帝京長岡の“応援団長”が殊勲弾ヒーローに メガホン片手から一転…異色3年生「涙出るくらい嬉しい」逆転ドラマ【高校選手権】

帝京長岡が逆転勝利で2回戦に進出【写真:徳原隆元】
帝京長岡が逆転勝利で2回戦に進出【写真:徳原隆元】

帝京長岡FW谷中習人、大会直前までBチームからのメンバー入りで2得点と躍動

 スタンドで応援をしていた応援団長が一躍ヒーローの座についた。

 第102回全国高校サッカー選手権の1回戦、長崎総科大附との一戦で帝京長岡の3年生FW谷中習人が躍動した。1-2で迎えた後半21分に投入されると、その6分後に左サイドでボールをカットしたDF松岡涼空からのスルーパスに反応し、フリーで抜け出す。得意の左足のタッチからGKの位置をよく見て同点弾をゴールに突き刺した。

 さらに後半アディショナルタイム2分、左サイドを突破したMF原壮志からのライナー性のクロスを中央で受けると、胸トラップから鮮やかな左足ハーフボレー。ファインゴールで劇的な3-2の逆転勝利をチームにもたらした。

「普段から練習でチームのために声をかけたり、試合で必死にスタンドから応援したりと、プレー以外にも全力やってきて試合を迎えた。選手権の大舞台に出たいという気持ちで帝京長岡に入学したので、選手権メンバー発表で自分の背番号(22)が呼ばれた時は涙が出るくらい嬉しかった」

 谷中は選手権直前までBチームにいた。AチームとBチームを行き来することが多く、Bチームで過ごす時間のほうが圧倒的に多かった。選手権予選で出場時間はゼロ。スタンドでメガホンを持って応援団長としてチームの応援をリードしていた。悲願の高円宮杯プレミアリーグ初昇格を手にしたプレミアリーグ参入プレーオフでもメンバー外だった。

 しかし、最後の最後でチャンスが回ってきた。持ち前のずば抜けた得点感覚が、負けたら終わりのトーナメント戦で切り札になり得る。スタッフ陣からそう判断されて、選手権メンバーに入ると、重要な初戦でベンチ入りを果たした。

「いつもだったらスタンドからピッチの選手を見るという立場だったのですが、いざ自分がピッチに立って応援スタンドだったり、大観衆だったり、周りの選手を見てプレーする景色は何にも変えがたい素晴らしい景色だった。そういった環境の中でゴールを決めたかった」

 ピッチに投入されると、これまでの思いをぶつけるかのように躍動し、自らが思い描いた世界を最高の形で現実のものにした。

「(スタンドにいる)メンバーはBチームで今までずっと一緒にやってきたメンバーなので、物凄く仲もいいし、辛い時にも励まし合ってきた。試合に出られている、出られていないに関係なく、サッカーを一生懸命楽しめということはチーム147名全員がやってきたし、僕もその中の1人なのでこれからもそれを表現していきたい」

「これまで見たことがないベスト4以上の景色を見られるように頑張りたい」

 試合後、ヒーローインタビューを受けた谷中はほかの選手たちと遅れて80分間熱い応援を送ってくれた仲間たちが待つバックスタンドに向かった。大きな歓声を浴びると、3方向に深々とお辞儀をして、その声援に応えた。試合に出ることを切望するなかでも、いかに仲間を大事にしてきたのかがよく伝わる光景だった。

「(2回戦で対戦する)市立船橋さんは力のあるチームだとは分かっているからこそ、よりチームとしての一体感が必要になってくると思います。1人1人が全力で走って、チーム全体で勝利を掴んで、自分たちがこれまで見たことがないベスト4以上の景色を見られるように頑張りたい」

 帝京長岡史上初の全国ファイナリストという悲願達成に向けて、3年間戦ってきた仲間たちとともに戦う。それは応援団長としても、選手としても変わらない。その姿勢を彼は選手権を通じて示し続ける。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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