熊本で復活した東京五輪世代MFは「引く手数多」 J2→J1へ…“個人昇格”の可能性ある11人【コラム】
J1昇格の町田、磐田、東京V所属や、実績十分な選手は対象外
今シーズンも、J2では多くの選手の輝きが見られた。「FOOTBALL ZONE」では、「Jリーグ通信簿」の特集を展開。そのなかでもJ1に“個人昇格”しうる選手をピックアップする。なお、J1昇格を果たしたFC町田ゼルビア、ジュビロ磐田、東京ヴェルディの選手やJ1からの期限付き移籍で活躍が目立った選手、また乾貴士(清水エスパルス)のように、すでにJ1での実績が十分な選手は対象外とした。(文=河治良幸)
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2トップはプレーオフに進出したジェフユナイテッド千葉で13得点3アシストを記録した23歳の小森飛絢と水戸ホーリーホックで9得点6アシストの安藤瑞季。小森は今シーズンのJ2で最も飛躍した1人。178センチと大柄ではないが、推進力が高く、ファーストタッチで前を向いて、グンと加速してからのフィニッシュは目を見張る。
現在、サンフレッチェ広島に所属するFW加藤陸次樹が大卒1年目にツエーゲン金沢で13得点を挙げたケースに似ている。彼はその後、セレッソ大阪で2シーズン半プレーして広島に移籍したが、小森も加藤のようなスピード感で、J1有数のストライカーになっていくポテンシャルは十二分にある。24歳の安藤は高卒で加入したセレッソ大阪でなかなか芽が出ず、J2だった町田を経由して水戸ホーリーホックにやってきた。積極果敢なアタッカーでありながらリーダーシップもあり、気持ちで引っ張っていくタイプ。ムラが良い意味で解消されれば、さらに良質なFWに成長しうる。
中盤は千葉の見木友哉とロアッソ熊本の司令塔である平川怜、いわきFCの攻守を統率する“静かなるキャプテン”山下優人の3人で構成した。25歳の見木は今年のオフに個人昇格してもおかしくないと見ていたが、気鋭の小林慶行監督が率いる千葉で、それまでの前線ではなくボランチを任された。J2ベストイレブンにも選ばれた田口泰士の横で、ビルドアップをサポートしながら、タイミングよくバイタルエリアに顔を出して、フィニッシュに絡む。結果は7得点3アシスト。数字だけで評価するならFWの方がゴールもアシストも増えたかもしれない。しかし、プレーの幅は着実に広がっており、上のステージでも生かされるはず。
平川は2017年のU-17ワールドカップ(W杯)で久保建英とコンビを組むなど、高度な技術で将来を嘱望されるタレントだったが、トップ昇格したFC東京で壁に当たり、武者修行先の鹿児島ユナイテッド、松本山雅FCを経てFC東京に戻ったが、出場チャンスを得られないままJ2熊本に移籍。そこでの大木武監督との出会いが、大きな転機になったことは間違いない。2列目の中央で水を得た魚のようにクリエイティブな才能を発揮して、今シーズンはキャプテンも任された。7得点9アシストという数字も見事だが、チームとしての崩しを演出できるタレントであり、引く手数多だろう。
見木や平川に比べると、地味なイメージに映るかもしれないが、山下優人はプレーの安定感と基本強度の高さは超J2級であり、良い意味でパフォーマンスに波が無い。いわきではキャプテンと言っても、激しく周りを鼓舞するようなタイプではないが、常にどっしりとしている。いわきが東北1部だった2019年に加入して、JFL、J3、J2とステップアップしてきた。このままワンクラブマンになっていく姿も見たいが、クオリティーを考えるとJ2のステージは勿体無いとも評価している。
両翼はヴァンフォーレ甲府の10番を背負う長谷川元希とモンテディオ山形で鋭い仕掛けと高精度のクロスを披露するイサカ・ゼインを選んだ。長谷川は二列目であれば中央もサイドもできるので、今回は便宜的な理由で左サイドにアサインしているが、ボールを持ったら決定的なシーンに結びつける実行力の高さが目を引く。今年のJ2では7得点6アシスト。ACLでのハイレベルなプレーも、J1で十分に通用する資質を物語る。できれば公布とともにJ1のステージに上がって欲しかったが、惜しくもプレーオフを逃してしまった。25歳でキャリアの転機にある長谷川にJ1からオファーがないはずはないが、甲府はJ2クラブとして初めてのグループステージ突破。どういう決断をするか。
町田出身のイサカは大卒で川崎に加入し、かなり期待された存在だったが、2シーズンで1試合に出場に終わり、横浜FCに期限付き移籍。J1昇格に貢献したが、山形が完全移籍で獲得した。もともと攻撃的なサイドバックだったが、山形では右ウイングで起用されることで、ボールを受ける引き出しが増えている。プレーオフ敗退ということで、山形の主翼として昇格を目指していく道も当然あるが、J1側の評価もかなり上がっているはずだ。
守備陣では河野、酒井、森の3人のセンターバックとGKに期待
センターバックは良い選手が多く、良い意味で迷ったが、個で出せる強さと存在感、そして攻撃面での貢献なども加味して河野貴志(ブラウブリッツ秋田)、酒井崇一(ザスパクサツ群馬)、森昂大(徳島ヴォルティス)の3人を選んだ。27歳の河野は北九州から秋田にやって来たが、デュエルの強さでディフェンスの中心に。跳ね返す能力が高く、左右の足で正確なロングフィードを出せる。縦に速い攻撃を掲げるチームに向いているかもしれない。
酒井は“ファイヤー酒井”の異名をとるように、ファイティングスピリットに溢れる守備が特長的で、カバー範囲も広い。3バックと4バックの両方に適応できることも、ニーズを引き上げるポイントだろう。熊本で4年間プレーしていただけに、ビルドアップにもしっかり関われる選手だ。大卒からの叩き上げだが、京都サンガF.C.のアカデミー育ちでもある。
森は開幕時に控えだったが、ベニャート・ラバイン前監督が3バックに変更した時にスタメン抜擢されて、吉田達磨監督に代わってからも4バックのセンターで重用され続けた。粘り強い守備はもちろんビルドアップでも貢献できる。びわこ成蹊スポーツ大ではキャプテンを務めており、責任感も強い。徳島のサポーターとしてはJ1昇格の要になりうる選手だけに、是が非でも残ってほしいだろうが、もしJ1で手をあげるクラブがあれば「おっ」と唸ってしまうかもしれない。
GKは最も目に付いた1人が栃木SCの藤田和輝だったが、新潟からの期限付き移籍であるため対象外に。田代琉我(熊本)はJ2でのパフォーマンスに加えて、天皇杯でも躍進を支えたことが高評価に値する。構えがしっかりしており、ビッグセーブだけでなく目立たない1つ1つのクオリティーが高い。相手FWのプレスを怖がらずにパスを捌けるので、後ろからのビルドアップに課題を持つJ1クラブは目を付けているかもしれない。もちろんJ2から、いきなりファーストチョイスとして迎え入れられることは難しいが、堂々とした発言からも気持ちの強さは感じられるだけに、厳しい競争を苦にしないはずだ。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。