日本人3選手所属…今季のデュッセルドルフは何が違う? 輝き放つアペルカンプ真大の悲願「1部に行きたい」【インタビュー】
前半32分までに3失点からの大逆転劇、ドラマティックな試合が物語る底力
ドイツのブンデスリーガ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフでプレーするMFアペルカンプ真大は、1部昇格を逃した昨季について「がっかりのほうがやっぱり大きかった」と振り返る。今季は昇格の可能性を感じさせる戦いを見せているなか、「チームと昇格して、1部でプレーできたらそれが一番いい」と切なる思いを語った。(取材・文=中野吉之伴/全5回の3回目)
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ドイツのブンデスリーガ2部で日本代表MF田中碧、U-22日本代表DF内野貴史、MFアペルカンプ真大がプレーするデュッセルドルフは、今季1部昇格への可能性を感じさせるチームになっている。
「デュッセルドルフの今季は何か違う」と感じさせた試合を挙げるとしたら、第10節のカイザースラウテルン戦だろう。「今日のショーはここに来る価値があると感じられる試合として、ほぼパーフェクトと言っていいほどのものがあった」とダニエル・ティウーヌ監督が振り返るほどドラマティックな試合を見せた。
立ち上がりは最悪だった。カイザースラウテルンに前半32分までに3点を許してしまう。普通ならば悲劇的な試合になっても不思議ではない。だが前半36分に田中が反撃ののろしとなるゴールを挙げると、5万2000人満員となったホームの利を生かして後半怒涛の攻撃を展開。田中がこの日2ゴール目をマークするなど、チームは3ゴールを追加して4-3の大逆転劇を演じたのだ。
第17節マグデブルク戦の逆転劇も見事だった。不安定な前半の2失点はいただけないが、ハーフタイムに修正。後半の猛攻で3-2と逆転に成功するチームで一際輝いていたのが、1ゴール1アシストの活躍を見せたアペルカンプだった。後半1分に丁寧なダイレクトパスでFWビンセント・フェルマイのゴールをアシストし、後半25分には右からのクロスを右足ダイレクトボレーで決めた。
第17節終了時点で4位につけるデュッセルドルフ。1位ホルシュタイン・キールとの勝ち点差は5。シーズン2位チームまでが1部リーグに自動昇格し、3位チームは1部16位のチームと入れ替え戦を行う。
「生え抜き」の価値を自覚するアペルカンプ「ブンデスリーガ(1部)に行きたい」
デュッセルドルフは、今季こそ1部昇格を手繰り寄せることができるのか。最近は田中と並んでトップ下の位置で起用され、数多くの好機に絡んでいるアペルカンプが、インタビューで昨季について次のように話していたのが印象的だった。
「昨シーズンを終えて、がっかりのほうがやっぱり大きかったですね。目標は昇格だったし、調子を落とした時期はあったけど、でも最終的にだんだんとハンブルク(3位で入れ替え戦へ)にも勝ち点は近づけていた。もし直接対決で勝っていたら、一気に勝ち点差を詰めるチャンスもあっただけに、なおのこと悔しい。でもそういうトップゲームで同点止まりだったり、勝てなかったのが多かった。そのあたりが、昇格した2チームとの大きな違いだったのかな」
それだけに、試合の入り方は低調でも、その後にひっくり返して勝ち点3を手にできるのは非常に大きい。2019-20シーズンに1部17位で2部降格して以来、4度目の昇格挑戦となる今季は可能性を感じさせるチームに成長を遂げている。
サッカー選手なら誰もが1部でのプレーに憧れるし、その思いは強い。手が届きそうで届かない。そのなかでアペルカンプもずっと戦い続けている。
「サッカーをしている人なら誰でも目標にすると思う。僕もいつかはと狙っています。自分はここ(デュッセルドルフのユース)から上がってきたので、チームと昇格して、1部でプレーできたらそれが一番いいですね」
デュッセルドルフのU-15からステップアップし、U-19からセカンドチーム、そしてトップチームデビューを飾ったアペルカンプ。クラブからも「生え抜き」として非常に価値のある選手と受け止められており、本人にもその自覚はある。とはいえ、この先も2部での戦いに甘んじるつもりはない。
「ステップアップのことはエージェントと話をしたりもしている。ずっと2部でやるのもどうだろうとか考えたりはする。最終的には僕もブンデスリーガ(1部)に行きたい。ただそれはタイミングだったり、巡り合わせだったり。まだどうなるかははっきり言えないことですよね」
ブンデスリーガ1部を見据えるアペルカンプが「今、心掛けていること」は?
アペルカンプにとって、デュッセルドルフでの1部昇格が当然ベストな選択肢。場合によっては、今季の活躍を受けて1部クラブからオファーが届くこともあるかもしれない。いずれにしても、自身のクオリティーをさらに高めることは必要不可欠だ。
そのために今、アペルカンプが心掛けていることを尋ねてみた。
「何かを大きく変えたいとかはないですけど、これまで以上にゴールの近くでのプレーを多くしたいです。シュートを打てるシチュエーションでは思い切ってシュートを打つ。いいパスを出せる時には狙いどおりのパスを出す。どのシチュエーションで、どんなプレーをするかの判断が一番大事。そこを上げていきたいです」
ゴールの匂いをかぎ分けて、相手が守りにくいところに顔を出すセンスは、ほかの選手にはないものがある。さらなる成長と向き合いながら日々精進を重ねていくその先に、ブンデスリーガ1部という舞台が待っているのだろう。
[プロフィール]
アペルカンプ真大(アペルカンプ・シンタ)/2000年11月1日生まれ、東京都出身。ドイツ人の父、日本人の母の間に生まれ、ヴィトーリア目黒FCや三菱養和SC巣鴨ジュニアユースでプレー。15年にデュッセルドルフの下部組織に加入し、19年にプロ契約。21年にU-21ドイツ代表に選出されて10番も背負った。将来、ドイツ代表か日本代表のどちらを選択するか注目される逸材。23-24シーズンもコンスタントに出場し、デュッセルドルフのトップチームで4シーズン目を戦う。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。