三笘薫の負傷は「充電の幸運」か? 後半戦での巻き返しへ…望みを託したい戦線離脱の小休止【現地発】

ブライトンの三笘薫【写真:Getty Images】
ブライトンの三笘薫【写真:Getty Images】

“A23ダービー”で痛恨のドロー、三笘も負傷で失ったブライトン

 クリスマス直前のプレミアリーグ第18節、12月21日のクリスタル・パレス対ブライトン(1-1)が口火を切った。バックスタンドの3分の1を占めたアウェー・サポーターたちは、ありがたくないプレゼントをもらった気分だろう。

 平日の夜に、イングランド南岸から約70キロの距離を駆けつけた試合は、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督が「2ポイントを落とした」と認める引き分けに終わった。しかも、GKからのビルドアップ失敗を突かれての追う展開。ロイ・ホジソン監督のチームらしい組織立った守りで、3割台のボール支配でも逆転までは許さなかった相手とは、地元同士ではないが対戦が「ダービー」と呼ばれるライバル関係にある。試合終了の笛が鳴ると、スタンドのパレス陣営は、勝ち星のないリーグ戦が連続7試合となったにもかかわらず、互いの地元を結ぶ国道にちなんだ“A23ダービー”で負けなかった結果に歓声を上げていた。

 さらには、スタッフの肩を借りてトンネルへと向かう、三笘薫の痛々しい姿まで目撃しなければならなかった。トップ6入りを果たした昨季以来、ブライトンに推進力を与えてきたウインガーがピッチを去ったのは後半38分。チームは、1分前にダニー・ウェルベックのゴールで追い付いたばかりだった。その直前、三笘は左足首を気にする仕草をしながらも、クロスを予期してボックス内へのダッシュを見せていた。その前には、左足に体重をかけて右足ボレーを狙ってもいた。

 だが試合が終わると、メインスタンド側のベンチからサポーターを労いにきた選手たちの中に三笘はいない。「そんなにひどいのか?」と不安になったファンもいたことだろう。その矢先、左足は地面に着けられずに引き上げる光景が反対側のピッチサイド沿いに確認された。

 この試合で、三笘が最も三笘らしかった場面で負傷してしまったのだから皮肉な話だ。後半35分、トップ下で先発したパスカル・グロスからパスが出た。手前でカットされるかに思われたが、いち早く動き始めた三笘がパスをものにする。そして、2人のDFに挟まれながらもドリブルでボックス内へ。一瞬、バランスを崩しかけたが堪えて進み続け、最後は相手ともつれるようにして倒れた。

 PKはもらえず。挙げ句の果てには、相手GKが手を貸して起こしてくれたというよりも、抱えられて脇にどかされた。熱いダービーのピッチ上らしい光景ではあったが、起こされた三笘は再びしゃがみ込んで左足首を押えている。リプレイを見ると、左足を滑らせて踏ん張った瞬間に足首を痛めたようだった。本稿執筆時点では、怪我の程度は不明。試合後会見でのデ・ゼルビ監督も、「大事には至らないことを願いたい」と答えるにとどまった。

微妙に乱れ始めた三笘と周囲の呼吸

 もちろん、選手層が厚いわけではないうえに故障者が多いブライトンにとっては、軽傷で済んだとしても痛手だ。場合によっては、来年1月14日にベトナムとの初戦を迎える日本代表でのアジアカップ出場も危ぶまれる。松葉杖をついてセルハースト・パークを去る三笘の横顔も、当然ながら深刻そうに見受けられた。

 不運としか言いようがないが、本人にとっては「災い転じて福となす」可能性がせめてもの救いだろう。怪我による強制的なものではあるものの、過密日程の中で“休息”を与えられたのだ。

