チェルシー23歳MFが覆す「換金対象」の低評価 攻撃志向の新体制で欠かせない“熱さ”の象徴【現地発】

チェルシーのコナー・ギャラガー【写真:Getty Images】
チェルシーのコナー・ギャラガー【写真:Getty Images】

パルマーの活躍を陰で支えたギャラガーの尽力

 試合終了の50秒ほど前に、一瞬「ブルー・イズ・ザ・カラー」が流れかけたスタンフォード・ブリッジ。現地時間12月16日、ホームにシェフィールド・ユナイテッドを迎えたプレミアリーグ第17節(2-0)で、フリーキック(FK)を促す主審の笛がフライングを呼んだテーマ曲スタートは、いかにチェルシーが勝利を欲していたかを物語る。

 リーグ最下位との対戦とはいえ、敵は第2期クリス・ワイルダー体制2戦目の前節で、待望の今季2勝目を記録したばかり。同節の相手は、第10節でチェルシーを下しているブレントフォードでもあった。そのシェフィールドに敗れれば、自軍はリーグ戦3連敗。今季新監督のマウリシオ・ポチェッティーノに即刻解雇はあり得ないとしても、のしかかるプレッシャーが増していたことは間違いない。

 3連敗回避の主役は、1ゴール1アシストのコール・パルマーだった。後半9分、ビルドアップにも絡みながらゴール前に詰めて先制点をもたらすと、その7分後には、コーナーキック(CK)に逃れたと思った敵の隙をついてライン際から折り返し、ニコラス・ジャクソンが簡単に合わせた追加点を演出している。

 だが、陰の主役も忘れてはならない。その選手は、再び怪我で戦列を離れたリース・ジェイムズに代わり、今季リーグ戦8度目のキャプテンを務めてもいたコナー・ギャラガー。ポチェッティーノが「ボックス・トゥ・ボックス型」として買っている攻守のハードワーカーは、「光」のパルマーに対して「影」と呼べる存在だ。

 今夏の移籍市場最終日にマンチェスター・シティから移籍したパルマーは、瞬く間に新チェルシーの中核として期待を寄せられるようになった21歳。かたやギャラガーは、チェルシーの生え抜きで年齢もまだ23歳ながら、ファンの間でも意見が分かれる。来年1月の移籍市場を前に、メディアでは「換金対象」と見られてもいる。

 しかしながら、陰と陽の調和が奏でるハーモニーの重要性は、サッカーのチームパフォーマンスにも当てはまる。この日のチェルシー2得点にも、後半にパルマーがスポットライトを浴びた裏にはギャラガーの尽力があった。

尻上がりに調子を上げたカイセド、前半から良さを発揮したギャラガー

 前半のチェルシーは、ボール支配8割を記録していながらシェフィールドを攻めあぐねた。ローブロックで守る敵の前では、トップ下で先発したパルマーも存在感が希薄。ボールを求めて頻繁に落ちてきたため、チームの中盤は3センターも同然だったが、中央からの侵入経路は4-5-1の陣形を敷く相手によって塞がれていた。

 対応策として、ポチェッティーノはハーフタイム中に4-2-3-1から4-4-2へのシステム変更を決めた。パルマーは右ウイングへ。ただし、中央へと流れる自由がより「10番」的なプレーを可能にした。その際、右サイドを受けもっていたのがギャラガー。先制点に至る過程でも、タッチライン沿いでパスを受けてきっかけを作っている。インサイドへのドリブルで攻撃を加速させつつ、前線中央にいたパルマーにボールを預けると、そのままボックス内右サイドへのランで敵の注意を分散させ、アシストをこなすラヒーム・スターリングを間接的に援助していた。

 後半16分の得点シーンは、その逆。ギャラガーは、左サイドから中央へと向かってきたミハイロ・ムドリクにワンツーでボールを戻し、続けてゴール前へと駆け上がって複数のマークを引きつけた。その間に、パルマーが右インサイドでムドリクのパスを受けて上がり、相手DF陣のパニックを招くパスをスターリングに送る時間とスペースが生まれている。

