パリ五輪世代FW二田理央、欧州で学ぶメンタル術 思い出される南野拓実の言葉「味方が活躍するのを喜べないのは嫌」【現地発】
同僚から学びを得た二田理央「練習終わったら全然元気だし、明るく振る舞っている」
オーストリア2部ザンクト・ペルテンに所属する20歳FW二田理央は、2024年のパリ五輪出場を目指し、欧州で研鑽を積んでいる。23年7月にサガン鳥栖から完全移籍し、さらなる飛躍を期すストライカーは、「こっちの選手から学んだ」とメンタルコントロール術のヒントを得たと明かす一方、「上手くいかないからとそれでメンタルが落ちて、消えていきたくはない」と力を込めた。(取材・文=中野吉之伴/全2回の2回目)
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海外生活では、何もかも上手くいくということはない。どれだけ現地の生活に慣れても、「あれ? なんでこんなことになるの?」という出来事に遭遇する。同じ意味の言葉でも、所変われば価値観も変わる。例えば「まじめ」「勤勉」という言葉の概念は日本と海外でやはり異なる。似ていると言われがちな日本人とドイツ人でも全然違うものだ。
人は誰でも上手くいかない時にメンタルバランスが崩れたりする。海外生活では特にそうだ。小さいことで悩んだり、イラっとしたりして、サッカーの楽しさや練習でのモチベーションが萎んでしまうことがある。そんな時にどう対処したらいいのだろうか。
オーストリア2部のザンクト・ペルテンでプレーするFW二田理央は、自身の経験を基に海外生活における自分との向き合い方について話をしてくれた。
「僕もメンタルはどっちかと言うと、ずっと弱いほうで……。上手くいかないことがあったり、周りからいろいろ言われたりしたら、堪えたりします。こっちではなおさら、日本語でコミュニケーションが取れないですから。ドイツ語で文句をいろいろ言われたりもします」
難しいもので、自分では動じていないつもりでも、そうした時には態度に出てしまったりする。なんとかコントロールしようとしても、しっくりこなかったり、落ち込んだりした経験は誰にでもあるだろう。
二田もそうした悩みを抱えていたことがあったが、チームメイトの立ち振る舞いからヒントを得たという。
「こっちの選手もミスしたり、上手くいかないことは全然あるんですけど、日本人と違って練習終わったら全然元気だし、明るく振る舞っているんですよね。もちろん悩んでいる選手もいますし、練習とかでも上手くいってないこともありますけど、パッと気持ちを切り替えて、次の日やそれ以降には上手くやっているところを間近で見ています。そこは、こっちの選手から学んだことですね。それに仲良く自分に声をかけてくれる選手もいますから」
ザルツブルク時代に南野も言及「ポジティブに捉えて、自分から輪の中に入っていく」
そう簡単にメンタルコントロールの仕方をアジャストできるものではない。だが変わろうとする意志は、心の持ちようにもポジティブな変化をもたらしたりする。
オーストリア1部ザルツブルク時代の日本代表MF南野拓実(ASモナコ)が、なかなか出場機会を得られない時期に次のようなことを話していたのを思い出す。
「もちろん自分が出て活躍したい。でも味方が活躍するのを喜べないのは自分としても嫌。言葉の面で難しいことはあるけど、それで落ち込んだ雰囲気を出したら、もっと良くなくなってしまう。気持ちを切り替えて、ポジティブに捉えて、ちょっとでも自分から輪の中に入っていくというのは大事だと思います」
その後ザルツブルクで主軸へと成長し、名門リバプールへ移籍し、現在モナコで活躍する南野の言葉だけに響くものが大いにある。
今、オーストリアで奮闘する二田は「上手くいかないからとそれでメンタルが落ちて、消えていきたくはない」と、やるべきことを受け止めたうえで、支えとなるものがあることの大切さを強調する。
「あとは自分がこっちに来た意味っていうのを常に考えるようにしています。自分1人で来られたわけじゃない。いろんな人のサポートのおかげでここまで来られたんですから。キツいことがあるからと諦めるわけにはいかない。やるしかないんで」
メンタルコントロールが大事なのは海外に限った話ではない。日本の日常生活でも随所で必要となるものだろう。感謝の思いと自信を胸に抱き、さまざまな経験を糧にしながら選手としても人としても成長し続けている二田の取り組みから学べるものがあるはずだ。
[プロフィール]
二田理央(にった・りお)/2003年4月10日生まれ、大分県出身。佐伯リベロFC―FC佐伯S-playMINAMI―鳥栖U-18―鳥栖―FCヴァッカー・インスブルックU-23(オーストリア)―ザンクト・ペルテン(オーストリア)。2021年に鳥栖のトップチームで2種登録され、同年6月の横浜FM戦でJリーグデビュー。同年7月、18歳でオーストリアのFCヴァッカー・インスブルックU-23(3部)へ期限付き移籍し、19試合21ゴールの活躍で得点王に輝いた。22年8月から同国2部ザンクト・ペルテンへ期限付き移籍し、リーグ戦14試合で2ゴールの結果を残した。23年7月に鳥栖からザンクト・ペルテンへの完全移籍が決まった。パリ五輪世代のエース候補としてさらなる成長に期待が集まる。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。