Jリーグ「企業名入りクラブ名称報道」…将来危惧の前兆か、空騒ぎか “税制優遇”巡り過去対立…今後議論に発展も【コラム】

企業名入りクラブ名称報道に識者見解(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
企業名入りクラブ名称報道に識者見解(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

Jリーグは報道をすぐさま否定した

 大山鳴動して鼠一匹、なのか。それとも、火のないところに煙は立たぬ、なのか。スポンサー企業名入りのクラブ名称導入の解禁へ向けて、Jリーグが最終調整に入ったとする一部メディアの報道が大きな注目を集めた。件の報道は「関係者の話を総合すると」としたうえで、クラブ経営のメリットを増やすために協議され、早ければ来季から実施の可能性もあるとされていた。

 記事は13日午前2時にX(旧ツイッター)で先行報道された。しかし、1時間もしないうちに、Jリーグ理事も務める鹿島アントラーズの小泉文明社長が媒体名を明記したうえで、自身のXで報道を全面的に否定した。

「全く根も葉もない記事がスポーツ報知から出てます。1ミリも実行委員会でも理事会でも議論が出てないですし、この記事が何を根拠に出たのか不思議でなりません。本当に解禁されるなら、僕らクラブ経営者は全く知らない話しです」(原文ママ)

 さらにJリーグも13日午前11時半に公式HPと公式Xを更新し、ネット上を騒然とさせた報道を否定した。

「本日、スポーツ報知より、『Jリーグが、スポンサー企業名入りのクラブ名称を認める』との報道がありましたが、本件は、実行委員会や理事会でも全く検討されていない内容であり、事実無根です。Jリーグでは、Jリーグ規約にて『チーム名および呼称には地域名(ホームタウン)が含まれているものとする』と定めており、今後も地域と一体となったクラブづくり、サッカーの普及、振興につとめてまいります」(同)

 一部メディアが大々的に報じた記事に、Jリーグ側が「一部報道について」と題した公式リリースですぐさま対応する。こうした流れは、実は初めてではない。直近では2021年10月、11月、そして12月に相次いだ。

 いずれもスポーツ紙による報道で、最初は「Jリーグが来シーズンから事実上のホームタウン制度撤廃を検討している」と報じられ、間髪入れずにJリーグ側が「撤廃・変更の事実はいっさいありません」と全面否定した。

 残る2件は村井満前チェアマンの後任人事に関する報道で、まずは第6代目を務めるいま現在の野々村芳和チェアマンとはまったく別の人物名が、続いて候補者が野々村氏に一本化されたとそれぞれ報道された。

 この時もJリーグ側はすぐに反応している。もっとも、公式リリースの文面はホームタウン制度の撤廃や、今回のスポンサー企業名入りのクラブ名称導入解禁を全面的に否定したものとはかなり異なっていた。文言からはJリーグ側とはまったく別の意思が働き、スポーツ紙の報道につながっていたと受け取れる。

「本件はJリーグが発表したものではございません」

 今回の公式リリースで目を引くのは、報じた媒体名にまでJリーグ側が踏み込み、そのうえで「事実無根」と言い切った点になる。一方で報じた側としても、Jリーグの根幹を揺るがすテーマを扱う以上は、中途半端な情報を記事の根拠にしたとも、ましてや十二分に“裏”を取らなかったとも考えられない。

過去には企業名入りクラブ名称で戦ったことも

 ホームタウン制度の撤廃を報じた2年前の記事では、その最後で「さらに数年後には、クラブ名にネーミングライツを認めることも検討を開始した」とも綴られている。今回のスポンサー企業名入りのクラブ名称導入解禁を伝えた記事ともつながるだけに、Jリーグの将来を危惧して現状を変えたいと考える幹部や関係者が存在し、そういった考えをキャッチしたメディアの記事に反映された、という構図が生まれても決して不思議ではない。

 いま現在は忘れられているかもしれないが、日本サッカー界が待ち焦がれたプロ化を果たしたあとの最初の大会、1992年のヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)は一部が企業名入りクラブ名称で戦っていた。

 オリジナル10に名を連ねたクラブのうち、地域名と愛称をクラブ名称としていたのは鹿島アントラーズ、清水エスパルス、名古屋グランパスエイト(現名古屋グランパス)、サンフレッチェ広島だけ。初代王者の読売日本サッカークラブ(現東京ヴェルディ)を筆頭に、日産FC横浜マリノス(現横浜F・マリノス)、三菱浦和フットボールクラブ(現浦和レッズ)、パナソニックガンバ大阪(現ガンバ大阪)などと表記されていた。

 一転して地域名と愛称に統一されたのは、1993年5月にリーグ戦が開幕する直前だった。地域密着を掲げ、運営母体を含めた企業名の原則排除を決断した川淵三郎初代チェアマンに対して、読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡邉恒雄氏が、企業名重視を掲げたうえで「Jリーグの理念は空疎だ」と激しく憤った。

 プロ野球の読売巨人軍会長なども務めた経験を持つ渡邉氏は、プロ野球の親会社が子会社の球団運営に対して支出した、赤字補填を含めた金銭が広告宣伝費として取り扱われる1954年の国税庁通達を熟知していた。広告宣伝費ならばかかる税金も大きく優遇及び軽減され、豊富な資金を投入できる環境を生み出していた。

 対照的に企業名が入らなければ、Jリーグでは国税庁通達が適用されず、親会社が不利を被ると渡邉氏は声高に主張した。当時のスター軍団、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の親会社が読売新聞社だった関係もあり、いわゆる「川淵・渡邉論争」が世論をにぎわせたなかで、当時は川淵チェアマンが理念を貫き通した。

 しかし、今シーズンで節目の30周年を迎え、J2とJ3を含めたチーム数も6倍の60に増えたJリーグを取り巻く環境も大きく変化している。Jクラブ、イコール、それぞれの地域と連想させる概念が世間に浸透した一方で、コロナ禍期間中に生じた収入減などの経営ダメージを依然として引きずるクラブも少なくない。

今後の議論に注目

 Jリーグは2020年5月に税制優遇に関して、現状のクラブ名称のままでもプロ野球と変わらないとする回答を国税庁から引き出している。ただ、今回の報道にはクラブ名称への企業名導入解禁だけでなく、いま現在は制限されている外資企業によるスポンサー参画条件を緩和する見通しであるとも記されている。

 現状ではJリーグ側の即時否定とともに「大山鳴動して鼠一匹」となり、SNS上でも現状維持を支持するファン・サポーターの声が大多数を占めている。しかし、2017年12月に10年間の凍結が確認されたJリーグのシーズン移行に関する議論が、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)が先に秋春制へ移行する外的環境の変化を契機として、今年に入ってから急きょ再開された末に今月19日の理事会で正式決定する運びになっている。

 今回の企業名入りクラブ名称報道も「やはり、火のないところに煙は立たなかった」と振り返る時期がいつ訪れるとも限らない。それだけ、サッカー界を取り巻く環境は日本を含めた世界中で日々、刻々と変化していく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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