なでしこジャパン、パリ五輪出場へ収穫…実り多いブラジル遠征で攻撃進化 選手ら証言「自信持っていい」「通用する」【現地発】
【ブラジル遠征総括|前編:攻撃面】ブラジル2連戦で計5ゴール、鮮やかな攻撃を披露
パリ五輪最終予選前、最後の国際親善試合となったブラジルとの2連戦(11月30日●3-4、12月3日○2-0)、日本は1勝1敗に持ち込み、実り多い遠征となった。攻撃につなげる守備が大前提のなでしこジャパン(日本女子サッカー代表)のスタイルは両者が連動されているが、ここではあえて攻守に分けて総括する。前編は攻撃面だ。最終ライン、中盤、前線それぞれの立ち位置からの景色をすり合わせていくと、見えてくるものがある。(取材・文
=早草紀子)
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連戦を前に池田太監督は「限られた攻撃のチャンスかもしれないけど、そのなかで質を出せるかどうか」をポイントに挙げていた。
想定された劣勢の時間も多かった今回のブラジル遠征で日本が仕留めたゴールは5つ。そのすべてが異なるパターンから生まれた。なかでも世界に通用する確固たる形を証明したのがサイド攻撃であり、初戦で見せた2得点だ。1点目が左サイドから、3点目は右サイドから鮮やかに崩して見せた。
左サイドバック(SB)からボールを配給した遠藤純(エンジェル・シティFC)は、「前半は相手のポジションを見ながら、自分が低い位置から配球するほうがいいと感じた」という感触どおり、MF宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)へ絶妙な縦パスを送ると、すでに前線にはFW藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)とMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)が走り込んでいた。
この場面、本来右に入っていた藤野がニアに、長谷川が右外へ。前回のパリ五輪アジア2次予選では藤野が怪我で招集を辞退していたが、2人は詰まりのない位置取りを見せた。
宮澤のボールは一度、藤野を超えて長谷川の足もとにピタリと収まる。長谷川も十分に狙えるタイミングだったが、「唯さんは最後まで選択肢を持ってる選手。パスが来る準備もしていました。でも自分だったらきっとシュート打っていると思います」と、藤野は冷静に長谷川からのパスを受けた瞬間の判断を振り返る。藤野のシュートはバーをしたたかに叩きながらゴールマウスに入った。
元ベレーザ組が阿吽の呼吸…魅惑のトライアングルから逆襲弾で見せた粘り
第1戦の3点目は逆サイド。絡んだのは長谷川、右サイドを駆け上がったDF清水梨紗(ウェストハム・ユナイテッド)、中で合わせたFW田中美南(INAC神戸レオネッサ)だった。
「相手より先にボールに触ることしか考えてなかった」という田中は、相手DFを引き連れてゴール前に滑り込みながら、ギリギリの差でボールを押し込んだ。長くベレーザで組んだ3人の阿吽の連係から生まれた同点ゴール。1点を返し、捨て身の前線プレスで逆襲を狙った日本がなかなか見ることのできなかった“粘り”を見せた。
「ミスから2失点しましたが、前半の日本のプレーがあったから後半のブラジルはバテバテだった。ワールドカップのスウェーデンもそうでしたけど、後半にバテてくる強豪は多い。前半で相手をバテさせたところで後半に仕留める――ここのクオリティーを全部高めて勝ちパターンに持っていく、これを自信につなげていきたい」(田中)
粘る展開に持ち込むための前半の戦い、そして捨て身のプレスプレーに切り替えたところから1ゴールを掴み取り、捨て身だったプレッシングをまた生きたプレスに切り替えて、サイドから崩したという可変性は、なでしこジャパンが最も欲していたものに他ならない。
4バックの左センターバックの南萌華(ASローマ)は「相手を引き付けて展開するトライをしているなかで、サイド展開をしている」と、最終ラインの攻撃意識を語る。ビルドアップに関わる手前での連続パスミスから失点しているのはいただけなかった。“相手を引き付ける”位置は、せめて何かが起きても周りのサポート準備ができる範囲内で行うべきだったと言える。だが第2戦ではそこが改善され、攻撃の流れを止めるような不用意なボールは激減した。
そのなかで、強豪ブラジルから待望のセットプレーで先制弾を奪うことができたのは自信につながるものだ。
第2戦、コーナーキックから中央では熊谷紗希(ASローマ)が相手を潰す形で競り合う。「紗希さんは触るつもりはないと思った」(南)と言うとおり、ボールはそのまま南の元に届き、DFをかすめたボールは軌道をズラしてゴールマウスへ吸い込まれた。前半15分という時間もチームを安堵させたはずだ。ブラジルレベルの高強度の相手にセットプレーから得点できれば、どれだけ助かることか。今後、セットプレーが得点源になるまで質を引き上げてほしいところでもある。
誰もがゴールを意識しながらプレー、冷静に穴を見極める目と共有された“絵”は収穫
第2戦で田中が決めたミドルシュートからのゴールにも布石があった。「(相手)GKが高い位置を取っているのが分かっていた」というタイミングを狙い澄ましての一撃だったが、それは初戦から狙いどころとしてあり、田中のみならず、遠藤や途中から入った谷川萌々子(JFAアカデミー福島)らも虎視眈々とチャンスを窺っていた。誰もがゴールを意識したプレーをしており、それらが攻撃面でプラスに働いた形だ。
「自分たちが動いて相手の壁を崩す、自分たちでスペースを作りながら、ゴールに向かっていくことが通用することもちゃんと感じられた」(植木理子/ウェストハム・ユナイテッド)
「日本らしいコンビネーションやパスワークも出せたし、前から仕掛けていく時の共有もできて、(パリ五輪)最終予選につながる試合になった」(長谷川)
「抜いたと思っても身体が出てきたり、足を狩るタイプが多くて苦戦する場面も多かったけど、やられてる感はなかった」(遠藤)
「個々のクオリティーは明らかに高くなっているし、特にサイドは個々で勝負できるようになっている。そこは自信を持っていいと思う」(田中)
この2連戦の中でほとんどの選手からブラジルに対し「怖さは感じなかった」という言葉が出てきたことに何よりも成長を感じる。1対1で常に圧倒するまでには至らないが、一方的に圧倒され続ける場面はなかった。
相手の流れに持ち込まれていても冷静に穴を見極める目は研ぎ澄まされ、それを生かす絵を共有できていたからこそ生まれた得点の数々は大きな収穫だ。そして第1戦では2点のビハインドを巻き返す粘り――監督が代わったばかりのブラジルと言えども、世界レベルを相手に池田体制になってからは初めて粘りのゴールを見ることができた。
アウェーの風を受けながら、ブラジルの地でなでしこジャパンが示した攻撃は必然の流れ。最終予選につながるポジティブな改善要素を得る2連戦になった。
◆パリ五輪(女子)アジア最終予選
※ホーム&アウェー戦で上回ったチームがパリ五輪出場
2024年2月24日 第1戦 北朝鮮女子代表×なでしこジャパン
2024年2月28日 第2戦 なでしこジャパン×北朝鮮女子代表
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。