元主審・家本氏が唸った今季Jリーグ・ベストジャッジ 「思わずニヤついた」超高等テクニックとは?【見解】
【専門家の目|家本政明】最優秀主審賞の中村氏に加え、荒木氏、木村氏、飯田氏の名前を挙げ絶賛
Jリーグは今シーズンのリーグ戦、カップ戦がすべて終了。「2023Jリーグアウォーズ」では最優秀主審賞に中村太氏が輝いた。普段スポットの当たりにくい職業ではあるが、サッカーには欠かせない存在の審判について、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏に今季の好印象を残したジャッジや審判員を聞いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
◇ ◇ ◇
シーズンを通して、家本氏は中村氏に加えて荒木友輔氏、木村博之氏、飯田淳平氏の3人の名前を挙げ、「高いレベルで安定していましたね。トップパフォーマーの4人でした」と絶賛する。なかでも荒木氏のジャッジのワンシーンが、特に記憶に残っているという。
「京都(サンガF.C.)と(アルビレックス)新潟の試合だったと思います。京都の選手が倒されたシーンで、荒木さんが感度高く事象を見ていたから、さっと寄って行ってその人が起き上がるところをすっと手を出して静止をする場面がありました。一見なんでもないように見えるけど、上手く選手を静止しながら何事もなかったように対処。当然ファウルの選手にはコミュニケーションを取ってマネジメントをし、京都の選手にもフォロー。いぶし銀のようなプレーで、超高等テクニックでした」
取り上げたのは10月28日のJ1リーグ第31節、京都サンガF.C.とアルビレックス新潟の一戦。後半40分、1点を追いかける京都のMF金子大毅が新潟MF三戸舜介に倒される。荒木レフェリーはヒートアップしかけた金子をすぐさま片手で静止し、毅然とした態度で三戸へイエローカードを提示した。
ジャッジリプレイでも、当時このシーンを絶賛したという家本氏は「僕の中では今シーズンベスト3の1つ。玄人好みで、思わずニヤついたシーンでした」と振り返りつつ、「荒木さんは割とタフにやらせるレフェリー。『これ取ってよ』というシーンももちろんあるが、近年すごくパフォーマンスのレベルが上がってきていますよね」と、良さを知る“元同僚”の成長を実感している。
ほかにも、同31節の鹿島アントラーズ対浦和レッズの大一番を担当していた木村レフェリーについても言及。「レッズ×鹿島も難しい試合でしたが、抜群の安定感で試合をピリリと締めていました」と回顧し、「割と選手からプレッシャーもかかるような試合で、受けるところは受ける、流すところは流すみたいに、すごく大人なレフェリングを見せてくれていたと思います」と独特な表現で賛辞を贈った。
「難しいゲームは木村さん、荒木さんが担当していて、それだけ(サッカー)協会の期待や安心感が寄せられるレフェリーなのかなと思いますね」
審判界の世代交代に危機感も
一方で、審判界の世代交代に家本氏は危機感を覚えている。「東城穣さん、村上伸次さん、佐藤隆治さん、松尾一さん(今季限りでの勇退を発表)……。僕を含め辞めていった人たちと、ベテランが何人かいます。そこに比べて若手が育っているのかなとなった時に、期待感が持てる若手がいないわけではないですが、総数として少し細まっている。上手くいっていない印象を受けます」と吐露した。
「今に始まったことではないですし、すぐに解決する問題でもないです。審判界の課題であり、早急に解決しなければならないですができていない。そんなテーマですね」
国際レフェリーとして活動する審判員は、その経験をJリーグへと還元しているはず。それ以外でも、普段プレミアリーグで笛を吹く審判員をJリーグへ招致するなど国内外の新たな変化を取り入れている面もあるが、決して簡単には解決しない問題に家本氏も頭を悩ませていた。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。