークした。主力選手の一部が抜けても、ベースは変わらないと言いたいのだろう。ならば、新しく何を見せていくのか。
「勝負強さとは何か。今年1年間は選手、チーム、クラブだけでなく僕自身も含めて、勝負強いチームになれるかどうかにこだわっていきたい。答えは1つではなく、たくさんあると思います。ピッチ内外のすべてに目配せしながら、どのようにすれば緊迫した試合で勝ち点を持って来られるのか。勝ち点1に、1ゴールに、あと数分に全員でこだわりながら、とにかく常に勝負強さを追求していくシーズンにしたい」
メンタル面での改善を1つの指標に
水戸との最終節や東京Vとの昇格プレーオフ決勝がクローズアップされるが、清水はシーズン終盤の第37節で藤枝MYFCに、第40節ではロアッソ熊本にあっけなく敗れた。同居させる「強さ」と「脆さ」のうち、大事な局面で後者が顔をのぞかせる確率を激減させるために、秋葉監督はメンタル改革を進めていく。
「昨シーズンを戦い終えた後に選手たちにも言いましたが、忍耐力や継続力といった我慢強さが欠けているように僕には見えていた。ピッチ内だけでなくピッチの外でも、普通ならば嫌がるようなことから目を背けずに、自分たちから進んで実践していけるかどうか。奇抜なことや突飛なことをするのではなくて、当たり前のことをできるかどうか。いわゆる凡事徹底の繰り返しが勝利への近道だと思っている。そのためにも日常を大事にしていく。その先に勝負強さの源泉となるメンタル面の強さが備わると思っています」
指揮官が言及した「普通ならば嫌がるようなこと」を、元日本代表のMF乾貴士はメディアに対して忌憚なく発信している。引き分けに終わった昇格プレーオフの直後。相手のプレーを遅らせればよかった場面でスライディングタックルを選び、相手を倒してPKを献上した高橋の名前を挙げながら乾はこう語っていた。
「きついことを言うけど、まず滑る必要がなかった。(高橋)祐治自身もわかっていると思うけど、もうちょっと賢くならないと、レベルアップしないとJ1に上がるチームにはなれない。ここで勝てば、という試合がシーズンを通して何回もあった。今日も前の選手がもっと点を取っていれば、ああいうのがあっても勝てていた。その意味では自分も悪いけど、それでもあの場面でミスをしてしまうのは自分たちがJ2のチームだということ」
核心を突く言葉の数々は、当然ながらネット上で賛否両論を巻き起こした。それでも、誰かが嫌われ者にならなければいけないときもある。清水が前へ進むためにも必要だと信じ、自分自身を含めてあえて一刀両断した乾は昨年のクリスマスイブに、選手たちのなかで先陣を切って清水との契約を更新している。
乾はさらにピッチ上に舞台を移した、新体制発表記者会見の第3部にも出席。新ユニフォームを紹介するモデル役を務めながら、集まったファン・サポーターへ向けてこんな言葉を届けている。
「昨年は悔しい思いをさせてしまったので、今年こそは絶対にみんなで笑って終われるように頑張りたい」
清水の“逆襲”へ…秋葉監督が語ったスタートダッシュの重要性
清水は9日から新体制を始動させ、今月下旬からは鹿児島キャンプでチーム作りを本格化させる。2チーム減の20チームで争われる新シーズンへ。秋葉監督はスタートダッシュが重要性だと力を込める。
「そこでどれだけチームを波に乗らせるか。新しく入ってきた選手たちを融合させられるのか。そして、昨シーズンよりもブラッシュアップして、進化した姿を見せられるのか。そこへ最大限の準備をしていきたい」
前監督のもとで勝ち点を実に「16」も落とした、昨シーズンの開幕7試合で1つでも勝っていれば――それでも、過去はもう振り返らない。仮定の話もしない。攻守両面で長所をさらに磨き上げ、メンタル面から甘さや緩さを駆逐しながら、昨シーズンとは180度違った船出を見せるところから清水の逆襲が始まる。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。