 UEFAヨーロッパリーグ(EL)も戦う今季、疲労の蓄積とコンディション維持の難しさは三笘自身も認めている。11月には、右脚(ハムストリング)を痛めてもいた。リーグ戦での二桁台も期待されたゴールは、3か月ほど前のボーンマス戦が最後(2得点)。本調子でないことは見た目に明らかだった。そうでなければ、この試合での負傷が、より大々的に国内メディアでも扱われていたに違いない。翌日、筆者が手に取った英紙「デイリー・テレグラフ」のマッチレポートは、三笘に関して一言も触れていなかった。

 さすがに、完全に消えていたわけではない。チーム全体として低調だった前半にも、16分、23分とチャンスが生まれかけた流れには、クレバーなパスで絡んでいる。攻勢を強めた後半21分のチャンスは、三笘のスルーパスがきっかけ。グロスのラストパスに走り込んだジャック・ヒンシェルウッドは、足もとに飛び込んでくる相手DFが気になったのだろう。右サイドバック(SB)で先発した18歳のシュートは大きく枠を外れ、同点への最初の好機が消滅した。

 しかし、ボールを持つ三笘は、今季序盤戦までのように「何かが起こる」「ゴールが来る」といった予感を抱かせなくなっていた。敵の警戒心も強まっている。最初にドリブルで仕掛けた前半9分から1対2で止められた。

 そうしたなかで、本人が慎重にもなれば、周りとの呼吸も微妙に乱れ始める。この日の三笘は、最初にボールを持った開始早々4分から横パスを選択していた。後半13分にカウンターから放ったシュートにも勢いははく、コースは相手GKの正面。その数分後には、左アウトサイドで裏を突こうと動き出した三笘のランを、ボールを持っていた左SBイゴール・ジュリオが見送る場面も見られた。

怪我の不運を「充電の幸運」に変えられるか?

 このまま年末年始の過密日程をこなし続ければ、疲労が蓄積する一方の状況で、本来の姿を取り戻すよりも、本来の姿からより遠ざかってしまったのではないか?

 デ・ゼルビはローテーションを採用しているが、それでも頼られる選手は頼られる。チームが、じりじりとリーグ順位を下げているとなれば尚更だ(節終了時点で9位)。

 例えば、ハーフタイムを境にピッチに立ったダニー・ウェルベックは、同点ゴールで期待に応えている。とりあえず放り込まれたようなクロスを、ゴール右上隅に吸い込まれるループ状のシュートに変えた、ストライカーならではの見事なヘディングでもあった。だが33歳のベテランは、ハムストリングの怪我が癒えたばかり。後半頭からの投入は、「最も重要な選手の1人」を必要とする展開で強いられた、予定外のベンチワークであったことを指揮官が認めている。

 三笘も、チームにおける最重要選手の1人であることは言うまでもない。その真価を再び発揮するためにも、怪我の不運を「充電の幸運」としなければならない。ブライトンにすれば、怪我の有無とは無関係にアジアカップで三笘を日本代表チームに取られる1月を覚悟していたはず。その日本代表には、アジアを軽視してはいけないが、三笘が欠場を余儀なくされたとしても優勝を目指せるだけの調子と戦力が備えられている。「身体が自分に『休め』と言っているのだろうと思った」とは、遠藤航(リバプール)の言葉。現日本代表キャプテンは、自伝の中でベルギー時代の戦線離脱時期をそう振り返っている。

 チームは1ポイント獲得にとどまり、自身は怪我を負った試合後、ミックスゾーンの数メートル手前をチームバスへと向かう三笘は、ホームチームの許可を得てエリアに入っていた親子に後ろから声を掛けられた。健気にも、松葉杖をつきながらのターンでセルフィーに応えたプレミアの日本人スター。小学生と思しき少年ファンは、クリスマスが4日早く訪れたような出来事に喜んでいた。左足首の怪我が癒えて戦列に復帰する頃には、三笘自身、そして本領発揮を心待ちにするブライトン・サポーターたちも、クリスマス時期の一戦で思わぬプレゼントをもらったのだと理解しているかもしれない。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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