40歳・南葛MF今野泰幸の新たなる挑戦 “変革”風間サッカーでの勝負「メチャメチャ悩んでいるかも」【コラム】
2024年も現役続行を宣言
宮本恒靖(JFA専務理事)、中田英寿、小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)ら2006年ドイツ、2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)の日本代表メンバーが12月17日の中村俊輔(横浜FCコーチ)引退試合で一堂に会した。
長年、エースナンバー10を背負ったファンタジスタから直々に招かれた今野泰幸(南葛SC)も参加。かつて共闘した面々とともに久々のプレーを見せた。
現役選手は同クラブの先輩・稲本潤一、遠藤保仁(ジュビロ磐田)と彼くらい。40代に突入したとはいえ、キレのあるプレーは健在だった。
「これだけのスター揃いなんで、この場にいられるだけで嬉しいし、刺激になる。俊さんに呼んでもらっただけでもう感激です」と本人は興奮気味に感謝の言葉を口にした。
一足先にユニフォームを脱いだ中村や小野、中村憲剛(JFAロールモデルコーチ)らを見送りつつ、「2024年も現役続行します」と力強く宣言した今野。しかしながら、2022年からプレーする関東サッカーリーグ1部南葛SCではJFL昇格という目標が叶っていない。
コンサドーレ札幌、FC東京、ガンバ大阪と長くJリーグの表舞台で戦ってきた彼にとって昨季赴いた地域リーグというのは、まさに想像を絶する世界だった。
JFL昇格というのは、日本サッカー界の全カテゴリー中で最難関の道のりと言っていいだろう。南葛の場合は、関東1部で1位になるか、全国社会人サッカー大会(全社)でベスト4以上のトップ3に入るか、Jリーグ百年構想クラブ枠に入るか……のいずれかの条件を満たすことがまず求められる。そのうえで、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)に参戦。2位以内に入らなければならない。ただし、自動昇格枠はJFLの空きチーム数次第。2チームの年もあれば、優勝チームが自動昇格、2位は入替戦に回ることもある。
これだけの狭き門なのだから、目標達成へのハードルは極めて高い。今野の南葛1年目だった昨季は関東1部で7位に終わり、全社も2回戦敗退。彼自身もセンターバック(CB)やサイドバック(SB)で主に起用されたうえ、ケガも多く、コンスタントな活躍ができずに終わってしまったという。
「結局、新たな環境に慣れるのに1年かかったし、体を作り切れていなかった。だからこそ、今年は体に鞭打って、戦えるフィジカルを作りたい。球際で負けないようなタフさを身に着けたいと思っています」と大ベテランは2023年シーズンに向けて闘志を燃やしていたのだ。
本職のボランチとして開幕を迎えたが、南葛は今季もスタートダッシュに失敗してしまう。上位のVONDS市原、栃木シティと差をつけられ、最終的には6位でフィニッシュ。全社の出場枠も逃し、地域CLの舞台に立つこともできなかった。
彼らが出られなかった地域CLでは、最終的に関東2位ながら百年構想枠で挑んだ栃木シティがJFL切符を確保。関東1部優勝のVONDS市原は、高原直泰が社長・監督・選手を兼務した沖縄SVに入替戦で敗れ、来季も関東1部に残ることになってしまった。強敵の残留によって、南葛は2024年も苦難のシーズンを強いられることになる可能性が大なのだ。
勝負の3年目は風間八宏新監督が就任「憲剛さんからは…」
「関東1部で2シーズンを戦って感じたのは、開幕の4月にコンディションをバッチリ合わせて絶好調でスタートすることの重要性ですね。試合数が少ないんで、最初に負けたらもう取り返せない。フィジカルを徹底的に鍛えて4月にピークを持っていかないと、優勝は難しいと思います。でも、仮に関東1部で1位になれたとしても、地域CLがあるから、本当に実力がないと厳しいし、運とか勢いもないとダメ。栃木シティだって全社で負けたのにJFLに上がれた。『持っている、持っていない』じゃないけど、そういうのも関わってくるから、やるべきことを全部やり切るしかないですね」と彼は勝負の3年目に向け、気持ちを切り替えていた。
そんな南葛だが、来季からは川崎フロンターレのパスサッカーの基盤を作った風間八宏監督(セレッソ大阪アカデミー技術委員長)が指揮を執ることが発表されている。風間監督の「止める、蹴る」を重視したスタイルを、かつて川崎でプレーしていた稲本はよく理解しているが、今野にしてみれば未知なる世界。41歳にして新たなサッカーと向き合うことになるのだ。
「(引退試合で会った元川崎の)憲剛さんからは『うまくやればいい』って言われたけど、『止める、蹴る』に関しては、相当に質の高いものを求められると思いますね。前を向ける時に向かなかったたりしたら多分、口酸っぱく言われるかもしれないですね。ただ、今までボランチとしてやってきた自分は、前にいる選手を簡単に使えるなら早くボールを預けた方がいいと考えてきたタイプ。『前向けよ』って言われても、すぐにはできないかもしれない。風間さんのイメージ通りにできなければ、使われない可能性もありますよね。
それでも自分がまた1つ、変われるチャンスなのも確か。来年4月になったらメチャメチャ悩んでいるかもしれないけど(苦笑)。悩めるのも現役の特権。そう前向きに捉えてやっていきたいと思っています」と彼は風間サッカーに泥臭くアタックしていく構えだ。
40代になり、現役でプレーできる時間も少なくなってきているのは間違いないが、今野の向上心はとどまるところを知らない。「自分はサッカーしかできない」と言い切る真っ直ぐな男はあくまでもピッチ上で高みを追い求めていくつもりだ。
「周りがどんどん引退していくのを見て、自分の引退が近くなっているなっていうのはメチャクチャ感じています。でも俺は指導者をすごくやりたいというわけじゃないし、体がぶっ壊れるまでやりきりたいなと思っている。向上心がある限り、まだまだうまくなれると思う限り、現役でやり続けたいと思っています。覚悟を持って風間さんのサッカーを体現して、来年こそJFL昇格を果たしたいですね」
改めて目をギラつかせた今野。来年1月には41歳になるボランチは新境地を開拓できるのか。足踏み状態を強いられている南葛SCの救世主になれるのか。2024年の彼自身、南葛、そして関東1部の戦いから目が離せない。(文中敬称略)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。