浦和のマンC戦完敗に映った「世界トップとJの残酷な差」 日本代表の躍進と結び付けられないクラブシーンの現実【現地発】

欧州王者マンCに完敗の浦和【写真:ロイター】
欧州王者マンCに完敗の浦和【写真:ロイター】

欧州王者・マンC撃破に挑戦も…浦和に立ちはだかった大きな差

 浦和レッズはサウジアラビア開催のクラブ・ワールドカップ(W杯)の準決勝で、欧州王者マンチェスター・シティ(イングランド)に0-3で完敗した。あまりにも大きな差だったが、いつかそれを埋められる日が来るのだろうか。

【注目】白熱するJリーグ、一部の試合を無料ライブ配信! 簡単登録ですぐ視聴できる「DAZN Freemium」はここから

 浦和は、世界的な強豪チーム相手に急造の5バックで守るようなプランにはせず、あくまでもここ数年を掛けてやってきたベースのままプレーした。試合の序盤から基本的にミドルゾーンでボール奪取を狙っていく普段どおりの姿だったが、結果的にはローブロックに押し込まれて苦しい時間を過ごした。

 最初からすべてを明け渡して下がって待ち構えたのではなく、段階的に下がっていくことを余儀なくされた。それはシンプルに力の差であり、質の差が現れたにすぎない。自陣ペナルティーエリア付近でマイボールになったとしても、それを落ち着ける間もなく奪い返しに来るプレスで失い、背後に広大なスペースがあることを認識していても使わせてもらえない。

 シティのサッカーをピッチ内で見れば、ある意味で浦和もそうだし、多くのJリーグのクラブが取り組もうとしているものの延長線上にあると言えるかもしれない。選手個人としても、例えばMF小泉佳穂は入場時に相手MFベルナルド・シルバと並んで立った感想で「入場の前、並んでいたら僕と同じくらい細いんですよね。だから(体格差は)関係ないんだと思った。ただ、とにかくうまい」と話す。そして、「本当に技術と判断と配置と認知とかそこらへんを突き詰めた先に、多分同じものが見えるような気がする」とも話した。

 一方で、クラブ単位では差を埋められるのか。2025年6月に新フォーマットとして32チーム出場に拡大され行われるクラブW杯で日本のクラブが上位を狙えるようになるのかという視点では、全く異なったものになるだろう。

 浦和を例とするなら、今季ポーランドから代表監督の候補にも挙がったような実績と指導力のあるマチェイ・スコルジャ監督を招いたこと、ある程度の継続性を持ちながらチームを強化していくことの延長線上に、今以上に洗練されたピッチ上のシステムや戦術として質の高いものは望めるかもしれない。しかし、その構成要素である選手の質はどうなっていくだろうか。

Jリーグで違いを見せられる、将来の可能性を感じられる才能は次々と海外へ

 現在のサッカー界で、トップ選手は欧州に集まる。リバプールのMF遠藤航やアーセナルのDF冨安健洋、ブライトンのMF三笘薫はリーグ戦の対戦相手としてシティと対戦する。スペインにはMF久保建英、ドイツにはDF板倉滉やMF堂安律、イタリアにはMF鎌田大地、フランスにはMF南野拓実やMF伊東純也がいるように、5大リーグと呼ばれるところで日本人選手はプレーしている。

 そうやって価値の高いリーグでプレーすることによって個人の能力を伸ばし、良いキャリアを歩んでいく。新たなクラブW杯の決勝戦が欧州勢対決になったとして、両チームのメンバーに日本人選手がいて世界一を争う試合に出場する姿はあるかもしれない。

 それは、国籍をベースにチームが構成される代表チームの強化には大いに役立つだろう。日本代表は22年のカタールW杯でドイツ代表やスペイン代表を破った。それは世界中のサッカー関係者にとって大いにサプライズだっただろうが、その実現に欧州でプレーすることによる選手たちの成長が寄与したことは間違いなく、この流れの中で日本代表がW杯でさらに躍進していく未来は十分に感じられる。

 だが、それをクラブシーンに当てはめることはできない。なぜなら、現在の日本は完全な選手の「輸出国」であり、Jリーグで違いを見せられる、あるいは将来の可能性を感じられる才能は次々に海を渡る。

