昌平を救った指揮官の采配と1年生ヒーロー 値千金の同点ヘッド弾は「中学時代も含めて初めて」【高校選手権】
昌平がPK戦を4-3で制し、2年連続の3回戦に駆け上がった
昌平(埼玉)が米子北(鳥取)との東西プレミアリーグ同士の激戦を制した。12月31日に行われた第102回全国高校サッカー選手権2回戦で、優勝候補の昌平が1-1からのPK戦を4-3で制し、2年連続の3回戦に駆け上がった。
1回戦で奈良育英(奈良)を防戦一方に追いやり7ゴールで圧勝した昌平だが、2回戦では一転。米子北のタイトで忠実なグループ守備に手を焼き、何度か決定打を放ちながらゴールを割れない時間が、延々83分間も続いた。後半7分にはロングスローをきっかけに失点し、敗色濃厚な土壇場まで追い込まれたのだ。
失点直後に西嶋大翔(3年)、続いて鈴木宏幸(2年)の両攻撃的MFを投入し、31分にはFW工藤聖太郎(3年)とMF長璃喜(1年)を同時に送り込んで劣勢の局面を変えようとした。
とりわけ切れ味鋭いドリブルを武器とするU-16日本代表の長には、持ち味の仕掛けの美学に期待したわけだ。
長と交代したのは中盤の大黒柱である土谷飛雅(3年)だ。村松明人監督は「土谷の出来が悪かったわけでもないし、長を出すかどうかも迷った」と話し、「時間も時間だったのでサイドでの勝負に出たかった」と起用した理由を説明した。
逆襲劇が演じられたのは、3分のアディショナルタイムが超過した43分40秒だった。
右サイドバック(SB)田中瞭生(3年)が外から豪胆に攻め上がり、MF大谷湊斗(2年)との壁パスから敵陣深くに進出。良質のクロスをゴール前に供給すると、身長166センチの長が思い切りジャンプしてヘッドで同点弾を突き指した。1回戦でも後半開始から登場し左足で得点している。
決まった瞬間は歓喜の表情をつくったが、「自分は人見知りをするので、はしゃぐのは好きじゃない」と取材場所では、いつもの淡々とした語り口だった。「ヘディングで点を取ったのは、中学時代も含めて初めてです。得点シーンはあまり覚えていませんが、身体が勝手に動いた。感触ですか? (額の)芯に当たりました。めちゃ嬉しい」とニッコリ。
埼玉県予選はスーパーシードとして準々決勝から登場したが、初戦は細田学園にきりきり舞いさせられ、延長戦までもつれた。決着をつけたのは延長後半2分に振り抜いた長の左足だった。勝負強い1年生は「あのゴールより今日の得点のほうが嬉しい」と穏やかな口調で喜んだ。
采配がズバリ的中した村松監督は「西嶋の得点だと思っていたら、帰ってきた選手に璃喜だと知らされました」と笑わせると、「小柄なのでああいう点は見たことがない。驚きでした」と表現を変えてヒーローを称えた。
その細田学園戦で負傷し、決勝が終わってから1か月近く休養していた。その間に宮﨑宏基トレーナーとフィジカル練習して体幹を鍛えた。昌平の下部組織であるジュニアユースの街クラブ、FA LAVIDAでもMF山口豪太(1年)と同格のエースだったが、「あの頃と比べフィジカルとメンタルが強くなりました」と珍しく自己アピールもした。
2つ上で背番号10の兄・準喜は「弟とか関係なく、とにかく嬉しかった。兄が褒めるものではないかもしれませんが、次も試合ができるので感謝したい」と、記者の質問に答える弟を優しい視線で見やった。
(河野 正 / Tadashi Kawano)
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。