“左の最有力”中村敬斗が考える三笘との違い 異なる3つのワクワク感を胸に大舞台へ【コラム】

元日のタイ戦に臨む中村敬斗【写真:徳原隆元】
元日のタイ戦に臨む中村敬斗【写真:徳原隆元】

約2か月半ぶりに森保ジャパンへ復帰

 期待に胸を躍らせながら、中村敬斗は約2か月半ぶりに森保ジャパンに復帰した。しかも、国際Aマッチ出場4試合で4ゴールを決めている23歳のアタッカーの心には、異なる3つのワクワク感が脈打っている。

 12月28日から千葉市内で始まった、元日のタイ代表との国際親善試合(国立競技場)へ向けた代表合宿後に取材対応した中村が最初に言及したのは、大好きなサッカーを心置きなくできるきる喜びだった。

「ピッチに戻ってきたときには毎日を全力でプレーしようと決めていたんですけど、やっぱりサッカーができるのは楽しいですよね。とにかくボールを蹴れることがすごく嬉しいです」

 10月13日のカナダ代表戦の後半途中に、背後から相手の悪質なタックルを受けて負傷退場。はく離骨折を伴う重度の捻挫を左足首に負い、4週間から6週間の戦線離脱を余儀なくされた。

「チームの試合をピッチの外から見ていて、しっかりと応援しつつも、心のなかではやりきれない気持ちがありました。チームのみんなが戦っているなかで、怪我で何もできない自分への悔しさみたいな思いですね」

 今シーズンから所属するフランス1部スタッド・ランスで、戦列復帰を果たしたのが今月1日のストラスブール戦。途中出場で12分、続くニース戦で22分と少しずつプレー時間を増やし、16日のランス戦で先発。68分までプレー。年内最後の一戦となった20日のル・アーブル戦では先発フル出場を果たした。

 しかも25分に決勝点となる先制ゴールもゲット。心身ともに最高の状態で帰国していた。

「最初に先発した試合は正直、足首的にもまだできる感じじゃないかなと思っていたんですけど、代表も視野に入れていたなかで、そろそろ復帰しないといけないと考えていました。非常にラッキーな形でしたけど、それでも最後にゴールを決めて、なおかつフル出場できたのは良かったですね」

 次なるワクワク感は、元日に試合ができる喜びだ。ガンバ大阪は2021年元日に天皇杯決勝を国立競技場で戦っているが、中村はヨーロッパへ新天地を求めてすでに2シーズン目を戦っていた。

「元日の試合なのですごくワクワクしていますし、アジアカップを直前に控えた一戦でファン・サポーターのみなさんがより注目して見てくれる点で、なおさら楽しみにしています」

 最後のワクワク感は、来月12日からカタールで開催されるアジア杯へ向けたものだ。しかも、カタール代表に1-3で完敗し、タイトルを奪還できなかった2019年の前回大会を中村ははっきりと覚えている。

「選ばれたら代表として初めて臨む公式戦となるので、その意味でちょっとワクワクしています。前回のアジア杯は、僕はガンバのキャンプで沖縄にいて、決勝戦を含めてテレビで見ていました。実力的に見れば絶対に一番ですけど、決勝でああいう形になってしまった。どこの国も優勝を狙ってくるなかで、一発勝負の世界では正直、わからない部分もある。アジアの戦いでは難しさもありますけど、それでもしっかり勝ちたい」

 3大会ぶり5度目の優勝を目指すアジア杯では、中村に懸かる期待がさらに大きくなる可能性もある。左ウイングのファーストチョイスにして絶対的エース、三笘薫(ブライトン)の大会欠場が濃厚となっているからだ。

 12月21日のクリスタル・パレス戦で左足首を痛め、交代を余儀なくされた三笘の状態について、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督が「我々はしばらくカオルを失う。恐らく4週間から6週間かかる」と言及したと、複数の英メディアが27日に伝えた。アジア杯出場への可否を問われた指揮官は、さらにこう答えた。

「私はないと考えている」

三笘不在が濃厚のアジア杯…左サイドで躍動が期待される中村「みんなで戦っていく」

 アジア杯に臨むメンバーはタイ戦後に正式発表される。しかし、実際に欠場となれば第2次森保ジャパンでFW上田綺世(フェイエノールト)の7ゴールに続き、スタッド・ランスのチームメイト、MF伊東純也と並ぶ4ゴールをマークしている左ウイングの中村が放つ存在感が一気に増してくる。

「そこは僕というか、チームとしてみんなで戦っていくだけなので何も考えていないです」

 三笘の近況を問われた中村はこう答えながら、自身と三笘との違いについて言及した。

「お互いに相手ゴールへ向かう、というところは一緒だと思うんですけど、僕が持っている特徴はクロスに逆サイドから入っていくところであるとか、連係して組み立てていくところ、あるいはゴール前での、ペナルティーアーク付近でのアイデアだと思っています。選手それぞれの特徴があるので、自分の特徴を出しつつ、チームとして任されたタスクが一番大事なので、それをやったうえで自分の武器を発揮していければいいかな、と」

 第2次森保ジャパンが臨んだ初めての公式戦、11月のW杯アジア2次予選の2試合を映像越しに見た。ホームでミャンマー代表に、中立地のサウジアラビアでシリア代表にともに5-0で圧勝した。

「めちゃくちゃ強いなと思って見ていました。特にシリアは引いていましたし、点を取るのに少し時間がかかっていましたけど、ああいうミドルシュート一発で一気に流れを持ってきた。やっぱり強いですよね」

 両チームともに無得点の均衡が崩れたのは前半32分。シリアが築く牙城にMF久保建英(レアル・ソシエダ)が風穴を開ければ、後半開始早々にはDF菅原由勢(AZアルクマール)が代表初ゴールとなる4点目を決めた。

 ゴールマウスを担った鈴木彩艶(シント=トロイデン)に離脱中だった中村を加えた4人は、2017年10月にインドで開催されたU-17W杯に出場。決勝トーナメント1回戦で、最終的に同大会を制したイングランド代表に食らいつき、両チームともに無得点で試合を終えるもPK戦の末に敗れている。

「この仲閒たちと5年後、10年後に日本代表を背負って、1人でも多く一緒のピッチで戦いたい」

 同世代のイングランドとの実力差を認めた当時16歳の久保は、A代表の舞台での捲土重来を期してこんな言葉を残している。さらにインドから帰国後すぐに、当時所属していたFC東京とプロ契約を結んだ久保の決断力と行動力は、インドの地で悔しさを共有したチームメイトたちが追いかける対象になった。

 久保の背中を追うように菅原が海を渡り、2019年夏の中村に続いて鈴木も今夏に日本を飛び立った。当時の4人がA代表の常連となり、初めて臨む公式戦がアジア杯。自然と中村の闘志も高まってくる。

「あのときのやり切れない悔しさ、不完全燃焼の思いを僕は今でも持っている。それをぶつける、という意味じゃないけど、あれからいろいろなことを経験してきたなかで、アジア杯をいい大会にできればと思います」

 年明け早々にソシエダのリーグ戦がある久保は、タイ戦には招集されていない。だからこそ、タイ戦の先に待つアジア杯で、代表のレギュラーを射止めた菅原、鈴木とともに再び戦いたい。ワクワクしているとは言及しなかったものの、それぞれが成長して共闘できるカタールの地での戦いを中村は心待ちにしている。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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