天皇杯王者の“日本代表”選出…リーグ戦の価値は? カップ戦は実力測定に難…J1上位とのプレーオフ開催も一案か【コラム】

カップ戦王者の実力測定は困難か?【写真:徳原隆元】
カップ戦王者の実力測定は困難か?【写真:徳原隆元】

24-25シーズンからアジアの大会方式変更、出場枠はJリーグの指針と合致しているか

 天皇杯を制した川崎フロンターレの鬼木達監督は「終始、柏のペースで、自分たちのサッカーができなかった」と決勝を振り返った。

 一方前週までJ1の残留争いに巻き込まれていた柏レイソルの井原正巳監督は「120分間十分にやろうとしたサッカーを続けてくれた」と、表彰式のあとに長めのミーティングを済ませ、割り切った清々しい表情を見せた。

「前線からの守備がテーマだった。前線の選手(細谷真大と山田康太)が裏を狙い、その動きに対してボールを入れていこう、と」

 指揮官の指示をアグレッシブに実践する柏に対し、背後を狙われ続けた川崎は全体が間延びして、コンパクトゾーンのなかでのシュートパスの連鎖に特徴のあるチームは、後方からの中長距離のフィードという課題をさらけ出す。結局初シュートまで40分間も要し、決定機と呼べるのは延長後半のゴミスのヘディングシュート1度だけだった。逆に柏には5~6度はゴールの可能性を感じさせるチャンスを築いていたから、薄氷の明暗を分けたのはまさに鬼木監督が語る「どんな形でもタイトルを獲り続けないと、獲れないことに慣れてしまう」クラブの歴史やメンタリティーだったのかもしれない。

 来シーズン(24~25年)からアジアクラブの大会方式が変更される。欧州ではすでにUEFAチャンピオンズリーグ(CL)とUEFAヨーロッパリーグ(EL)に色分けされてきたが、アジアも頂点を競うチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の下に、ACL2とチャレンジリーグが新設されるという。

 日本からACLEへの出場枠は3チーム。ところが日本は、2番目の席を天皇杯優勝チームに与えている。これはJリーグが掲げる「世界に伍したトップクラブが生まれ、ナショナルコンテンツとしてリーグの成長を牽引してほしい」という指針と合致しているのだろうか。

 Jリーグの底上げが確実に進んでいるのは事実だ。だから一発勝負ならJ2の上位チームがJ1のチャンピオンチームを倒すような下剋上が生まれても不思議はない状況にある。しかしJリーグは、あえてこうした戦国模様を打破するリーダーを欲し、そのために分配金も結果主義で格差をつけることにした。実際に野々村芳和チェアマンも「ACLでは常にJクラブが優勝争いを」という切なる願いを言葉にしている。

カップ戦は決勝だけが別世界、トップカテゴリー34試合の蓄積とは比較にならない

 天皇杯はアマチュアも含めたすべてのチームにチャンスが与えられているという点では、真の日本一を競う大会に映るかもしれない。だが東京・国立競技場を6万2837人が埋めた決勝に対し、準決勝は2試合ともに1万人台、準々決勝4試合の平均観客動員は7570人にとどまっている。

 日本随一のカップ戦の実態は、クラブごとの温度差はあっても、プロセスに合わせてさまざまな選手にチャレンジの場を提供し、タイトルが近づくにつれてフルメンバーを揃えて真剣の度合いを増している。もちろんそれは日本だけではなく欧州でも共有された文化で、ファンもそれをよく知っているから決勝だけが別世界になる。裏返せば、毎試合熱烈なサポーターに後押しされ全力を振り絞るトップカテゴリーでの34試合の蓄積とは比較にならない。だからこそ欧州では、カップ王者が頂点を競うCLに出場することはない。

 天皇杯決勝に限れば、昨年度の甲府(J2)の勝利は必ずしも番狂わせとは言えないし、今年もむしろ勝利に近かったのはJ1で18チーム中17位の柏だった。ただしカップ戦は大きな夢が詰まった玉手箱ではあっても、正確な実力を測る仕組みとしては精度が低い。

 これまでJFA(日本サッカー協会)はリーグ戦の文化を根づかせようと尽力してきたはずだ。だがアジアの頂点を競う日本を代表するチームの選出方法を見ると、本当にリーグ戦の重みや価値を理解しているのか疑わしくなる。どうしても天皇杯(覇者)を権威づけたいなら、せめてACLEへの出場権を巡るJ1上位とのプレーオフでも開催したほうが良いと思う。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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