「2026年W杯優勝」も夢物語ではない 森保ジャパン、カタールW杯からの成長の軌跡…対アジア“隙なし”の要因は?【コラム】
2023年は8勝1分1敗で終了 実り多き1年となった
日本代表は2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)で大会優勝経験のある強豪ドイツとスペインを撃破するという歴史的偉業を達成しながら、クロアチアに決勝トーナメント1回戦でPK負けし、悲願の8強入りをまたしても逃した。
PKを外した南野拓実(ASモナコ)や三笘薫(ブライトン)が号泣し、キャプテンの吉田麻也(LAギャラクシー)も「悔しいです。明日もみんなで練習したかった」と涙声でコメンするなど、彼らは世界の壁の高さを改めて実感することになった。
それから4か月が経過した2023年3月。第2次森保ジャパンが発足。吉田や長友佑都(FC東京)、酒井宏樹(浦和レッズ)、川島永嗣ら長年代表をリードしてきたベテランが外れ、20代前半の菅原由勢(AZアルクマール)や中村敬斗(スタッド・ランス)ら新顔が加わるなど、彼らはフレッシュな陣容で新たな一歩を踏み出した。
指導スタッフも森保一監督と長年、二人三脚でやってきた横内昭展コーチ(ジュビロ磐田監督)や上野優作コーチ(FC岐阜監督)らが去り、名波浩・前田遼一両コーチが新たに就任。日本代表でも活躍した彼らに指揮官は攻撃の新たなエッセンスを加えてもらおうと試みたのだ。
その1つが、サイドバック(SB)を中に絞らせる形でのビルドアップだ。カタールW杯で強豪相手にほとんどボールを保持できなかった反省から、支配率アップを目指した指揮官はより効果的な組み立てができるチームを目指し、3月のウルグアイ(東京・国立)、コロンビア(大阪・ヨドコウ)の2連戦では特にその点に注力した。しかしながら、選手たちが頭でっかちになる傾向が強まり、各駅停車のパス回しが増え、攻めのダイナミックさが影をひそめる格好となってしまった。
新体制初黒星を喫したコロンビア戦後には、堂安律(フライブルク)が「リーグを批判しているわけじゃないけど、『Jリーグっぽいサッカー』をしている感覚が僕の中にあった。欧州はもっと縦に早くゴールに向かっていくし、攻守が常に入れ替わっていく。そのプライオリティーを忘れちゃいけない」と苦言を呈したほど。この発言には賛否両論も沸き起こったが、欧州5大リーグで実績を残しつつ、カタールW杯でも2ゴールを挙げたアタッカーの意見は重く受け止められた。
森保監督らコーチ陣も「優先順位の一番はゴールに直結する攻撃」だと再確認。ポゼッションに関しても「サッカーはボールを握っているほうが有利だが、数字に囚われてはいけない。僕自身は『(日本)40%・(相手)60%』が一番、日本の勝つ確率が高いという感覚で捉えている。そこはスタッフの間では共有しています」とも指揮官はコメントしていた。3月初陣2連戦でいきなり壁にぶつかったことで、森保監督や選手たちの目指すべき方向性がより明確になったのは確かだ。
9月シリーズのドイツ戦でW杯からの成長を証明
コンセプトを徹底したうえで6月シリーズに挑んだところ、日本代表の試合内容は目に見えて向上した。森保監督が4-2-3-1から4-3-3(4-1-4-1)に布陣変更したのもプラスに働き、得点への迫力と推進力がグッと高まったのである。エルサルバドル戦(豊田)は相手が開始早々に退場したことあって大勝ムードが漂ったが、2022年6月に0-3で完敗したペルーに4-1で勝ち切ったことで、チームが上昇気流に乗り始めたと言っていい。
そのうえで、2023年最大の山場となる9月シリーズを迎えた。対戦相手はドイツとトルコ。特にドイツ戦はカタールW杯で苦杯を喫した相手側からのオファーによって再戦が決まったカード。2024年に自国開催の欧州選手権を控えたドイツは低調なパフォーマンスが続いており、ハンジ・フリック監督(当時)が解任危機に瀕していた。彼らが本気で勝ちに来るのは当然で、日本としても最高のシチュエーションでのアウェー戦となった。
