川崎MF家長の“先頭ダッシュ”&全身歓喜に感じたこと 天皇杯決勝の勝負を分けたのは?【コラム】
【カメラマンの目】普段はあまり感情を表に出さない川崎MF家長が喜びを全身で表現
103回目を数えた日本サッカーにおける伝統の大会である天皇杯決勝は12月9日に行われ、延長を含む120分間を戦っても決着がつかず、勝敗の行方はPK戦へと委ねられた。お互いが10人ものキッカーを繰り出す一進一退の攻防は、川崎フロンターレの勝利で幕を閉じた。
勝利が決定するとハーフェーライン付近にいた川崎の選手たちは、殊勲のGKチョン・ソンリョンの元へと一斉に走り寄る。カメラのファインダーに捉えた歓喜する川崎の選手たちの先頭を走っていたのは家長昭博だった。普段はあまり感情を表に出さない家長にしては珍しく、喜びを全身で表現していたのが印象的だった。
川崎にとっては苦しい展開が続いた。試合開始からボールをキープするものの、柏レイソルのハードマークの前になかなかゴールへと近づけない。柏のゴール裏から試合を撮影していたが、川崎の苦戦は前半も残り時間が少なくなった時に、ようやくシュートシーンが訪れたことからも明らかだった。
そして、川崎は突破口を開けないなか、激しい守備でリズムを作っていった柏の術中に嵌るように、試合の経過とともに劣勢となる場面も増えていく。ただ、試合内容としては全体的におとなしい流れが続いていた。
それでも両チームとも体力を消耗した後半の終盤から延長戦は、守備においてボールを持った選手をマークする出足が鈍り、それが攻め合いの展開を生む。特に柏はゴールまであと一歩という場面を作ったが、両GKの好プレーによって最後までスコアは動かなかった。そしてPK戦を川崎が制し、今シーズン最後のタイトルを獲得したのだった。
J1優勝の神戸、ルヴァン優勝の福岡、天皇杯優勝の川崎は確固たるスタイルを徹底
これでJ1リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯と三大タイトルの王者が決定した。優勝の栄冠を手にした3チームを比較してみると、戦い方は2つのスタイルに分けられる。長丁場のリーグ戦を安定した守備をベースに乗り切り、攻守の切り替えを素早くしてカウンター攻撃で効率よく勝利を挙げたヴィッセル神戸は、手堅いサッカーでリーグ初優勝の栄冠に輝いた。
ルヴァンカップを制したアビスパ福岡も決勝ではタイトな守備で相手にサッカーをさせず、少ないチャンスを確実にモノにして優勝カップを掲げた。神戸と福岡は堅守速攻で成功を収めたチームだ。
対する天皇杯優勝でシーズンを締め括った川崎は、もはや説明するまでもないが今シーズンに限らずポゼッションサッカーで近年の日本サッカーを牽引してきている。チームの中心となる選手が海外移籍するなかでも、鬼木達監督によるスタイルへの追求は不変でチームのカラーとしてしっかりと定着している。
試合後、「こんな時(優勝した時)なんだから」とカメラを向けると、控え目に笑顔を見せた家長だが、彼を中心としたパスサッカーは、激しい闘志を全面に出して対抗してきた柏の守備に手こずり、この決勝の舞台では内容的には力を存分に発揮できたとは言い難いが、自分たちのスタイルを信じる揺るぎない思いがチームを一丸とし、勝利へとつなげた。
勝利へのスタイルに絶対などない。そのため指揮官が示すスタイルを選手たちがピッチでどれだけ実行できるかが重要で、明確な戦い方こそが何よりも勝利への原動力となる。そういった意味ではタイトルを獲得した3チームはそれぞれ明確なスタイルを持っていた。
苦しい展開にあっても川崎はスタイルを頑として曲げなかった。いや、鬼木監督と川崎の選手たちはスタイルを曲げる気など、そもそも持ち合わせていないのだろう。
これで2023年シーズンも終わり、いくつかのJリーグのチームは新たな戦いに向けて動き出している。横浜F・マリノス、浦和レッズ、鹿島アントラーズは新監督を迎えることを選択した。リーグ3位となったミヒャエル・スキッベが率いるサンフレッチェ広島は、指揮官の力によってチームの進むべき方向性が定まり、安定感のある戦いぶりを見せた。
浦和はマチェイ・スコルジャ監督によって、さらに完成度を増したチームを見てみたかったが、来シーズンは新たな先導者を迎えてチーム構築を目指す。横浜FMも1つの完成形を見て、さらなるレベルへと向かうことを決断した。
来シーズン、こうしたリーグの中核を成すクラブがどういった戦い方をするのか。今シーズンにタイトルを獲得したチームのように確固たる戦い方を示し、より日本サッカーを興味深いものにしてくれることが望まれる。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。