今季J2「期待以上&期待外れ」だったクラブは? 町田・群馬・藤枝を一定評価…PO敗退の清水「戦力を考えれば…」【コラム】
未知数だった黒田監督体制でリーグ優勝した町田、“昇格組” 藤枝の健闘も
J2リーグは今季も、昇格を懸けた熾烈な争いが繰り広げられた。最終節、昇格プレーオフを終えFC町田ゼルビア、ジュビロ磐田、東京ヴェルディの3チームがJ1への切符を手にしている。「FOOTBALL ZONE」では、シーズンを通した「Jリーグ通信簿」の特集を組み、今回はJ2クラブに焦点を当てて“期待以上&期待外れ”のそれぞれ3チームを考察していく。(文=河治良幸)
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【期待以上】
■FC町田ゼルビア 最終リーグ順位:1位(来季J1昇格)
高校サッカーで経験豊富とはいえ、 Jリーグ初挑戦の黒田剛監督を元鳥栖の監督である金明輝コーチが支えるという体制で未知数だったが、 J1に昇格するという目標から逆算して、ある種の割り切った“ストロングスタイル”を構築して、貪欲に勝ち点を重ね続けた。
現場をバックアップする強化部のサポートも素晴らしく、J2規格外と言われたエリキはもちろんのこと、夏に補強した鈴木準弥などが2段ロケットの役割を果たした。 J1ではより自分たちから主導権を握る戦い方も導入したいようだが、相手より走り、球際で負けないという原点は継承されるはず。あとは J1の戦いを見越した補強も鍵になってくる。
■ザスパクサツ群馬 最終リーグ順位:11位
“組長”こと大槻毅監督の指導力が実る形で、終盤戦までプレーオフの可能性を残しての11位フィニッシュは見事だった。20位でギリギリ残留した昨シーズンも、前半戦は上位争いに顔を出すパフォーマンスを発揮しており、群馬の選手に聞いてもシーズン戦い抜く“体力”がポイントになった。
ただ、大槻監督もクラブも個人昇格というものを引き留める方針はなく、夏には前半戦のエースだったFW長倉幹樹が J1新潟に旅立った。そうした“育てて送り出す”基本プランは来シーズンも変わらないが、地盤をより高めることで、インアウトの質を底上げしながら昇格ラインを争うチームになっていけるか。“組長”の手腕に期待だ。
■藤枝MYFC 最終リーグ順位:12位
理論を持つ熱血漢として知られる須藤大輔監督のもと、考えながらハードワークするサッカーで“昇格組”としては12位でフィニッシュ。勝利のなかにはホーム清水戦なども含まれており、基本的にボールと主導権を握ることを目指しながら、試合によっては堅守速攻に徹するなど、理想と現実を上手く出し入れしていた。
チームリーダーのMF杉田真彦の長期離脱、MF久保藤次郎(名古屋グランパス)や渡邉りょう(セレッソ大阪)の移籍にも言い訳することなく、戦力をやりくりしてフルシーズ戦い抜いたことで、来シーズンにも飛躍が期待できる。ステップアップの事例が増えるほど、有望選手が加入してくるサイクルを考えれば、次の久保や渡邉が出てくることも期待できる。
最終節で足踏みした4位清水の露呈した弱点、16位仙台は来季からU-17代表を率いてきた森山監督が就任へ
【期待外れ】
■清水エスパルス 最終リーグ順位:4位
4位でプレーオフ(PO)敗退のクラブをここに入れるのは心苦しいが、戦力を考えればJ2優勝で昇格できるはずだっただけに、リスペクトを込めて取り上げざるを得ない。得失点差+44は優勝した町田と同じだが、第14節のいわき戦を9-1大勝したかと思えば、無得点で敗れた試合が4つあった。
ゼ・リカルド前監督から秋葉忠宏監督に代わった第8節以降の勝ち点数は町田を上回ると言う意味では勿体無さもあるが、元々ボールを幅広く動かしながら崩すスタイルを構築しようとした流れで、あまりにも勝ち点が積み上がらなかった状況でチームを引き継いだ秋葉監督がシンプルにして“個の力”を解放する形で、結果を出してきた側面もある。その象徴的な存在が10得点10アシストを記録した乾貴士だった。
秋葉監督は選手のストレスを取り除いて、 J2では頭ひとつ抜けた個人戦術を発揮させる意味では見事だったが、守備を固められると行き詰まったり、サイドではめられるとボールホルダーが孤立して、出口がバックパスかアバウトなロングボールしかなくなるなど、引き出しの少なさというのが出てしまった。最後は痛恨のPKで追いつかれて、年間順位で上回るヴェルディに昇格を譲る結末になったが、逆転で自動昇格を逃したところから、心理面でもかなり難しいPOだったことも確かだ。
■ベガルタ仙台 最終リーグ順位:16位
昨シーズンは7位で惜しくも昇格POを逃しており、継続路線で期待は高かった。ただ可変システムをベースとする伊藤彰前監督のチーム作りが波に乗らないまま、25節で堀孝史監督に交代となると、そこから17試合で積み上げた勝ち点は16。つまり25試合で勝ち点32だった前体制より成績を下げる結果となった。
ボール保持率は多くの試合で50%を超えたが、シュート数は相手に上回られることが多かった。3-1で敗れた第36節、アウェーのジェフユナイテッド千葉戦は典型的で、倍の24本を打たれて、そのうち枠内シュートは10本。一方の仙台は半分の12本中、枠内は2本だった。来シーズンからは4世代にわたりU-17日本代表を率いてきた森山佳郎監督の指揮が決まっており、個人を伸ばす手腕、卓越したマネージメント力で3年ぶりのJ1復帰に導けるか注目される。
■徳島ヴォルティス 最終リーグ順位:15位
継続的な“スペイン路線”でベニャート・ラバイン前監督が就任。「ほかのクラブとは違う唯一のクラブにする」と誓った指揮官は前体制から引き継いだビルドアップをベースに、4トップを生かす速攻を織り交ぜるハイブッドなチームを目指したが、軌道に乗れないまま下位を彷徨っていた時期が長かった。
それでも柿谷曜一朗と森海渡の2トップを中心に、徐々に複数得点を取れるようになってきたところで、残り9試合の監督交代というのは少し理解に苦しむところもある。吉田達磨監督になって獲得できた勝ち点は11試合で勝ち点16だった。ラバイン前監督の下では31試合で勝ち点36。昨シーズン8位で昇格も期待されていたが、監督経験が無きに等しい指揮官に任せた時点で、前半戦に苦しむことは想定できただけに、ラバイン監督でシーズン全うして評価するというのが、次につながりやすかったように思う。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。