 パルマーは同39分、スターリングと交代していたアルマンド・ブロヤが合わせ損ねていなければ2アシスト目を記録できていた。アシストのアシスト役はギャラガー。パスのレンジでは、揃って中盤で先発したモイセス・カイセドと、珍しくベンチスタートだったエンソ・フェルナンデスに敵わないが、前につける素早さでは勝るとも劣らない。

 この日のカイセドには、今夏に移籍して以来のベストゲームとの声も聞かれた。相手GKの好守に阻まれたが、ボール奪取から一気に最前線のニコラス・ジャクソンへとパスを通した前半39分の一場面などは、確かに本来の姿らしかった。

 だが厳密に言えば、カイセドのパフォーマンスは時間の経過とともに良くなっていった。一方、前半から良さを発揮していたのがギャラガー。メディアによる採点には及第点止まりの「6」も見られたが、カイセドは平均「7」と見受けられたことから、個人的には「7.5」を与えたい。

 カイセドのハイライトシーンにしても、ギャラガーのプレッシングがあればこその結果だ。敵は、攻守が入れ替わった途端に約10メートルの距離をダッシュで詰められてカウンターが遅れ、スターリング、続いてカイセドにもプレッシャーをかけられた。

新生チェルシーで創造性を発揮するコール・パルマー【写真:Getty Images】
新生チェルシーで創造性を発揮するコール・パルマー【写真:Getty Images】

チームの熱を象徴するギャラガーは来年1月が「引き留め時」

 ギャラガーのプレッシング能力に関し、エンゴロ・カンテ(現アル・イテハド)を引き合いに出した指揮官は、昨季プレシーズン中のトーマス・トゥヘル(現バイエルン・ミュンヘン監督)だった。足もとからボールをくすね取る技では劣るが、詰め寄る速さでは優っているかもしれない。ボール奪取への意欲はもちろん、パスを読む能力でも負けてはいない。2代後の正監督に当たるポチェッティーノは、前線の“プレッサー”として、ギャラガーを今季リーグ戦の5試合でトップ下起用してもいる。

 チームが決め手を欠いたシェフィールド戦前半でも、ギャラガーによるインターセプトは5回を数えた。うち同9分と27分の2回は、それぞれスターリングとジャクソンがパスのタイミングを誤っていなければ、カウンターから決定機が生まれていたと思われる。相手GKの正面をついたが、チーム初の枠内シュートとなった15分のミドルは、インターセプトから持って上がったギャラガーの“単独カウンター”によるものだった。

 時には、ボールを奪い返す意気込みが仇となることもある。昨季プレミアでは、イエロー計12枚とレッド1枚。今季も第14節ブライトン戦(3-2)で退場を命じられると、教訓から“学べない”MFは翌月の移籍市場が「売り時」だと指摘された。実際、同節前半でもらった2枚目のイエローは、(当日の)主将にはあるまじき行為と言われても仕方がない。

 だがギャラガーは、まだチェルシー1軍2年目の23歳でもある。小学生時代から過ごしてきたクラブに勝利をもたらしたい、そのクラブでプレーし続けたいという強い気持ちを考えれば、“ファウル常習犯”のように責めるのは酷だろう。むしろ、当人が「周りにも伝染させたい」と語る「ファイティング・スピリット」の持ち主として歓迎されてもいいのではないか?

 チームを数的不利に陥れる危険度を示す警告数に目を向けるのであれば、チームへの貢献度を示す数字も注目されて然るべきだ。新監督が買っている証拠でもある今季リーグ戦での先発フル出場は、第17節が12試合目。駒数が多いMF陣の中でも最高の計22時間11分をピッチ上で過ごしている。スタッツサイト「WhoScored」による今季プレミアでの平均評価点は、同節終了時点でチーム最高の「7.1」だ。

 筆者に言わせれば、現行契約が残り1年半となる来年1月には、ギャラガーの「引き留め時」が訪れる。ポチェッティーノ体制下での攻撃的なチーム作りを促進するうえで、求められる創造性と若さに似合わぬ冷静さをパルマーが象徴しているのだとすれば、同じく必要とされるパフォーマンスの一貫性、さらには熱さを象徴している主力がギャラガーなのだから。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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