異例のJ2から…三浦颯太が森保Jにサプライズ招集された理由 久保と共闘の過去持つ左SBが辿る“伊東ロード”【コラム】
甲府→川崎へステップアップ 伊東純也の経歴を彷彿させる左SB
2024年元日に行われるタイ代表戦(東京・国立)に向け、12月28日から千葉県内で日本代表活動がスタートする。
今回は直後に控えているアジアカップ(カタール)を視野に入れた重要なテストマッチとなるが、フォーカスすべきなのは伊東純也(スタッド・ランス)や浅野拓磨(ボーフム)ら主力級ばかりではない。代表実績の少ない面々によるサバイバルも非常に大きなポイントになるのだ。
とりわけ、20日に追加招集された三浦颯太(ヴァンフォーレ甲府→川崎フロンターレ)は注目すべき存在だろう。森保一監督は「基本的にJ2からは選手を呼ばない」と語っていたから、J2のヴァンフォーレ甲府で今季プレーしていた左サイドバック(SB)を招集するというのは異例中の異例と言っていい。その背景には左SBの手薄感があるのだろう。
2008~2022年にかけての足掛け15年間、長友佑都(FC東京)が君臨してきたこのポジションは前々から人材難が叫ばれていた。カタール・ワールドカップ(W杯)を最後に長友が外れて以降、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、森下龍矢(名古屋グランパス→レギア・ワルシャワ)ら新戦力が試されてきた。アキレス腱断裂でカタールW杯を棒に振った中山雄太(ハダースフィールド)も10月から復帰したが、現状では中山とセンターバック(CB)兼任の伊藤洋輝(シュツットガルト)の2人が主軸となっている。
しかしながら、伊藤が11月の代表活動中に怪我で離脱。さらに11月末にはフランクフルト戦で筋肉系の怪我を負い、年内の公式戦を欠場する羽目になったのだ。タイ戦のメンバーには選ばれているものの、本当にどこまで怪我が回復しているのか、トップフォームに戻っているのかは未知数と言わざるを得ない。
万が一、伊藤がアジア杯参戦不可となった場合を想定すると、森下1人を再テストするだけでは足りない。そういった判断から三浦の追加招集になったのだろう。
三浦が幸運だったのは、甲府がAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のため12月12日のブリーラム・ユナイテッド戦までコンディションを維持していたこと。12月3日に全日程を終えた他クラブの選手よりパフォーマンスが計算できるのは事実だ。
しかも、22日には川崎フロンターレ移籍が発表され、心身ともにフレッシュな状態で代表に挑めるのもプラスと言えそうだ。日本体育大学卒業後、プロ1年目に甲府でブレイクし、J1の格上クラブにステップアップという軌跡は伊東純也を彷彿させる。
神奈川大学かから甲府入りした伊東も1年後には柏レイソルへ赴き、3年間プレー。その間に日本代表入りし、ベルギー1部のゲンク入り。海外での実績を積み重ね、欧州5大リーグへ上り詰めた。そんな偉大な先輩に似た系譜を歩むことができれば、三浦にとっても理想的。本人も目の色を変えて取り組むに違いない。
三浦という選手のここまでの経歴を辿ると、ジュニアユース時代はFC東京U-15むさしに在籍。同学年の平川怜(熊本)、1つ下の久保建英(レアル・ソシエダ)とともにプレーしていた。当時はボランチで平川とコンビを組んでおり、左利きの技巧派として知られていた。
その後、帝京高校から日体大へ進んだが、大学1年で不慣れな左SBにコンバートされる。だが、本人は全く戸惑うことなく、何年も左SBをやっていたかのようなスムーズな適応を見せ、存在感を高めていった。その成長過程を甲府の森淳スカウトが追い続け、今季のブレイクにつながったのだ。
タイ戦に向けた日本代表チームに同行する内田篤人ロールモデルコーチの指導もプラス
とりわけ目を引いたのは、11月29日のACLメルボルン・シティ戦の井上詩音への同点弾アシストだ。タテへの鋭い突破からのマイナスクロスが井上の頭にピタリを合い、値千金のゴールが決まった。短い距離ではあったが、グッとスピードを上げ、敵を切り裂くプレーというのは、伊藤や中山にはない持ち味。視察していた代表スタッフの度肝を抜いたのではないだろうか。
FC東京むさしU-15出身ということで、中学時代から久保をよく知っているのは、現代表定着を目指すうえで大きなアドバンテージになりそうだ。もちろん三浦がタイ戦でいいアピールを見せて、アジア杯に滑り込まなければ、名手との共闘は叶わないが、本人にしてみればモチベーションの高まる材料に違いない。
さらには、同い年の菅原由勢(AZ)、中村敬斗(スタッド・ランス)らともすぐに打ち解けられるだろう。菅原とはジュニアユース時代に対戦経験があるかもしれないが、左右の攻撃的SBとして2人が新たな関係性を構築していく可能性もある。今回はSBのスペシャリスト・内田篤人JFAロールモデルコーチも参加するため、ハイレベルな指導を受けられるというメリットもある。三浦にとってはさまざまな追い風が吹いていると考えていいようだ。
課題を挙げるとすれば、安定感だろう。プロ1年目だった今季は序盤に怪我をしていたこともあり、J2出場数は21試合にとどまっている。「ポテンシャルは高いが、能力を最大限生かしきれていない試合も多い。好不調の波があるのも確か」という評価もあるだけに、代表定着を目指すなら、そういったムラをなくさなければならない。J2とは異なる基準の中でいかにして三浦らしいパフォーマンスを発揮し続けるのか。彼にとって今回の代表活動は新たな関門となるだろう。
こういった無印のタレントが抜擢され、飛躍していけば、多くの人々に希望を与えることができる。かつての伊東がそうだったように、三浦にも甲府育ちの意地とプライドを示してほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。