 今季のベストイレブンに選出され、明らかにJリーグの中で別格級の力を見せるDFアレクサンダー・ショルツでも、22年のカタールW杯でデンマーク代表に選出されたわけではない。MF伊藤敦樹は今シーズンに日本代表へ初選出されて3試合に出場して1ゴールしたが、代表チームのレギュラーとは言えない。浦和とシティのスタメンを並べた時、そのような面は残酷な差になる。

 9月に伊藤が代表初ゴールを決めた際にスコルジャ監督が「ポーランドも日本と似たような状況です。今回の合宿でもJリーグから招集された選手はそこまで多くありません。そして敦樹が今後も代表で活躍し続ければ、国外に行く確率は高まっていくと思います。それは恐れていることの1つです。しかし選手の成長のことを考えればそれが通常のプロセスですので、そうなれば受け入れていくしかありません」と話したのが、Jリーグの現実だ。指揮官の母国もまた、最高のストライカーであるロベルト・レバンドフスキは20代前半でドイツに渡り、ポーランドに戻ることなく現在はスペインでプレーしている。

W杯優勝をベンチマークに置く日本代表のような野心がJリーグにはあるのか

 それこそ日本代表の強化と同じ流れを求めるのなら、クラブ単位で欧州に移籍するとか、天変地異を起こして日本列島を地中海にでも移動させて欧州の一部になるしかない。そんなことは不可能だから、全く違ったルートが必要になると言える。

 長い道のり、長い時間が掛かるのは承知で、世界レベルで戦える未来を実現しようと思えばJリーグの価値と競争力を高め続けるしかない。あるいは、それを目指す姿勢があるのかどうかだ。

 このクラブW杯に出場した浦和は、Jリーグの中でも早くから世界進出を掲げてきた。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)へのフォーカスは強く、2007年、17年、そして決勝のみ今年の春だった22年と3回優勝した。

 しかし、この大会が開催されたサウジアラビアはサッカー界に多くの投資が行われ、W杯も招致して国内リーグには欧州のビッグクラブでまだプレーできるレベルの選手が次々に移籍してきている。開催された都市ジッダのクラブ、アル・イテハドのエースFWカリム・ベンゼマの年俸は150億円ほどとされる。浦和がピッチ外のことも含めて22年に動かした金額の2倍レベルだ。もちろん、シティとは比べるべくもない。

 Jリーグが開幕して30年が経ち、各クラブはそれぞれに発展をしてきた。地域の象徴、あるいは誇り、活力になる存在のクラブも増えてきた。強化だけではない部分で着実に歩みは進んでいるし、価値を高めている。勝敗による悲喜こもごもはあるにしても、各クラブが自分たちなりに目標、存在意義を設定して根ざしていくのは重要なことだ。

 一方でリーグ全体を見た時に、あくまでも勝敗のあるスポーツに関わる競技団体として上を目指していくことも大事なテーマだ。そのためには現実的にもっと資金力を付けていく施策が必要だし、サッカー界が多くのことを優位に運んでいこうと思えば、そのベースとして日本という国の中でのサッカーの存在感を高めていくことも必要だろう。

 2018年にヴィッセル神戸が元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタを獲得したのは素晴らしいニュースだった。ただし、34歳(当時)のイニエスタではなく24歳のイニエスタを獲得することが日常になるくらいに関係が変わらない限り、Jリーグのクラブが世界的な舞台で活躍するのは難しい。

 そして、1つ、2つのクラブが個々の才覚でなんとかしようと思っても限界がある。日本サッカー協会(JFA)が2050年のW杯で日本代表が優勝することを長期的なベンチマークに置いているが、Jリーグにそうしたビジョンや展望、あるいは野心はあるのかどうか。

 もちろん、今のままでもJリーグは少なからず日本の各地域で日常に幸せを与えているだろうし、今回の浦和のように世界の舞台に立てばその時にできる全力を尽くして戦い、その姿は爽やかな感動を呼ぶかもしれない。それはそれで悪くないものであり、欧州の限られたクラブの周辺を除けば標準的なことなのかもしれないが、もし上を目指すならば埋めなければいけない差は途方もないことを再認識させられた。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング