「ドイツに来た日本人として…」 日本人的勤勉さで掴んだ信頼…現地クラブ職員が描く「Jリーグに還元」の夢【インタビュー】

デュッセルドルフでクラブスタッフとして働く廣岡太貴氏(左)【写真:F95David Matthaus】
デュッセルドルフでクラブスタッフとして働く廣岡太貴氏(左)【写真:F95David Matthaus】

独2部デュッセルドルフで働く廣岡太貴氏、「日本人らしさ」で与えている好印象

 日本人サッカー選手が多く在籍するドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフで、フロントスタッフとして活躍している廣岡太貴氏。日本人的勤勉さで周囲の信頼を勝ち取ったなか、「ドイツに来た日本人として、やっぱり日本サッカーに貢献したい」「Jリーグに還元していけるようになれば」と、今後の夢を口にしている。(取材・文=中野吉之伴/全5回の5回目)

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 ドイツと日本は似ていると言われることがよくある。ともに「勤勉さ」「時間厳守」「ルールを守る」など共通の美徳があることがそのゆえんだ。

 確かにそうなのだが、勤勉さ1つを取っても、日本人的勤勉さとドイツ人的勤勉さは違う。社会的な背景やそれまでの歴史、生活習慣などで差は生じる。だから日本人がその言葉どおりにドイツで「勤勉」に取り組むと、良くも悪くもびっくりされることがある。人によってはそこにずれを感じ、ストレスになることだってある。

 ブンデスリーガ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフでスポーツ&コミュニケーション部日本コミュニティーマネージャーを務める廣岡太貴(33歳)は、日々の仕事でそうした違いと上手く向き合いながら、自分らしく取り組むことで勝ち得た信頼について話してくれた。

「ドイツ人って結構きっちりしているって言われながらもラフなところが結構あるので(笑)、確かにそういうところで違いを感じる部分はあります。僕たちが日本人らしさを失わないことでやっぱり信頼というか、『すごく真面目だ』という好印象を持ってもらえていると思います。少なくとも日本人がやっていることはネガティブではないんじゃないかなと思います」

 最近は世界中のクラブがSNSを最大活用して広報活動を展開している。日本人選手が所属している・いないに関係なく、日本語アカウントを持っているクラブも増えてきた。そんななか、デュッセルドルフで広報として日々活動している廣岡は、どのように独自のものを生み出し、他クラブとの違いを作り出そうとしているのだろうか。

「僕は今、チームにいつも帯同していますし、本当にすごく近いところでチームの最新状況を見て、感じて、それをX(旧ツイッター)やインスタグラムといったSNSで発信しています。その内容はフォルトゥナならではなんじゃないかなと思っています。ほかのブンデスクラブでも日本語アカウントがあるところはありますが、多くは外部発注でやっていると思うんですよね。日本人の方から『いつも日本語で発信ありがとうございます』という声をいただけるのは、すごく嬉しいですね。大きなモチベーションになります」

欧州で活躍する選手だけでなく「指導者やスタッフの日本人もレベルアップしないと」

 2020年にデュッセルドルフのフロントスタッフとして正式採用されてから3年が経った。廣岡は将来をどのように考え、どんなキャリアをイメージしているのだろうか。ドイツのプロクラブで仕事をしている今、どこへつながっていくのだろうか。

「それがあんまり定まっていなくて(苦笑)。キャリアプランの話を聞くと、『目標から逆算しなさい』とよく言われるじゃないですか。でも、今は本当に目の前のことを精一杯全力でやるということしか考えていないんです。『これになりたいからこれをやる』というのではなくて、本当にもう今与えられている仕事や役割を全力でやり続けていく。その先で何かが見えて、そこからまた進んでいってというのはあるかと思います」

 未来は分からないから面白い。かつて廣岡が選手としてドイツへ渡った頃の思いもそうだったのかもしれない。自分ができる限りのことにチャレンジしてきたから、今の自分がある。

 広報としてメディア活動やマーケティング活動をし、スポンサー企業を募り、地域貢献活動にも精を出す。選手と丁寧にコミュニケーションを取ってサポートし、チームのために尽力する。そうしたなかで培った経験はとても価値あるものだ。

 そして、それは自分だけのものではないと廣岡は考えている。

「ドイツに来た日本人として、最終的にはやっぱり日本サッカーに貢献したいというのは、すごく強く思っています。こうやってドイツで日本人が経験したことというのは、多分ドイツ人がドイツで経験しているのを日本人に伝えることとは全然違うと思うんです。

 うちの選手ともよく話をしますけど、僕は選手だけがステップアップしていくんじゃなくて、指導者やスタッフの日本人もレベルアップしていかないといけない。だから、ドイツに来て、こっちのサッカーを通じて仕事をしてきた人間として、自分のためじゃなくて、何か学んだことを日本サッカーに還元していくっていうのは一番大事なところかなと思いながらやっています。

 もちろんJリーグのいいところも絶対あるし、日本だから変えられない部分もある。だからブンデスリーガのいい部分を深いところから知って、『ここはこうしたら、こんなふうに良くなるよ』というところを明確かつ丁寧に伝えられるようになって、そうやって無理なくJリーグに還元していけるようになればと考えています」

(文中敬称略)

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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