久保建英は「当時、信頼を得られなかった」 ビジャレアル時代から飛躍の要因をスペイン人記者分析「ようやく出会えた」【現地発】
古巣ビジャレアル戦出場の久保が1ゴール1アシスト、MVPに輝く活躍で勝利に貢献
古巣ビジャレアル戦で1ゴール1アシストと本領発揮した久保建英は、2か月以上続いた無得点に終止符を打ち、ラ・リーガ今季通算7回目となるMVPに輝く活躍でチームを勝利に導いた。
ラ・リーガ第16節の対戦相手ビジャレアルは、久保が2020-21シーズンの前半戦に期限付き移籍で加入するも、望むような出場機会を得られず、半年後に退団したクラブだ。今季はUEFAヨーロッパリーグ(EL)を並行して戦うなか、今節開始前のリーグ戦成績は12位と不振に陥っている。
レアル・ソシエダはアンドレ・バレネチェアとモハメド=アリ・チョーが怪我、ロビン・ル・ノルマンが累積警告による出場停止、ミケル・オヤルサバルが第一子誕生により招集外。攻守の要を欠くなか、控え組中心で戦った3日前の国王杯2回戦アンドラッチ戦(1-0で勝利)から10人を入れ替え、できる限りのベストメンバーでこのアウェーゲームに臨んだ。
ビジャレアル自体はシーズン開幕からエンジンがかからない状態が続いているが、ホームスタジアム、エスタディオ・デ・ラ・セラミカ脇の広場では試合前、子供たちのミニゲーム大会が開催されるなど、家族連れが多数訪れ、和やかな雰囲気だった。
この一戦に向け、公式戦2試合ぶりにスタメン入りした久保は、いつも通り4-3-3の右ウイングでプレーをスタート。立ち上がりはマッチアップしたスペイン代表DFアルフォンソ・ペドラサに縦への突破を警戒されたため、クロスを上げていくがことごとくクリアされ、決定機を演出できなかった。
試合が動いたのは前半終了間際、久保を中心にラ・レアルが攻撃力を爆発させた時だった。まず前半38分、久保が蹴った右コーナーキック(CK)をミケル・メリーノが頭で合わせ、見事先制に成功する。さらにその3分後、マルティン・スビメンディが決めた2点目も久保のショートコーナーからのプレーが起点となった。
勢いに乗ったラ・レアルは、攻撃の手を緩めることなく畳み掛け、アディショナルタイムに待望の瞬間が訪れる。前半49分、ミケル・メリーノのパスをボックス内で受けた久保はそのままゴールへと向かい、公式戦13試合ぶりとなるゴールを叩き込んだ。
短時間で3点のリードを奪ったソシエダは後半、意識的に守備的な戦術をとり、チーム一丸となってビジャレアルの猛攻に耐え、最後まで失点を許すことなく3-0の勝利を達成。勝ち点を29に伸ばし、暫定ながら5位に浮上した。
スペイン各紙も高評価「ついに決めた」「対峙するたびに不安を与えていた」
全得点に絡む活躍を見せ、今季のラ・リーガ通算7回目となるMVPに輝いた久保は試合後、バスクダービー以来となった得点に「嬉しかったよ。久々のゴールで安心感があった」と安堵した表情を見せていた。
当然ながらビジャレアル戦翌日のスペイン各紙の評価は軒並み、久保を絶賛するコメントとともに高かった。ラ・レアルの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」は、「9月以来となるゴールをついに決めた。さらに久保の蹴ったCKから最初の2点につながり、常にいいプレーを見せていた」と評し7点(最高10点)をつけた。
もう1つの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」も、「直近の試合と比較して大きく改善されていた。素晴らしいボールコントロールから右足で冷静に得点を挙げ、先制点のシーンではミケル・メリーノに正確なCKを送り、2点目ではザハリャンとともにプレーに関与した。対峙するたびペドラサに不安を与えていた」と寸評し4点(最高5点)。全国紙「AS」の評価は最高の3点、「マルカ」紙は2点(最高3点)だった。
試合後、スペインのラジオ局「カデナ・セル」で、ビジャレアルを含むバレンシア州のスポーツ全般を広くカバーするフラン・グアイタ記者に、ビジャレアル時代と現在の久保について話を伺った。
「今日は古巣との対戦とあって、久保のモチベーションは非常に高かったはずだ。ビジャレアル相手に披露したパフォーマンスを見ても分かるとおり、ラ・レアルのプレースタイルは久保に完璧にフィットしている」
「ビジャレアルでは当時、彼にあまり気を配っていなかったし、成長の余地がほとんどなかったと思う。だが彼は今、自分にとって完璧な場所、完璧な監督、完璧な環境にようやく出会えたようだ。ビジャレアル時代と特に大きく変わった点を挙げるとすれば、それは得点力を大幅にアップさせたことだろう。攻撃の選手はゴールを決めることでのみ成長できる、とも言うことができるからね」
ビジャレアル時代に成し遂げられなかった久保の「成功の要因」とは?
さらにフラン・グアイタ記者は、久保がビジャレアル時代には成し遂げられなかった成功を、ラ・レアルで収めている理由についてはイマノルの存在が大きいと考えている。
「監督の信頼を勝ち取ったことが成功の大きな要因の1つだ。彼はここビジャレアルで当時、熾烈なポジション争いに遭い、レギュラーメンバーに割って入ることができなかったし、ウナイ・エメリの信頼も得られなかった。今は全幅の信頼を寄せられ、違いを生み出す選手にまで成長し、攻撃のリーダーとしての役割を担っている。さらに彼の周りにはオヤルサバルのように自分のことを完璧に理解し、信頼し合える選手たちがたくさんいる。久保が上手く機能できる相性の良いチームは、今のところスペイン中どこを探しても、ラ・レアル以外に存在しないと私は思っている。それくらい上手くマッチしているよ」
チームは先月のインターナショナルブレイク後からクリスマス休暇まで、週に2試合を戦い続ける過酷な時期を過ごしている。疲労の蓄積により勝ち切れない試合はあったものの、懸念されたような事態に陥ることなく、先月4日のFCバルセロナ戦の敗北を最後に公式戦ここ7試合負けていない(5勝2分)。
この良い流れのまま、中2日で現地時間12月12日にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ首位通過を懸け、敵地でインテル(イタリア)との一戦に臨むことになる。この大一番に向け、再び目に見える結果を残した久保の連続得点を期待したい。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。