そこで森保ジャパンの面々は序盤から躍動。伊東純也(スタッド・ランス)が開始11分に先制弾をお見舞いする。その後、レロイ・サネ(バイエルン・ミュンヘン)に1点を返されたが、前半22分には上田綺世(フェイエノールト)が2点目をゲット。2-1で前半を折り返すと、後半にも途中出場の久保建英(レアル・ソシエダ)の巧みなお膳立てから浅野拓磨(ボーフム)と田中碧(デュッセルドルフ)がダメ押し点を奪い、終わってみれば4-1。日頃は辛口評価の多いドイツメディアも完敗を認め、フリック監督も更迭の憂き目に遭った。
この試合のボール支配率は33%。カタールW杯対戦時の26%からは上がっており、新たな意識づけの成果が少なからず出た印象だった。続くトルコ戦(ゲンク)もスタメンをガラリと入れ替えて4-2で勝利。代表定着したばかりの中村敬斗がゴールし、新戦力の毎熊晟矢(セレッソ大阪)が存在感を示したうえで、支配率も55%記録。欧州選手権(EURO)出場国に対しても自分たちのペースで試合を進められるような力がついてきたことを示せたのだ。
10月、11月シリーズも隙なし 欧州の大舞台で躍動する選手も増加
10月のカナダ(新潟)、チュニジア戦(神戸)に関しても、三笘や鎌田大地(ラツィオ)、堂安といった主力級不在でも攻撃力が低下することなく4-1、2-0で連勝。11月のミャンマー(吹田)・シリア(ジッダ)2連戦からスタートした2026年北中米W杯アジア2次予選も「引いた相手を崩しきれない」という日本の課題を感じさせることなく、2試合ともに5-0という圧倒的な強さを見せつけた。
これで2023年の日本代表は8勝1分1敗で終了。6月からの8連勝でFIFAランキングも17位まで上がり、新キャプテン・遠藤航(リバプール)が掲げた「2026年W杯優勝」も夢物語ではなくなってきている印象だ。
今の日本代表の最大の強みは前線アタッカー陣の充実ぶりだろう。「シンプルに攻撃のタレントが多い」と遠藤も指摘したように、プレミアリーグで活躍中の三笘、リーグ・アンの看板になりつつある伊東、スペインで存在感を増している久保の3枚看板の輝きは絶大だ。鎌田や旗手怜央(セルティック)はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)、堂安も2シーズン連続でヨーロッパリーグ(EL)グループリーグ突破を果たすなど、彼らの高度な経験値が代表のレベルアップつながっているのは間違いない。
FW陣も上田が今季CL初参戦。古橋亨梧と前田大然(ともにセルティック)も2年連続で欧州大舞台に立っており、ドイツの浅野含めて世界最高峰基準を日々、体感できているのは非常に大きいと言える。
ボランチの遠藤や守田英正(スポルティング)、最終ラインの要・冨安健洋(アーセナル)、9月以降定着してきた町田浩樹(ロイヤル・ユニオン=サン・ジロワーズ)、右サイドバック(SB)の菅原なども欧州舞台を経験。だからこそ、ドイツやトルコと対峙しても全く物怖じせずに普段通りのプレーができているのだ。
守備陣の不安は拭えないが、アタッカー陣は充実
分厚い選手層、そして彼らの能力を最大限に引き出す柔軟な布陣変更やポジション変更が第2次森保ジャパンの飛躍につながっているのは紛れもない事実。ここからパリ五輪世代以下の若い世代も台頭し、2026年W杯の時点では全ポジションで穴のないチームになっていれば、悲願のベスト8入りはもちろんのこと、より高みに上り詰めることも不可能ではなさそうだ。
さしあたって、彼らは2024年1~2月のアジアカップ(カタール)に挑むことになる。ここへきて冨安が負傷離脱し、板倉滉(ボルシアMG)や伊藤洋輝(シュツットガルト)も長い怪我から間もなく戻るところで、守備陣の不安も拭えないが、前線アタッカー陣は充実している。個のタレント力を前面に押し出し柔軟な戦い方ができれば、5度目の戴冠は叶うはずだ。
まずは1つ1つの戦いを確実に勝利し、チームとしての完成度を高めていくこと。そうやって2024年の日本代表には着実な前進を続けてほしいものである。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。